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第46話 イーラとフィルと規格外


「―――っ……!!!

 イーラさん……!!!」


凄まじい衝撃に吹き飛ばされかけたフィルは、巨大な『黒い包丁』を地面へと突き刺すことでどうにか耐え、その名を呟いた。


アリーチェとプランティの2人は後方へと吹き飛ばされてしまったらしい。

無事かどうか気にはなるが―――あの2人なら大事にはなっていないはずだと、今は目の前に視線を集中する。


今この場には―――大量の砂煙が漂っていた。


イーラさんは―――あの2人は、どうなった―――!?


フィルがそんな焦燥感に苛まれている内に、砂煙の一部が晴れる。


そこには―――



「はぁッ………はぁッ………!!」



腕や額から血を流し、荒い息をつきながらも―――


その足でしっかりと大地に立つ、イーラの姿があった。


「イーラさん!!!」


フィルは顔に喜色を浮かべながら、彼女の元へと駆けようとし―――



―――ズォオッッッッッ!!!!!


「――――!!!!」



未だ漂う砂煙の中から伸びて来た巨大な『氷の腕』に―――フィルは声を失う。


―――ガッッッッッッ!!!


『氷の腕』はイーラを鷲掴みにし、その身体を天高く掲げる。


そして、砂煙が完全に晴れたそこには―――



「「イーラァァァァァ………!!!」」



片腕を失った『氷の胸像』と―――胸元近くまで崩壊が進みつつあるポエナが―――


正気を失った瞳で、獣のような唸り声を上げていた―――


「くぅッ―――イーラさんッッ!!!」


フィルはすぐにイーラの元に駆けつけようとする、が―――


―――ピキピキピキピキキキィィイイイ!!


「―――!!!」


『氷の胸像』からまたも『氷人形』が生まれ、フィルの進路を塞ぐ。


―――ピシッ、ピシィッ、ピシィィィ!!!


そして『氷人形』が生まれるたびに『胸像』の胸元にいるポエナの身体がひび割れていく。


自らが崩壊していくことも構わず、彼女は『氷人形』を作り出し、自らの『望み』を邪魔する者の排除に動き続ける。


「「絶対に……絶対に邪魔はさせない……!!!

  私は……私は『あの人』に……もう一度………!!!」」


「姉、様―――」


イーラは―――何の抵抗も見せなかった。


巨大な氷の掌に包まれながら―――ただ一言、告げた。



「これで―――終わりです」



ポエナは―――その瞳を、見開いた。


イーラを握りしめている巨大な氷の手の―――その先。


そこには―――先程イーラが放ったはずの『黒い閃光』が、渦を巻き―――


ポエナにはそれが途轍もないエネルギーを秘めていることが感じ取れた。


そして、そのエネルギーの矛先は―――こちらへと、向いている―――


「私の最大魔法――《ダークネス・スパークル》

 この『黒い閃光』は、貴女の魔法のエネルギーを取り込み―――天より、堕ちる」


それは―――氷の掌に掴まれ、身動きの取れないイーラも共に巻き込まれるということ意味する。


だが―――


「姉様―――貴女が『里』から離れる時―――

 私――付いていきたい、って少し思っていたんです」


イーラは―――


「結局、あの時は―――

 何も告げずに見送りましたけど―――」


とても安らかに―――



「今度は――― 一緒に―――」



微笑んでいた――――



「そんな―――駄目だ!!

 駄目だイーラさん!!!」


フィルはイーラの意図を察し―――それを否定せんが為に動く。


僕の《バニシング・ウェイトーニアゼロ》なら―――

一瞬であそこに―――!!


だが、そう思ったフィルの眼前を―――


―――ズォアアアアッッッッッッ!!!


「うッ―――――!!!」


幾百もの『氷人形』が、埋め尽くす。


「―――どけッ!!

 どけぇええええええ!!!!」


『黒い包丁』を振り回し、『氷人形』の群れを散らしていくも―――


フィルの視界は『氷人形』の大群しか映らず、イーラと『氷の胸像』の姿は隠されてしまう。


そうしている内に、上空で渦を巻く『黒い閃光』が収縮し―――


もう―――あと数秒もしない内に堕ちるであろうことが見て取れた。


「―――っ!!

 イーラさん!!

 イーラさぁんッッ!!!!」


フィルは悲痛な叫びを上げながら、ひたすらに『黒い包丁』を振るうも―――


状況は―――もう、間に合わないと告げていた。



―――嫌だ…………!



「絶対に―――嫌だ!!!!」


そして、その時――――


フィルの頭の中に―――ある声が想起された。



『これから先、どうしようもない困難にぶつかって……

 それでも、絶対に逃げられない……もしくは絶対に逃げ出せない……

 そんな状況になったら……』



フィルは―――それ以上、考えることを止め―――


制服の内ポケットから―――小さなナイフを取り出し―――


「うああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


―――ズドッ………!!


自らの胸に―――突き刺した。


その光景を―――後方にいたアリーチェ達は、目撃していた。


「フィ―――フィル!!??

 何を―――――!!??」


突然のフィルの行動にアリーチェは混乱の元、悲鳴のような叫びをあげる。


その、次の瞬間―――――


―――ドクンッッッッッッ!!!


鼓動の音が―――この場の全てに響き渡り――――


「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!」


―――ドォォォォッッッッッ!!!!


ナイフを刺した胸から―――大量の『液体』が溢れだす。


それは血の『赤色』ではなく―――どこかのスライムを彷彿とさせる、『黒色』をしていた。


そしてフィルは―――


「《キッチンナイフ》―――!!」


木剣の柄を、正面に向けて構え―――叫ぶ。


「『規格外(スタンダードオーバー)―――――60倍(セキサジンタプル)』!!!!」


直後、木剣の柄の先に―――!



―――ズォオオオオオオオオオッッッッッ!!!



巨大な―――自らの背丈の数十倍程もある、余りにも巨大な『黒い包丁』が形成される!!


その『規格外』の《キッチンナイフ》は―――フィルの眼前を埋め尽くす『氷人形』を全て吹き飛ばし―――


『氷人形』の群れの先―――


―――バッ……キィィイイイイイイイ!!!


「―――――!!!」


イーラを捕らえている『氷の胸像』の腕を―――叩き斬る!!


突然『氷の手』から解放されたイーラは驚愕の表情を浮かべながら地面へと落下していき―――


「アリーチェさん!! プランティさん!!」


「―――――っ!!

 最大駆動ッッ!!!」

「―――――!!

 はぁッ!!!」


―――ダッッッッッッッッ!!!


イーラと同じ様に驚愕していたアリーチェとプランティは、フィルからの呼びかけにより即座に動く。


アリーチェは脚部の駆動輪を最大稼働させ、プランティは土魔法によって作り上げられた義足を用い、全力で地を蹴る。


フィルの一撃によって『氷人形』が一掃された空間を、2人は駆け―――


―――ガシッ…………!


「―――!」


地面へと落下するイーラを、受け止めた。


2人は彼女に声をかける間すら惜しいと言うように即座に反転し、その場から―――『氷の胸像』から、離れていく。


そしてそれと同時に―――



―――カッッッッッッッッ!!!!



雷の如く―――『黒い閃光』が、堕ちる。



イーラは、時がゆっくりと流れているかのような錯覚の中―――


遠ざかっていく姉の姿をその目に焼き付け―――


静かに―――呟いた。



「さようなら――――姉様」



果たして―――イーラの気のせいだったのだろうか。


その時のポエナの表情が――――安らかに見えたのは。


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