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第49話 叫びと『声』


「なっ―――!!」

「くぅッ――――!!

《ローバスト・ウォール》!!」


一番近くにいたスクトとローブの人物が真っ先に飲み込まれかけるも―――スクトは瞬時に防御魔法を展開し、自身と隣にいるローブの人物を守った。


次いで、漆黒の魔物の群れは―――フィル達の方へと、襲い掛かる!


「―――!!

 ロクスッ!!」

「―――っ―――!!」


―――バッッッ!!


ウィデーレがロクスを連れて即座に空中に脱し―――


「兄様ッ!!」

「イーラ!!

 おいアンタ、掴まれ!!」

「うおッ――――!」


イーラが『黒い翼』を生やし、兄であるトリスティスを抱え――

そしてトリスティスはビリヴの腕を掴み、共に上空へと逃れ―――


「お嬢様ッ!!」

「きゃあッ!!」


プランティがスリーチェの身体を抱え、即座に後方へと飛び退く―――


だが―――


「キュルルッ!!??

 これって―――《ダイナミック・マリオネット》!?

 どうして、急に―――!!」

「フィルッ!!

 危ないですわ!!」


フィルは突然のキュルルの変容に動揺し、身体が一瞬硬直してしまい―――

アリーチェはそんなフィルに気を取られ―――


―――ドッッッッッッッッッ!!


「がッ―――――!!」

「あぐッ―――――!!」


漆黒の魔物達―――凄まじい速度で迫りくる膨大な質量を、その身に受けてしまう―――!


「お姉さまッ!!

 フィルさんッ!!」


スリーチェの悲鳴のような叫び声が上がり―――


―――ズザッッッ………!!


2人は、地面の上を転がった。


「う……ぐ……あ、アリーチェ、さん……!!」


フィルは顔や腕に深い擦り傷を負いながらも、共に吹き飛ばされたアリーチェの身を案じた。


「だ、大丈夫……ですわ……!

『アーティフィシャル・フラワー』がありましたから……大事には、至っておりません……!

 しかし………機能が……!」


彼女の言う通り、纏っていた『装甲』のおかげで、アリーチェの身には目立った外傷はなかった。

但し、衝撃を完全に無力化出来たわけではなく―――またその負荷により、身体補助機能が上手く働かなくなってしまったようだった。


「くッ……『強制解除』!!」


―――バシュッ、バシュゥッ!!


アリーチェはもはや重りとしかならなくなってしまった『装甲』を己の身から強制的に解除(パージ)する。

脆弱な身体を晒すことになってしまうが、背に腹は代えられなかった。


「すみません……!

 僕の所為で……!」


「いいえ……わたくしの不注意の結果ですわ……!

 それよりフィル……貴方の方こそ……!」


「僕も――大丈夫です……!

 プランティさんの『土の皮膚』のおかげで……!」


フィルもまた、未だ制服の下に展開されているプランティの《クレイ・スキン》により衝撃は軽減され、どうにか動けていた。


そして2人は―――改めて前方を見た。


漆黒の魔物が暴れる、その光景を。


そして――――


「ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううッッッッ!!!!!!!」


漆黒の魔物を生み出しながら―――悲痛な叫び声を上げる、その黒い魔物の少女を。


「キュルルさん……一体アナタは、どうなって……!?

 とにかく、今は離れなければ―――」


「―――駄目です」


「え?」


フィルは、魔物の少女を―――キュルルを真っ直ぐに見つめ、告げた。


「キュルルは―――僕を呼んでる……!!」


フィルには―――キュルルが何を叫んでいるか、分かってしまった。



「フィ―――ルぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううッッッッ!!!!!!!!!」



彼女は―――1人の少年を、ずっと求めていた。


「ぐっ―――!

 これは――魔力の暴走か――!?」

「恐らくは……!

『アレ』が『魔王』に目覚めた時にも起きましたが……!

 その時以上の……!」


そんな魔物の少女の叫び声と、漆黒の魔物の群れの中で防御魔法を展開しているスクトが呻くように呟き、ローブの人物がそれに応えた。


「『組み換え』作業により、あの『魔王』の人格形成に関わる部分に触れてしまい―――精神の均衡を乱してしまったようです……!

 状況が状況だけに、細かい調整をおざなりにしてしまったのが痛かった……!」


そう話しながら、ローブの人物はギッ……と歯切りをする。


「このまま魔力を暴走させ続けたら―――あの『魔王』の身が持たず……!

 最悪の場合―――跡形もなく消滅しかねない―――!!」


「―――――」


そのローブの人物の言葉が―――フィルの耳には届いてしまった。


そして、その少年は―――


―――ダッッッッ!!!


「キュルルーーーーッッッ!!!」


漆黒の魔物を生み出し続ける、その魔物の少女の元へ、駆ける―――


「フィル―――駄目!!

 フィルッッッ!!!」


そして―――それを見ていた、自らの足では歩くことすらままならない少女が―――


―――バッッッッ!!!


少年を追い―――自らの足で―――()()


「えっ―――――?

 お姉さま―――走って―――!?」


本来であれば勢いよく立ち上がるだけでも倒れてしまうはずの姉が、その足で走る姿にスリーチェは驚愕の声を上げる。


だが―――すぐにそんなことを気に掛けている場合ではないことに気付く。


フィルとアリーチェの2人が―――


―――ドォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!


漆黒の魔物の群れの中に、飲み込まれようとしていたのだから―――


その暴力的な質量は、2人を一瞬で肉塊に変えてしまうことを―――その場の誰もが理解できてしまった。


誰が止めようとしても、もう間に合わない。



もはやその結末を、変えることは―――――












『ダメ!』












「「「「「――――!!??」」」」」


突如――――この場に『声』が響き渡った。


今まで誰も聞いたことのない、幼い少女のような『声』だった。


そして、その『声』が聞こえた瞬間―――


「―――――」


キュルルの叫び声が止まり―――キュルルの身体から溢れ出していた漆黒の魔物達も、まるで時が止まったかの如く動かなくなった。


『ダメだよ……『ソレ』はダメ。

 アナタの大切なモノを―――アナタの手で壊したりしちゃ、絶対にダメ』


『声』は優しくこの場に響き―――それと同時に、キュルルが生み出した漆黒の魔物達も、溶けるように消え去る。


誰もが、その謎の『声』に困惑を隠せずにいる中――――



「スクト―――今の『声』は―――!!!」



ローブの人物―――そして、スクトが―――口を開く。



「ウルル――――!」



その名を上げた時のスクトの声は―――様々な感情が入り乱れていたように聞こえた。


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