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第9話 僕達とヴィシオ領・レスピレーティア


「我が名はウェルラング=ヴィシオ=ヴァールライトッッッ!!

 この国の第3王子にしてこのヴィシオ領の第一統治権保有者ッッッ!!

 よくぞここへ来られたッッッ!!!

 我らが『ヴァール』が誇る勇者候補達よぉぉおおおおッッッッッッ!!!」


「うわぁ、またなんか物凄く面倒臭そうなキャラの濃い人が現れた」


僕はのっけからよく分からない不安に駆られるのだった……



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


話は少し前に遡り―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



《 ヴィシオ領最北部・レスピレーティア 》


「ふわぁ……ここが………!」


ウィデーレさんによるこの活動への参加意志の確認後……

僕達は彼女に連れられながら、ここ『レスピレーティア』へとやって来た。


そして僕は街に到着した瞬間に感嘆の声を上げる。

そこは王都『ヴァールディア』にも劣らない程の大都市だった。


王都と同じ様に馬車専用の道路が敷かれており、もみの木で出来た街路樹によって人が通る道と区切られている。

そして、大通りでは防寒着に身を包んだ人々が往来し、様々な声をかけあっている。

楽しそうにはしゃぐ子供達、道行く人々に商品をお勧めする商人、街を見回りする憲兵さんに「ご苦労様です」と労いの声をかけるお年寄り―――


凍えそうな外気にも負けない、活気に満ちた街を僕は口を半開きにして見つめるのだった。


「さて、既にコーディスから説明は受けていると思うけど、改めて貴方達に行ってもらう『特別校外活動』について確認するわ」


と、僕がボーっとしてる間にウィデーレさんが生徒達に向けて話を始める。

ハッ!とした僕は慌てて彼女の方へと向き直った。


「ここ最近になって、このヴィシオ領には数多くの魔物の出現が確認されるようになったわ。

 それも先程見かけたように『ナタウサギ』や『アイス・ゴーレム』などといった高危険度の……大陸西側で言えば『イエローエリア』に出てくるような魔物がね。

 貴方達にはその魔物の討伐を行ってもらうわ」


ウィデーレさんが言っていた通り、そこら辺についてはコーディス先生から事前に伝えられていたことだった。

さっきの『ナタウサギ』の襲撃に対して即座に対応できたのも、既に心の準備が出来ていたということも大きいだろう。

……まあそれにしたってもうちょっと言葉を付け足してくれてもいいのではないかと思うのだけど。


「それだけなら貴方達がこの前まで行っていた大陸西側での魔物討伐活動と同じ様なものだけれど……

 先にも述べた通りこれには私達の『元』仲間、スクトが関わっていると考えられているわ」


「っ……!」


改めて告げられた『その人』の名に、僕達は思わず反応してしまうのだった。


「実の所……当初からこの『レスピレーティア』には目を付けていたの。

 あのスクトが起こした襲撃事件よりも前……アリスリーチェさん暗殺未遂事件の頃からね」


「え……それって……?」


僕はウィデーレさんの言葉に声を上げる。


「その暗殺未遂事件で使われたという仕事道具……その中でも音と魔力を遮断する結界を作り出す『サイレンス・ストーンズ』は『ヴィシオ領』で作られたであろうと当たりを付けていたの。

 あのレベルのマジックアイテムはまず間違いなくここの技術が必要になるはずだからね」


そういえば『ナタウサギ』との戦闘が始まる前にアリーチェさんがこの『ヴィシオ領』は大陸随一のマジックアイテム生産地域、って言ってたっけ。

確か、その後続けて何かを言おうとしていたみたいだけど……


「そしてここ『レスピレーティア』は『ヴィシオ領』の中で最もマジックアイテムを生産している場所。

 当然真っ先に調査対象になったのだけれど……その時は大した情報は得られなかったわ。

 まあ、その頃はまさか事件の首謀者が私達の『元』仲間だったなんて想像もしていなかったし、そこまで大々的に調査を行ったわけではなかったのだけれど」


「ちなみに『ガーデン家』も独自に調査はしておりましたのよ。その頃はわたくし達の身内の問題かもしれない、という可能性もありましたからね」と、隣にいるアリーチェさんから説明を添えられた。


「けれど、あの大陸西側での魔物襲撃事件が起き、首謀者の存在が明らかになり……

 私達は本腰を入れてこの『ヴィシオ領』の調査へ乗り出した……

 そして―――そのタイミングで、この地域の魔物の出現数が増加し始めたの」


「―――!」


僕のみならず、生徒達全員が息を飲む。

明らかに不自然な……人為的であることを疑わざるを得ない魔物の増加現象……

これは………


「これは、ほぼ確実にスクト達の仕業である……と、私達は結論付けたわ。

 まあ、私達でなくても想像できることだけどね」


今回の活動にはスクトさんが関わっている……事前に聞いていたことではあったけど……その具体的な内容に触れられ、生徒達の間にも否応なしに緊張が走っていた。


「よろしいでしょうか?」


と、僕達が押し黙っていると――隣にいるアリーチェさんから声が上がった。


「この魔物出現の目的は、貴女達にこの地域の調査を邪魔させるものである……と考えてよろしいのでしょうか」


「単純に考えるのなら、そうなるかしらね。

 事実、魔物による被害はここに来た調査隊にも出ていて……魔物の討伐に私まで駆り出される事態になってるわ」


「おかげで大陸西側の調査も完全にストップしちゃって、ホント参っちゃう……」と、彼女は愚痴をこぼすのであった。

どうやら彼女はこの活動のために呼ばれた訳ではなく、ここの魔物討伐の為にもっと前から呼ばれていたらしい。


「ちなみに今まではずっと私1人でこの街の周囲の魔物を掃討していたんだけど、さっきは貴方達の実力を測る為にわざと放置してけしかけてみた訳ね。

 勿論ヤバそうだったら助けに入るつもりではいたけど」


「え……1人で……?

 あの数の魔物を……ずっと1人で……?」


一瞬何を言っているのか分からなくなってしまった僕は、改めて勇者一行の皆さんの規格外っぷりに閉口してしまうのであった……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「さて、それで貴方達に魔物討伐を行ってもらう場所なのだけど……

 この『レスピレーティア』周辺に加えて、もう一つ存在するわ」


「もう一つ……?」


ウィデーレさんの言葉に僕が疑問の声を上げる。


「そこに関しては私よりも『あの人』からの方が……あ、丁度来たわ」


「え?」


彼女がそんな言葉と共に顔を横へと向ける。

つられて僕達もそちらへ振り向くと―――


「んなぁッ!?」


僕は……いや僕だけに限らず、その場の生徒全員が驚愕と困惑の声を上げた。


そこには………いや、その、なんと形容すればいいものか……

物凄く大きい『箱』が存在していた。

その『箱』の側面には巨大な4つの車輪が付けられており、全面や上部にはとても豪勢な金色の装飾、鳥の像などが施されていて……

見ようによっては引いている馬がいない馬車のキャビン……と言えなくもないかもしれない。


そんな巨大な車輪付きの『箱』が……馬車道の奥からこちらへ向かって独りでに移動してきていた。

そういや気が付けばさっきまで往来していた沢山の馬車の姿が見えなくなっている。


その『箱』は僕達の前まで来るとピタリと止まると……


―――プシュー……!


「わっ!?」


突然、煙を噴き出し始め―――


―――パカンッ……!!


『箱』が、左右へと開くと―――


そこには―――とても上質な毛布で出来たマントを纏った人物が背を向けて立っていた。


そして―――


―――バッッッ!!!


マントを翻しながら―――彼はこちらへ振り返り、叫ぶ。


「我が名はウェルラング=ヴィシオ=ヴァールライトッッッ!!

 この国の第3王子にしてこのヴィシオ領の第一統治権保有者ッッッ!!

 よくぞここへ来られたッッッ!!!

 我らが『ヴァール』が誇る勇者候補達よぉぉおおおおッッッッッッ!!!」


そして、冒頭の僕の台詞へと戻るのだった。


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