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第7話 貴女と君と僕の一撃


「きゅーるるるーーー!!」

「フィル!急いでください!

『アイス・ゴーレム』が本通りに辿り着くよりも前に倒さなくては!

 貴女達! こちらに向かってくる『ナタウサギ』の相手は任せましたわよ!」

「「「承知しました!!」」」


「ちょ、ちょっと待って……!

 雪で足が取られて……!」


僕達は先程まで居た石畳の端から先―――積もった雪の上を疾走していた。

その向こうに見える『アイス・ゴーレム』の元へ行く為に――!


ちなみに僕は積もった雪のことなどまるで苦にせずに疾走するキュルルとアリーチェさん、ファーティラさん達の後を必死になって追いかけている……

一応今の僕も《バニシング・ウェイト-1/2(ハーフ)》を使っており、普段より速く走れるはずなのだけどなぁ……


と、そんなことより―――!


「アリーチェさん!

 左右から『ナタウサギ』の群れが!」

「ファーティラ!!

 ウォッタ!!

 カキョウ!!」


「「「はっ!!!」」」


アリーチェさんの号令がかかるや否や、3人は即座に動き―――!


「《サンダーボルト・ウォール》!」

「《アクア・ヴェール》!」

「《風舞・閃陣(せんじん)》!」


「「「「キュギィイイイイイッッッ!!!」」」」


ファーティラさんの『雷の壁』、ウォッタの『水の幕』、カキョウさんの高速移動を駆使した『斬撃の嵐』によって―――数十匹の『ナタウサギ』の強襲を防ぎ切る!


そして、僕とキュルル、アリーチェさんはそんな彼女達を追い抜き―――!


―――ドスッ……ドスッ……ドスッ……!


こちらへと歩を進める『アイス・ゴーレム』の目前へと至る―――!


「この『ゴーレム』を倒すには―――復元が間に合わない程の速さで、その身体を三分の一未満に削るしかありませんわ!」


そう叫んだ彼女は、右手の指先を『アイス・ゴーレム』へと向ける!

まず自らが先陣を切って攻撃を仕掛けようとするつもりのようだ!


「アリーチェさん!

『エミッション・アクア』での攻撃ですか!」


もはやお馴染みとなった彼女の高圧水流による攻撃方法。

樹木をも容易く両断するあの攻撃なら―――!


「いえ―――『アイス・ゴーレム』の身体は常に氷点下にあると言われておりますの。

 普通に『水魔法』を放っても通用しないどころか瞬時に凍り付いてしまい却って『ゴーレム』の身体の補填を手伝ってしまうことになりかねませんわ」

「えっ!?

 それじゃあアリーチェさんはどうやって―――」


と、僕が疑問の声を上げるよりも早く、彼女は―――


「言ったでしょう?

『普通に』水魔法を放っても、と。

 ですので―――『こう』しますわ」


前方へ突き出した右手に―――左手を重ねた。

そうして合わせた両手の指先を『アイス・ゴーレム』へと向け、言い放つ―――!


「《エミッション・アクア》(プラス)《エミッション・フレイム》」


「えっ―――」


僕がその言葉の意味を考えつくよりも先に―――


―――バシュアッッ!!!


アリーチェさんの重ね合わせた両掌の指先から水流が放たれ―――それが『アイス・ゴーレム』の左肩に触れた瞬間!!


―――ジュアアアアア!!!


「うおわぁッ!?

 ゆ、湯気!?」


そう―――まるで熱したフライパンの上に水を流し込んだ時のような蒸発音と共に、大量の湯気が立ち上り―――!


―――バキィィィィィィ!!!


『アイス・ゴーレム』の左腕が―――斬り飛ばされた!


い、今の水流ってまさか―――熱湯!?


「2つの属性の合わせ技……お遊びの域を出ないかと思っていましたけど、案外実戦でも役に立つものですわね」


あっけらかんとそんなことを言い放つアリーチェさんに僕はもはや開いた口が塞がらない……!

何でもアリかこの人は……!


「きゅっきゅるーーー!!

 だったらボクだってーーーー!!」


と、困惑する僕を尻目にキュルルが負けじと前に飛び出した!


「《イミテイト・オース・ブレード》(プラス)『アーム-スネイク』!」


直後、右腕に作り出した『剣腕』が巨大な『ゴーレム』の背丈を超える程に伸び―――!


「きゅぅぅぅぅらぁぁああああ!!!」


『アイス・ゴーレム』の右肩に目掛け―――振り下ろされた!!


すると―――!


―――ガッッッキィィィィィィ!!!


『ゴーレム』の右腕が―――大轟音をあげて斬り飛ばされる!


す、凄い――!

今更言うまでもないことだけど、2人とも凄すぎる――!


立て続けに見せられた圧倒的な光景に、僕は思わず言葉を失ってしまう……!


―――でも!


「「フィル!!」」


2人が――僕のことを同時に呼ぶ!


そうだ―――


僕だって―――


2人に、続くんだ!!


「【フィルズ・キッチン】!」


僕は右手に掴んだ木剣の柄の先に、イメージを浮かべる!


相手は氷――なら、ここは!


「《アイスピック》!

規格(スタンダード)3倍(トリプル)』!!」


そう叫んだ僕の右手には―――突撃槍(ランス)と見紛う黒い『アイスピック』が生まれた!


そして―――!!


「《バニシング・ウェイト-ニアゼロ》!!」


自身の重量をほぼ0にした僕は―――!


―――トッ………!


両腕を失った『アイス・ゴーレム』へと―――跳ぶ!!



―――ゴッッ……ガァァァアアアアアアア!!!!



凄まじい轟音が響いた直後―――僕は『アイス・ゴーレム』の背後へと立っていた。


僕は―――ゆっくりと後ろを振り向く。


そこには———胸から背中へ、巨大な穴を穿たれた『アイス・ゴーレム』の姿があり―――


―――ズ……オオオォォォォ………!!


身体の三分の一以上を失った『氷の巨人』が―――雪の中へと沈んでいく音が、辺りに響き渡った――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「はぁっ……!

 いっ……つぅ……!」


僕は荒い息を吐きながら、痛む頭を抑えた。


規格(スタンダード)3倍(トリプル)』と《ニアゼロ》の同時使用は少し無茶が過ぎたかもしれない……!

《ニアゼロ》の加速を乗せた3倍のサイズによる攻撃の威力は『絶大』の一言だけど……そうやすやすと使っていいものではない……!


「きゅるーーっ!

 フィルーー!!

 大丈夫ーーー!?」

「フィル!

 あまり無茶をしてはいけませんわ!!

 この前のリブラ先生に言われたことをお忘れですか!!」


駆け付けた2人が僕の様子を見て心配そうな声をかけてくる。

ううん……僕も日々成長しているとは思うのだけど……まだまだ周りの人を不安にさせる戦い方しか出来ないなぁ……


と、そんな反省会はとりあえず後回しにして……僕は生徒達の方へと目を向ける。


「おぅらあッ!!」

「ギャギィッ……!!」


そこでは―――丁度ヴィガーさんが『ナタウサギ』の群れの最後の一匹を斬り伏せた所だった。

どうやら……誰も深手を負うことなく、この場を切り抜けることが出来たようだ……!


そうして、ようやく落ち着ける状態になったことを確認した僕は、深く溜息をついてその場にへたり込むのだった。


「『選抜試験』の時点で一筋縄じゃいかない内容であろうことは分かっていたけど……

 初っ端からコレかぁ……」


これから先、僕達に待ち受けているであろう困難を想像し、僕はまた一つ深い溜息を―――


「フィル!!

 危ない!!」

「後ろですわ!!」


「――――っ!!!」


突然僕に投げかけられたキュルルとアリーチェさんの焦り声―――


僕は何かを考えるより先に右手に《キッチンナイフ》を握り、振り返る!!


「キュギャァァア!!!」


そこには―――僕に向かって頭のナタを振り下ろそうとする『ナタウサギ』の姿が!!


迎撃―――間に合えッ!!


僕の振り向きざまの攻撃が『ナタウサギ』に届くのが先か―――!

『ナタウサギ』のナタが僕の脳天に振り下ろされるのが先か―――!


現実は―――そのどちらでもなかった。



「《ファイアー・ボール》」



―――ヒュボッ………!!!!


「ギッ……!」


「え―――」


目の前にいた『ナタウサギ』の姿が『消失』したと思ったら―――


僕の顔のすぐ脇を、何かが物凄いスピードで通り過ぎて行った。


…………僕の髪の端っこがチリチリと焦げていることと、さっき聞こえた《ファイアー・ボール》って『魔法名』が聞き間違えでなければ……

『ナタウサギ』を『消失』させ、僕の傍を通り過ぎて行ったのは……多分『炎球』……だったのだと思う………


けど———今のは余りにも速過ぎる………!

目で追うことすら出来なかった……!


間違いなく、キャリーさんの上位中等魔法 《ファイアー・ジャベリン》をも超える速度だった……!!

あれが下位中等魔法の《ファイアー・ボール》だなんて……!!


と、僕が愕然としていると―――


―――ざく……ざく……


雪を踏みしめながらこちらへと歩いてくる女性の姿が見えた。


「ふぅむ、周りをよく確かめないですぐに気を抜いちゃう辺りまだまだ実戦慣れしているとは言い難いけど……反応自体は悪くないね。

 他のコ達も、実力は及第点。

 流石はあのコーディスに認められるだけのことはあるわね」


「え………」


コーディス先生の名をあげるこの水色の髪の女性は一体―――?

僕が彼女に声をかけようとする―――それよりも先に。


「ああああああッッッ―――!!!???」


ある女生徒が上げた大声に―――僕は思わず耳を疑った。

大声そのものではなく―――その声を上げた女生徒の方が、あまりにも意外過ぎて。


その女生徒の名は―――


「キャ……キャリーさん……?」


普段、常いかなるときも冷静で淡々とした声を発するはずの彼女が―――

驚愕に目を見開き、口をあんぐりとあけこちらを―――僕の目の前の女性を凝視していた。


そして、震える声で呟く。


「せ……『世界最強の魔法師』………!

 ウィデーレ=ヘイム!!!」


キャリーさんから告げられたその名に、僕は思わず「えっ!?」と声をあげて彼女へと振り向き直る……!


この人が……勇者一行のメンバーの1人の……!

あのウィデーレ=ヘイム……!?


その場の全員に驚愕の目を向けられる彼女は―――


「ふふ……中々面白くなりそうね」


ただ、不敵に笑みを浮かべるのであった———


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