第21話 僕達と帰還―――そして『何か』
「やった……間に合った!!」
通路を駆け抜けた僕達は―――あの強制的に集められた部屋の扉の前にまで来ていた。
あれから結局魔物との戦闘は一切なく……結果、進む時の半分の時間もかけずにここに戻ってくることが出来たのだった。
制限時間は十分残っている……
後はもう、中央部の昇降機に乗るだけ……!
僕達はクリーム色の『水晶ゴーレム』を倒した時のように、再び喜び合った。
そして、1人の生徒が―――
「ようし!じゃあ俺が一足早く合格を受け取ってくるぜ!
お先に!」
そう言いながら真っ先に扉を抜けて走りだした。
「あっテメぇ!ずりぃぞ!
待ちやがれ!」
その後に続きまた別の生徒が1人、後を追うように走りだす。
そんな2人の生徒の姿を見て「ガキかよ全く……」とアニーさんや他の生徒が呆れるように呟き――
「でも、早く合格したいって気持ちも分かりますよ!
僕も行ってきます!」
そう言って、僕もその2人の生徒に続いて走りだし……「やれやれ……」なんて言葉と共に、残った他の生徒達も続いたのだった。
そうして潜り抜けた扉の向こうは数時間前に見た時と変わらない、クリーム色の壁と柱が並ぶ空間だった……
の、だけど―――
「――――?」
僕は……何か違和感を覚えた。
並んでいる柱は――所々が砕けており……
床には――その柱の破片や、誰の物かもわからない武器が転がっていた……
まるで―――
この場所で戦闘でもあったかのように―――
「よっしゃー!
一番乗りーー!!」
そんな僕の疑問を他所に、昇降機に辿り着こうとする生徒の声が聞こえ―――
直後。
「―――っ!!!
下がれぇぇえええええええええええ!!!」
後ろから―――イーラさんの、これまでにない程の必死な叫び声が聞こえた。
その声と、ほぼ同時に―――
―――ボッッッッ!!!
「―――――え」
真っ先に駆け出し、先頭を走っていた生徒が―――身体をくの字に曲げながら吹っ飛んだ。
「―――は!?
お、おい!!どうし―――」
―――ボッッッッッ!!!
次いで―――その後ろを走っていた2番目の生徒が―――同じように身体を曲げ……先程の生徒とは逆方向へ吹っ飛ぶ。
そして―――
3番目の生徒―――つまり、僕にも―――
同じように―――『何か』が――――
「ッッッ!!!
《ポットリッド》!!!」
僕が『それ』に反応できたのは、イーラさんが声をかけてくれたことに加え――― 一番最後に狙われたおかげ、なのだろう。
もし僕が1番目あるいは2番目に狙われていたら―――成すすべもなく同じ末路を迎えていたに違いない。
反射的に前方に展開した『黒い鍋蓋』で―――
―――ヒュッッッ!!!
その『何か』を防―――
―――ゴッッッッガッッッッ!!!!
「―――――ッッッ!!??」
その『何か』が『黒い鍋蓋』に衝突した衝撃で―――僕は体勢を崩す!!
それが意味することは―――!!!
「《ポットリッド》が―――弾かれた!!??」
衝撃を受けたり物体に触れることで重量を瞬間的に急増させる僕の『黒い調理器具』……【フィルズ・キッチン】
その増加する重量は数百キロ……時には数トンにまで及ぶ!
それが―――弾かれる程の衝撃!!
一体―――どれ程の――――!!??
身体と精神、両方に途轍もない衝撃を受けた僕に―――
―――ヒュッッッッッ!!!
「――――ッッッッ!!!」
即座に、『何か』の追撃が来る―――!!
体勢を崩す僕にそれを避ける術は―――!!
―――ヒュバァッッ!!
「――!?」
突然僕の視界が盛大にブレる!
僕は―――猛スピードで誰かに抱えられていた!
僕を抱えてくれた人、それは―――
「イーラさん!?」
そう――背中に『黒い翼』を生やしたイーラさんが猛スピードで僕を抱えたのだった!
驚く僕がその『翼』のことを聞く間もなく―――
―――ヒュボッ…………!
「――――ッッッッ!!!」
『何か』が僕の頬をギリギリ掠める音が聞こえた……!
僕は、僕達を攻撃してきている『何か』の姿を捉えようと、必死に目を凝らす!
そして―――『それ』を、見た。
『それ』は僕達がこの『第三天』に来る為に使った昇降機の前に、立っていた。
その体色は―――白亜。
まるで―――とても緻密に彫られた石膏像。
1人の人と―――
それに巻き付く、長大なモノ―――
それは――――――――
「コーディス………先生…………?」
そう――――見間違えようはずもない。
その端正な顔立ちに加え―――両腕に巻き付く、二匹の巨大な蛇。
その巨大蛇共々、服も肌も白亜にしたコーディス先生が―――そこにいた。
その姿はかつて大陸西側での魔物襲撃事件で見た、『ケルベロス・スタイル』に違いなかった―――
「ああ、そうだ―――アレで終わる訳がなかった。
『徹底的に『理不尽』に追い込んでいく』などとあの男がほざいた以上―――アレで終わる訳がなかったんだ!!」
イーラさんのそんな怒号が響いた―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アリエス先生……君の言う通りだったよ。
あの子達は、私が心から信じるに値する存在なのかもしれない」
「……………………」
「ならば……『アレ』を投入してもきっと大丈夫だ。
あの子達ならば、乗り越えてくれる」
「……………………」
「もっとあの子達が成長してから相手して貰う予定だった……
私の戦闘能力を完全再現した―――『パーフェクト・コーディス・レプリカ』が相手でも」
「…………………………………………」
アリエスは―――もしかしたら自分は余計なことを言ってしまったのかもしれないと、後悔し始めていた。