第5話 僕達と応戦
「キュシィイイイ!!!」
僕達に向かって襲い掛かる『ナタウサギ』の群れ―――
その先頭の1匹が―――!
―――ダッッ!!!
「っ!!
跳んだ!!」
僕達の頭上に跳躍する!
そして、その体躯の2倍以上の長さの耳――いや、二振りのナタを頭ごと振りかぶり―――!
1人の生徒に向かって、振り落とす―――!
「舐ぁめんなぁあああッッ!!!」
狙われた生徒……ミルキィさんは臆することなく構えていた大斧を『ナタウサギ』に向かって―――振り上げる!!
―――ギィンッッ!!!!
「キュギイィィッ!?」
ミルキィさんの大斧と『ナタウサギ』の耳がかち合うと―――彼の剛腕から繰り出される斧の衝撃により、『ナタウサギ』はその身体をクルクルと回転させながら吹っ飛んだ。
「へっ! 軽りぃんだよ!」
はるか遠くへ飛ばされ、積もった雪の中に突っ込んだ『ナタウサギ』を見やり、ミルキィさんは歯を剥いて笑った。
「皆さん! 油断してはいけませんわよ!
『ナタウサギ』の耳殻による攻撃をまともに受けてしまうと腕や足の一本は容易く斬り飛ばされますわ!
当たり所が悪ければ即座に致命傷ですわよ!」
「「「――!」」」
アリーチェさんの警告にこの場の空気が引き締められた。
「『ロック・リザード』にも劣らねぇ殺傷力に『ヘルハウンド』並の速さ……
おまけにああやって跳んで『ハーピィ』みてぇに上から狙ってくることもある訳か……!
確かにその3体よりよっぽど厄介な魔物だぜ……!」
ヴィガーさんが氷剣を二刀流で構えながら鋭い目つきで襲い来る『ナタウサギ』を見据えた。
―――ババババッッ!!
「5体跳んだぞ!!
後ろの奴ら注意しろぉ!!」
ミルキィさんの叫び声が後方の生徒達に響き渡る。
僕達の頭上に再び迫る複数体の影―――それを!
「《ファイアー・ジャベリン》」
―――ヒュボボボボッッ!!!
「「「キュギュァアッッ!?」」」
キャリーさんの『炎の槍』が撃ち落とす……!
「ひゅうっ……流石!」
「まだ来る。
皆も迎撃準備を」
ヴィガーさんがその光景に思わず口笛を吹き、キャリーさんは全く慌てることなく他の人達へ注意を促す。
「おい! 前方の集団が二手に分かれたぞ!
こっちを囲む気だ!」
「「「っ!!」」」
そのミルキィさんの声に、生徒達の間に動揺が広がる……!
あの素早さで囲まれてしまったら……!
「皆さん!!
出来るだけ2人1組で互いの背後を守るように動くのです!
ここにいる皆さんなら決して後れを取る相手ではございませんわ!」
「「「……!!」」」
アリーチェさんの言葉に生徒達の表情は再び引き締まった。
そして―――皆が一斉に動いた!
「おい! 近くの奴の邪魔にならねぇ程度に距離を開けるぞ!」
「ああ! ただし離れすぎて孤立しないようにな!」
「分かってるっての!」
「悔しいけど私たちはキャリーさんみたいに精密にアレを撃ち落とすことは出来ない……数で対抗するしかないわ!」
「ああ!僕達で一斉に魔法を放つぞ!」
「来たぞ! タイミングを合わせろ!!」
「動くことに自信がねぇ奴は出来るだけ道の真ん中に寄れ!」
「こっちに敵を引き寄せるように動く!!
サポート頼むぞ!!」
生徒達は皆、自分の意志で考え、動いている。
当然だった。
彼らは―――あの『選抜試験』を突破した者達なのだから!
そして、僕は―――
「『規格-2倍』!!」
2倍のサイズとなった『黒い包丁』を振るい―――
「はぁあああああああ!!!」
―――バギィィィ!!!
「ギュギャッッ!!??」
飛び掛かってきた『ナタウサギ』を、その耳のナタごと叩き斬った!
「キュアアア!!!」
そんな僕の攻撃の隙を突くように―――もう1体の『ナタウサギ』が左側面から突っ込んでくる!
僕は―――即座に叫んだ!
「キュルル!!」
「きゅるッ!!」
掛け声に合わせ――僕の背後からキュルルがもう1体の『ナタウサギ』の前へと飛び出す!
「《イミテイト・オース・ブレード》!」
そして右腕に造り上げた『剣腕』で―――!
「きゅるぅあああああ!!」
―――ザシュッッ!!
「ギィッ……!?」
その頭のナタが振りかぶるよりも先に―――
『ナタウサギ』の胴体が、真っ二つに両断された――!
「ふぅっ……!」
「きゅるっ……!」
背中合わせになった僕とキュルルは―――振り向かずに「ニッ!」と互いに笑い合うのだった。
そうして――― 一息ついた僕は、改めて周りの様子を見た。
「うおらぁっ!!」
「ギュギッ…!?」
「《サンダー・ボール》!!」
「ギィィッ!!」
「皆! 『マジックポーション』に『スタミナポーション』よ!!
余裕がなくなりそうなったらすぐにこっちに来て!」
「おう! ありがとよ!!」
耳を澄ませれば聞こえてくる悲鳴は『ナタウサギ』のものだけで、他の生徒達も善戦しているようだった。
「流石は『選抜試験』を合格した者達と言ったところですわね。
特にあの魔物襲撃事件を経験した生徒はもう十分に理不尽慣れされているようで何よりですわ」
「アリーチェさん!」
アリーチェさんがファーティラさん達と共に僕達の傍へと移動しながらそんなことを話しかける。
理不尽慣れ、ね……
出来れば遠慮したい概念ではあるけど……魔物襲撃事件の首謀者――スクトさんは確かこんなことを言っていたっけ。
『単純な実力よりも想定外の事態に対応出来るかどうかの方が大事』、と……
あの人が巻き起こした事件を経験したことによって、僕達がこうした事態で迅速に動けるというのなら……
それは皮肉というべきなのだろうか……
僕は何とも言えない気持ちになるも、今はそんなことを考えている場合じゃない。
とにかく今はこの状況を打破するのが先だ!
「でも、この調子なら問題なく切り抜けられそうですね」
「ええ、先程わたくしが言った通りですわ。
今この場にいる方達ならこの程度の脅威は対応可能ですのよ」
こうしている今もなお『ナタウサギ』は僕らを襲ってきているが―――周りから危うい空気は一切感じず、群れの数は確実に数を減らしてきている。
「このまま、なにも起きなければ―――」
と、思わずそんな楽観的な言葉を口についてしまった―――その直後。
―――バキバキバキィ……!
「――っ!!
なんだ!? 今の音!?」
「森の方からだぞ!!」
突如として、木々のへし折れる音が辺りに響き渡り―――僕達は一斉にその音の方は目を向ける!
そこにいたのは―――
―――ドスッ……! ドスッ……!
「あ……アレって……!?」
『それ』を見た僕は―――思わず顔を引きつらせてしまった。
「きゅるー!またアレだー!?」
「どうやら……わたくし達はつくづく『あの魔物』に縁があるようですわね」
キュルルが目を真ん丸にして驚き、アリーチェさんがうんざりとした様子で溜息をつき……そして声を放つ!
「『アイス・ゴーレム』ですわ!」
その『氷の巨人』に―――僕は再びトラウマを呼び起こされるのだった。