第6話 僕達と氷の巨人
―――ドスッ……ドスッ……ドスッ……!
『氷の巨人』は積もった雪を掻き分け僕達の方へ向かって歩を進める……!
その全高は15メートル程もあり―――かつて僕達を苦しめたあの『水晶ゴーレム』を優に超える大きさだった……!
おまけに―――
「「「キュギィィィィィ!!!」」」
「――っ!!
また『ナタウサギ』が!!」
「おいおい……!
なんだよあの数!!」
生徒達の奮闘によって数を減らしていたはずの『ナタウサギ』が、森の中から再び現れる!
しかもその数は―――今この場にいる生徒の数に匹敵する程だった……!
突然現れた『アイス・ゴーレム』に尋常でない数の『ナタウサギ』……
二重の衝撃に僕達の思考は一瞬空白に包まれてしまう……!
「あの『ゴーレム』は私にまかせて」
「っ! キャリーさん!」
そんな思考停止状態を打ち破ったのはキャリーさんだった。
「相手は見ての通り『氷』。
なら―――」
そう言いながらキャリーさんは右手をこちらへ向かってくる『氷の巨人』へと突き出した。
そして、その掌の先に―――
―――ブオッッ!!!
「うおわぁッ!?」
直径1メートルはある巨大な『炎球』が生まれた!
「《ファイアー・ボール-ラージ》」
キャリーさんがぽつりと呟くと―――
―――ボッッッ!!!
その巨大『炎球』が放たれ――!!
―――ゴッバァッッッ!!!
「うおおっ……!」
『氷の巨人』に―――直撃する!!
その瞬間、凄まじい勢いの水蒸気が吹き上がり―――
それが晴れた時、見えたものは―――
巨大な身体の約三分の一程を喪失した……『氷の巨人』の姿だった……!
「さ、流石……キャリーさん……!」
「それでもまだ倒せてはいない、もう2,3発―――」
そう言いながらキャリーさんは再びあの巨大『炎球』を用意しようとした。
その彼女の口から―――
「なっ――!?」
驚愕の声が漏れた。
その理由は―――
―――シュオオオオオォォォ……!
喪失していたはずの『アイス・ゴーレム』の身体が―――瞬時に復元したからだった!
「きゅるー!?直っちゃったー!?
あの時の『ゴーレム』と同じー!?」
キュルルがその光景にかつての『水晶ゴーレム』の姿を重ねる。
それは僕も同じであったが―――その回復速度は、明らかにこちらの方が速い……!
「いえ、おそらくこの前の『ゴーレム』の再生機能とは別ですわ」
「アリーチェさん……?」
同じようにその光景を見つめていたアリーチェさんが、落ち着いた様子で話を始める。
「アレは岩や土で構成された通常の『ゴーレム』も持っている外部からの『補填』という形による復元ですわ。
もっとも、あの復元速度は明らかに不自然ですけれど」
「外部からの『補填』って………まさか!」
僕は『アイス・ゴーレム』とその周囲に目を向けた。
そして、気付く。
「あ……!
あの『ゴーレム』の周りの雪が―――!」
そう……その『ゴーレム』の周囲の雪だけが、ごっそりと消えていたのだ。
アレで蒸発した自分の身体を補填したのか……!
「なら、まずはあの『ゴーレム』の周囲の雪を無くしてから―――」
「いえ、キャリーさん。
貴女は『ナタウサギ』の方に回ってくださいませ」
アリーチェさんからの言葉にキャリーさんは「えっ?」と疑問の声を上げた。
「先程と違ってあの数の『ナタウサギ』は他の生徒達だけでは対処しきれない可能性が高いですわ。
キャリーさんならば広範囲のフォローに回れるはずでしょう?
どうかお願い致しますわ」
「………わかった」
キャリーさんは特に反論することもなくアリーチェさんの提案に従った。
恐らくそれが最適解だと彼女も納得したのだろう。
「フィル、イーラさんにも同じように他生徒達のフォローに回るようお伝え願います。
キャリーさんとあの方のお2人なら万が一の事態にはならないはずですわ」
「は、はい!
でも、なんで僕から……?
アリーチェさんが直接言えば……」
「………わたくしからより貴方から頼まれた方が彼女は素直に動いてくれるはずですわ」
「え? なんで?」
「……いいから早くお願いしますわ」
よく分からないけど……今は疑問に思っている時間も惜しい!
僕は遠くに見えたイーラさんに向かって叫ぶ!
「イーラさん!
キャリーさんと一緒に生徒達のフォローを、どうかお願います!」
「ああ!?」
予想通りというか、イーラさんは眉を顰めて不愉快そうに応える。
「ふざけるな!
私がお前達のお守りをする義理など―――」
「あの『試験』で『自分が手を貸すだけの価値はある』って、アナタはこの前言ってくれましたよね!
ここに居る人達は皆に、その『価値』があるって僕が保証します!!
だからどうか僕達に!!
『勇者』達に力を貸してください!!」
「っ………!!」
イーラさんは言葉を詰まらせ、考え込む。
だけど……もう『ナタウサギ』の集団は目前にまで迫っていきていた!
「………チィッ!!
《ダークネス・ウィング》!」
盛大に舌打ちをしたイーラさんは―――その背に『黒い翼』を生やす!
「私が手を貸すのは見込みのある奴だけだからな!
無様に逃げ出そうとする奴は見捨てる!」
彼女はそう言いながら上空へと飛び上がった!
多分、この場を俯瞰して生徒達の様子を見てくれるのだろう……!
「ありがとうございます! イーラさん!!
王都に戻ったら絶対アナタもお出掛けに誘います!
勇者様グッズ一緒に買いましょうね!」
「なっ! そ、そんな約束いるか!
……まあアルミナグッズに関してはやぶさかでないが……!
ああもう! 今はそんなこと言ってる場合かこの馬鹿!」
そう言いながら顔を赤くしたイーラさんはより高く飛んで行ってしまった。
「ああ、怒らせちゃった……
やっぱりイーラさんみたいな人は無理に誘わない方がいいのかな……」
「フィル、いつか後ろから女に刺されないように気を付けてくださいね」
「え?」と僕が一体何のことか聞き出そうとするより先に、アリーチェさんはこちらへ向かってくる『氷の巨人』へと向き直り――
「『アーティフィシャルフラワー・モード』」
―――ガチャガチャガチャッ………!
自身の座っている車椅子を自身を覆う『装甲』へと変えた……!
そして―――告げる!
「フィル! キュルルさん!
アレは―――わたくし達で相手しますわよ!」
彼女の勇ましい声に―――僕とキュルルは無言で頷き合うのだった。