第2話 説明と告白
《 大型馬車キャビン内 》
「きゅっきゅるきゅーー!
とっくべっつ! とっくべっつ!
『特別校外活動』ーー!」
上機嫌なキュルルの歌声が数十人規模の乗車が可能な超大型馬車の中に響き渡る。
10頭以上の馬に引かれるこの特別な馬車の座席には、あの『選抜試験』を合格した生徒達が座っていた。
勿論この馬車が大型とはいえ合格者は100名以上いるので、全ての生徒がこの馬車に乗っているわけではなく、馬車は他にも5,6台程後ろに続いている。
そして、その場に居るキュルル以外の全員が――― 一言も声を発さずに神妙な面持ちで、佇んでいた。
恐らく皆、これから自分達が行うこと……
コーディス先生から告げられた『特別校外活動』……
その内容をひたすらに反芻しているのだろう……
そう、この前起きた魔物襲撃事件の首謀者……
『元』勇者一行のメンバー、スクト=オルモーストと……
彼が所属する組織『レゾンデートル』が関わる、その活動の内容を………
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 エクスエデン校舎・第二天 協議室 》
「1か月ほど前に起きた魔物襲撃事件。
その首謀者の名は―――私の『元』仲間……スクト=オルモーストだ」
「「「「――――!!!」」」」
あの『選抜試験』から数週間程が過ぎた頃―――
試験の合格者である僕達は『第二天』の協議室へと呼び出され―――ひた隠しにされてきた『特別校外活動』の内容について説明を受けることとなった。
そして、集められた僕達に対し———
「最初に君達に伝えなければならないことがある」というコーディス先生の前置きから始まったのが……この『告白』であった。
当然と言えば当然だが―――事情を知らなかった生徒達は騒然となる。
スクトさんがこの前の襲撃事件の犯人である、という噂自体は以前から学園内に流れてはいた。
あの事件以降、全く姿を見せないスクトさんに何かしらの疑いの目を向ける生徒も少なくはなかったのだ。
けどそれは……殆どの生徒はさほど本気でない、悪趣味な冗談のようなものとして捉えているものであった。
この大陸を救った勇者の仲間がそんなことをするはずがない……皆、心の底ではそんな風に考えていたはずだ。
それが―――たった今、覆った。
他ならぬ、勇者一行のメンバーの口から……その『事実』が告げられたのだ。
その場の生徒の誰もがコーディス先生の言葉を容易には受け入れられず、詳しい内容を問いただそうと声を上げようとする―――が……それよりも早く、コーディス先生は言葉を続けた。
「それだけではない。
その事件より更に前―――この学園の活動初日に起きた事件。
今この場にもいるガーデン家の令嬢……アリスリーチェ君の暗殺未遂事件にも彼は関わっている。
実行犯……レディシュ=カーマインは既に捕まっているが、彼にそれを依頼をしたのがスクトだ」
「「「――――!?」」」
その言葉に、生徒達の視線が豪勢な椅子に座る少女……アリーチェさんに集中する。
彼女は自らの名が呼ばれ、幾多もの視線を浴びながらも―――平然とその場に佇んでいた。
この場でその事件に対して触れることを……彼女からは既に承諾済みだったからだ。
以前僕が医務室で目を覚まし、そこでコーディス先生から話を聞いた時……
今回の『特別校外活動』に、スクトさんと『レゾンデートル』が関わっていると告げられた時に……コーディス先生がアリーチェさんに話を付けておいたのだった。
アリーチェさんは自身の暗殺事件を外部には知られないようにしていたのだけど……
今回の活動に参加する生徒達には包み隠さず話すのが誠意であると、暗殺事件に触れることを許可したのであった。
本人曰く――
「無論、不特定多数の相手に聞かれるのは流石に憚られますが……
あの『試験』を乗り越えた生徒達にでしたら……構いませんわ」
とのことだ。
そして―――続けざまに告げられた勇者一行の……いや、『元』勇者一行の蛮行に……
生徒達は皆、言葉を失うしかなかった……
「事件に巻き込まれた生徒諸君には、改めて謝罪をさせてもらう。
我々の『元』仲間によって、その身に危険が及んでしまったこと……誠に申し訳なかった」
そう言ってコーディス先生は生徒達に向かって頭を下げた。
「スクトが何故あのような蛮行に及んだのか……それは私にも分からない。
その上、スクトの所在は今も知れぬままだ。
ただ一つ分かっていることは……彼は『レゾンデートル』という名の組織に身を置いているということのみ。
その組織についても詳細は一切不明だ」
そして、頭を上げたコーディス先生は―――この場の生徒達全員を見渡して、言った。
「何故、この場に集まってもらった君達にこのような話をしたのか。
それは―――今回君達に行ってもらう予定の『特別校外活動』に、スクトとその組織が関連しているからだ」
「「「「っ………!!」」」」
そのコーディス先生の言葉に……生徒達はもはや思考が追いつかないという有り様だった。
「本来であれば全ての生徒に対して、包み隠さず説明しなければならないことだ。
無用な混乱を避ける為……などという理由では到底納得出来ない者もいることだろう」
生徒達は無言だった。
特にあの事件の当事者であった生徒の表情は、どこか硬く見えた。
「この学園や私……勇者一行を信用出来なくなった者はこの『特別校外活動』を辞退してくれて構わない。
勿論、この学園を去ることも。
『選抜試験』に合格して貰ってからこんなことを言うのも卑怯だとは思うが、辞退する者には相応の謝礼を渡すつもりだ」
コーディス先生はそう言うと……暫くの間黙り込んだ。
おそらく……辞退の声が上がるかどうかを待っているのだろう……
生徒達は声を荒げることなどは無かったが……
皆コーディス先生の告げた事件の真相にショックを隠せず……思い悩んでいる様子だった。
もし、誰か1人でも辞退を表明すれば……連鎖的に辞退する者が続くかもしれない……
そんな雰囲気を僕が感じ取った時―――
「なあ、コーディス先生。
ちょっと聞きてぇことがあるんだけどよ」
ある生徒から、質問の声が上がった。
それは―――大柄の筋肉質の生徒……ミルキィさんであった。
「さっき今回の『特別校外活動』にはスクト=オルモーストや『レゾンデートル』とやらが関わるっつったけど……
それって、ようはそいつらをぶっ倒す為のもんなのか?」
「「「「―――!」」」」
その質問内容に、生徒達はざわついた。
「そうだな……具体的な内容についての説明は参加の意思を示してくれてからになるが……
大局的には……彼らの蛮行を止め、あのようなことをした『けじめ』を付けさせる為のものだ」
「……そうかい」
その答えを書き終えたミルキィさんは……「ニィッ」と笑いながら、言った。
「そりゃ良かったぜ!
なんせその『けじめ』に俺も参加させて貰えるってことなんだからなぁ!」
「「「「……!!」」」」
ミルキィさんの言葉に生徒達がピクリと反応し……更にそんな彼に続き―――
「ああ、全くだ。
やられっぱなしで終わるなんて真っ平御免だったからな。
あんな目にあわされたお礼をたっぷりしてやるよ」
ミルキィさんの隣にいたヴィガーさんが、腕組をしながら自信満々に言い放つ。
「「「「…………………」」」」
2人の言葉を聞き……生徒達の目には、何かが宿ったような気がした。
その後―――生徒達から辞退の声が上がることは、無かった。