第25話 勇者達と全ての力
「「「「おおおおおおおッッッ!!!」」」」
雄叫びを上げ、白亜のコーディスへと駆け出す数十名の生徒達。
そのメンバーは『装甲』を纏ったアリーチェを始め、ファーティラ、カキョウ、プランティ、ヴィガー、『人狼』と化したアニーなど――
残った生徒達の中でも、特に『スピード』に長けている者達であった。
彼女達はフィルとキュルルの『2人』が白亜の大蛇と打ち合っている隙に、側面側へと回り込み―― 『2人』が押され始めたタイミングで一斉に白亜のコーディスに向かって走り出したのだった。
腕部のパーツから細剣を伸ばしたアリーチェが―――
右手から紫電を走らせるファーティラが―――
抜き身の仕込み刀を構えたカキョウが―――
両手から長爪を生やしたプランティが―――
『氷の大剣』を両手で握るヴィガーが―――
鋭い爪を構えるアニーが―――
それぞれの得物を握る生徒達が―――
白亜のコーディスを狙う―――!!
が―――
―――ヒュッッッ………!
「「「「――――!!!」」」」
フィルとキュルルの『2人』と打ち合っていた2匹の白亜の大蛇の内の片方が―――生徒達を纏めて薙ぎ払う!!
「お避けなさいッッッ!!!」
アリーチェが高く跳躍し、その身を翻しながら後続の生徒達へ向かって叫ぶ。
直後―――!
―――ゴガァアアアアッッッ!!!
部屋の中に直立する複数の柱ごと、大蛇の一撃が生徒達を襲う!
殆どの生徒達はアリーチェの掛け声に合わせ、大きく後退していたが―――
「うああああああッッッ!!」
「がぁぁッッ!!!」
攻撃を避けきれなかった2人の生徒が、叫び声を上げながら吹き飛び―――床に空いた穴へと消える。
そして白亜の蛇は残った生徒達に追撃を咥えようとその身をしならせる―――
だが―――!
「「はああああああッッ!!!」」
―――ギィィィン!!!
フィルとキュルルの『2人』が裂帛の声を張り上げ、自身の後退を押し留めた。
突撃してきた生徒達の迎撃に2匹の蛇のうち片方を使用した結果―――当然フィルとキュルルの『2人』に対応する大蛇の数は1匹となる。
「この蛇1匹だけならッ!!」
「うん!!何とかなるよ!!フィル!!」
フィルとキュルルが共に声をかけ合い、渾身の連撃を白亜の大蛇に向かって叩き込む。
もう片方の大蛇は即座に『2人』への攻撃を再開しようとするも―――
「皆さん!!
もう一度行きますわ!!」
アリーチェの声が響き―――彼女と共に生徒達が再度の突撃を始める。
先程の凄まじい大蛇の一撃を目の当たりにしていながら―――彼らの目に怯えの色は無かった。
『2人』へ向かおうとしていた蛇は、再び生徒達の迎撃へ戻るしかなかった―――
これこそがアリーチェが講じた策。
フィルとキュルルの『2人』でも2匹の白亜の大蛇を凌ぎ切れず……
他の生徒達が一斉に突撃しても、当然のように即座に薙ぎ払われる。
しかし、この2つが同時に行われれば―――フィルとキュルルの『2人』、突撃する生徒達、それぞれが対応することが可能になる。
並の生徒であれば数秒も対峙することの出来ない2匹の白蛇の猛打……
その1匹を抑えることが出来るフィルとキュルルの『2人』がいるからこそ出来ることであった。
だが―――
―――ガギギギギギギィィ!!!!
「うあああああああ!!!」
「きゅううるううううああああ!!!」
状況は―――これでようやく拮抗した、という状況であった。
そしてその拮抗状態もそう長くは続かない。
『2人』は後退こそしなくなったが、未だ進みあぐねており―――
そして何より―――
―――ゴッガァァァッッ!!!
「―――ああああッッ!!」
「ぐッ――はぁッ!!」
コーディスへ突撃を行う生徒達は―――
白亜の大蛇の一撃が振るわれる度に―――
避けきれず犠牲になる者が現れてしまい―――
その数は、確実に減りつつあるのだった。
もう後十数回ほどその攻撃が続けば……突撃を行っている生徒達は全滅に至るであろうことが見て取れた―――
だが―――思考能力を持たぬ白亜のコーディスは気付かない。
フィルとキュルルの『2人』と―――
突撃を行う生徒達―――
この2つの距離が――徐々に離れつつあるということに―――
気が付けば、それぞれに向かって攻撃を仕掛けている2匹の蛇は―――上から見るとまるでVの字を作るかのように引き離されていた―――
そして―――遮るものが何もなくなった白亜のコーディスの正面には―――
「仕掛ける」
「うむ!!!」
キャリーとコリーナが、並び立つ―――
両者は片腕を天高く掲げ――――
「《ヘルフレイム・パーム》」
その『魔法名』を―――
「《ジャッジメント・ルミナス》!!!」
唱える―――!
―――コァアアアアア……!!!
2人の『準』高等魔法が混ざり合い―――
その頭上に―――巨大な光り輝く『炎光の拳』が生まれる―――!!
2人は掲げた手を振り下ろしながら―――叫ぶ!!!
「「《パニッシュメント・イグニス》!!」」
それと共に―――
『炎光の拳』が白亜のコーディスの頭上に―――落ちる―――!!!
―――ゴォォォオオオッッッ―――!!!
この空間全てを揺るがし、階下まで突き抜けようかと思える程の衝撃と砂煙が広がる―――!
フィルとキュルルの『2人』も、突撃を行っていた生徒達も、その光景に思わずゴクリと喉を鳴らす。
そして、煙が晴れ―――
白亜のコーディスは―――
―――ダンッッ……!
尚も、健在であった―――!
「―――ッ!
避けられた!」
「なんだとぉ!!!」
大量の魔力を使い―――片膝をつくキャリーと、もはや様式美のようにうつ伏せになったコリーナが声を上げる。
白亜のコーディスは、あの『炎光の拳』がその身を焼き尽くす直前―――
突撃して来た生徒達に対応していた白亜の大蛇を戻し、地を叩き―――ギリギリでその場から退避したのだった。
そして―――即座に攻撃を再開すべく、白亜の大蛇を生徒達へと―――
「まだだぁッッッ!!!」
突如――白亜のコーディスの頭上より声が響く。
そこには―――『黒い翼』を生やしたイーラがいた。
彼女は掲げていた両手をコーディスへ向け―――
「《ドゥームズ・ライトニングストーム》!」
―――ピシャァァアアアッッッ!!!
『黒い風雷』を落とす―――!!
それは凄まじいスピードで白亜のコーディスへと向かい―――!!
―――バァリィィィッッッ!!!!
黒い雷光が辺り一面を覆い尽くし―――
先程の『炎光の拳』にも劣らぬ衝撃が再びこの空間を揺るがす―――!!
しかし、それでも―――!
―――ダンッッッ……!!
「はぁッ!!はぁッ……!!!
アレをも避けるかッ……!!!」
未だ尚―――白亜のコーディスは倒れない―――!
フィルとキュルルの『2人』に向かわせていたもう片方の大蛇を使い―――再び避けたのだった―――!
外縁部での戦闘の疲労も合わせ、もはや息も絶え絶えとなったイーラが歯軋りをする―――
だが―――
「だが―――無傷ではないッッ!!!」
そう―――先程の『炎光の拳』も、今の『黒い風雷』も、白亜のコーディス自身は捉えられなかったが―――
その攻撃と移動の要……2匹の白亜の大蛇は、その身体に大きな焦げ跡を残していた――!!
イーラは―――叫んだ!!
「お前らッッ!!!
畳みかけろおおおおおお!!!」
その声に――――
「「「おおおおおおおおおッッッ!!!」」」
全ての生徒達が―――呼応する!!
「《ブロウアップ・ブラスト》!!」
「《アクア・プレッシャーカノン》!!」
「《エクストリーム・ブレイズ》!!」
「《アイス・ジャベリン》!!」
スリーチェが爆発魔法を放ち、ウォッタが『水圧弾』を撃ち放ち、ミルキィが火柱を巻き上げ、アルスが『氷の槍』を飛ばし―――
攻撃魔法を持つ全ての生徒が、魔法を唱える――!!
白亜のコーディスはそれらを避け続けるも―――その動きは明らかに先程より鈍っている――!!
更に―――
「わたくし達も突撃を再開しますわよ!!」
「ああ!!少しでもあの蛇共の注意をこっちに向けさせてやる!!!」
アリーチェの号令に、アニーが獰猛な笑みと共に頷き―――残った生徒共々、再びコーディスへ向かう――!!
そして、そんな生徒達の背後に―――
「隠匿魔法は、完全に無意味だった訳じゃない!!
ほんの僅かだけど、攻撃の位置をズラせてはいた!!
僅かでも効果があるなら―――私はこれを何度でも唱え続ける!!
《プレゼンス・ハイド》!!!!」
「わ、私も―――!!
私も何度でも皆さんの体力を回復します!!!
《アリヴィエイト・ファティーグ》!!」
バニラが隠匿魔法を、ティアーが回復魔法を唱える―――
この場にいる全ての生徒が―――己の力の全てを出し尽くしていた。
そんな光景に―――『2人』は見惚れていた。
「ねぇ、フィル……凄いね」
「うん……そうだね……キュルル」
「本当に……フィルが言っていた通り………!
ここに居るみんな……『勇者』なんだね……!」
「うん………!
そうだよ、キュルル……!」
「でも、だったら!!」
「うん!!」
「「僕達も―――負けていられない!!」」
そう言いながら笑い合った『2人』は―――
右手に握る木剣の柄と、左手に握る木剣の剣身を合わせ―――
「「《オース・ブレード》」」
『誓いの剣』を創り出し―――
そして―――静かに見極める。
魔法攻撃と突撃する生徒達を迎撃し続ける白亜の大蛇の動きを。
―――ヒュッッ……!!
―――ダンッッ……!!
とある一瞬―――
白亜の大蛇の片方が、突撃してくる生徒の1人を仕留めようとその長躯をしならせる―――
白亜の大蛇のもう片方が、魔法攻撃を避けるために地を叩く―――
その2つが―――同時に重なったタイミングで―――
「《バニシング・ウェイト-ニアゼロ》」
―――トンッ………
『2人』は、地を蹴り―――
そして――――
―――キィン…………
斬撃の音が鳴り響き―――『2人』が、白亜のコーディスの背後に立っていた。
まるで―――時という概念そのものを斬り裂いたかのような静寂が満ち―――
次の瞬間――――
―――ゴトッ…………!
肩から腰へ―――斜めに両断された白亜のコーディスの身体が、クリーム色の床へ崩れ落ちる音が静かに響き渡った。