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第14話 脱落者と救護室


《 エクスエデン校舎・第二天 特別救護室 》


「―――ぁぁぁぁああああッッ!!!」


―――ボフンッ……!


「―――つあッ……!

 え……こ、ここは……?」


重傷を負った男子生徒が困惑と共に辺りを見渡した。

彼は先程、クリーム色の迷宮内で『ロック・リザード』に襲われ……その後床に空いた穴の中へと落ちていったのだ。

そしてスライダーのようになっている穴の中を通り抜けた末……落下の衝撃を完全に吸収してくれる巨大なクッションの上へと運ばれた。


一体ここはどこなのか……?


「《ラピッド・リカバリー》」


―――シュァァァ……!


怪我のことも忘れ困惑する彼に、即座に回復魔法がかけられた。


「傷が……!

 あ、アリエス先生……!?」

「ごめんね、今日は他にもたくさん回復魔法が必要になるから、魔法の使用量を抑えてるの。

 今のところはとりあえず歩ける程度の回復で我慢してね」


とても優し気に生徒に話しかけるアリエスは「ふぅ」と息をついた。

すると―――


「―――きゃぁぁぁああああ!!

 え?え?な、なに!?ここ!?」


また別のクッションの上へ、今度は額から血を流した女生徒が落ちてくるのであった。


「あっ、また来ちゃった!

 じゃあ私は行ってくるから、君は向こうで休んでて!

 それじゃ!」


「え、あ、ちょっと……!」


と、未だ混乱状態にある男子生徒に大量のベッドが並んだ部屋の奥側を指差すと、アリエスはすぐさま落ちてきた女生徒の元へと駆けるのだった――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ふむ……試験開始20分、約三分の二が脱落か。

 私が想定していたよりもずっと残っているな」


いつものように巨大蛇を身体に巻き付かせたコーディスが目の前の巨大掲示板を見つめながら呟く。

そこには今回の『選抜試験』に参加した生徒名が羅列されている。

そして『第三天』に残っている者の名には青色の光が灯っていた。


その内の1つの生徒名の光の色が赤色へと変わる。

すると、次の瞬間その光が「フッ……」と消え―――


「―――ぅぁぁぁぁああああ!!!」


また新たな生徒がこの救護室へと落ちてくるのだった。


コーディスが見ている掲示板は『第三天』に残っている者の名が分かるだけでなく、身体状態の把握も出来る代物であった。

そして命の危険に陥った者、もしくは碌に動けなくなる程の怪我を負った者は即座にこの部屋へと運ばれる仕組みとなっている。


そんなコーディスの元にアリエスが近づいてきた。


「生徒が脱落する頻度がだいぶ落ち着いてきました。

 ここからは私やお母さんに頼らずとも他の教員で十分回せそうです。

 なので、少し休憩に入らせてもらいますね。

 私も少し疲れちゃいましたので」

「ああ、お疲れ様」


アリエスはコーディスに報告を終えると近くにあったソファへと腰を下ろし、ハンカチで汗を拭う。

『試験』開始直後……大量に出た脱落者に対し彼女は矢継ぎ早に回復魔法をかけ続けていたのだ。

如何に『上級魔法師』のアリエスと言えど、数千あるいは万という値に達する程の人数にかけ続けるのは流石に至難の業であった。


もっとも、普通の『魔法師』からしてみれば、それだけの人数に回復魔法をかけ続ければ確実に魔力は枯渇し、とっくに死に至っているのが普通なのだが。

それだけのことをして『少し疲れた』程度で済んでしまう彼女を、周りの教員は畏怖の眼差しで見つめていた……


「やはり君は君で我々と同じくどこかおかしい……もとい、少し風変りな部分もあるようで安心したよ」

「あの一応言っておきますが、私のことをあなた方と同列に扱ったらマジでブチ切れますので、そのつもりで」


勇者学園の苦労人にして常識人としての矜持が思わず強い言葉でコーディスに牽制をかける。

そんな彼女の台詞をさらりと受け流し、コーディスは再び掲示板へと目を向けた。

そしてアリエスはコーディスを横目に「それはともかく……」と口を開く。


「やはり、これは少し厳しすぎるのでは……?

『速さ』の『項目(ステータス)』を上げた『ロック・リザード』はまだしも、最初にチームの分断までする必要は……」

「むしろ今回は『ソレ』の方こそ肝要だよ。

 物事というものは常にベストな状態で当たれるとは限らない。

 信頼できる仲間がそばにいて最高のコンディションでいられることが当たり前のように考えていると、ほんの少し何かが狂った瞬間全てが瓦解する、なんてことも珍しくはない。

 故に、まず生徒達にはその『最高のコンディション』が崩れる所から経験して貰うことにした。

 つまりは最初に私が言った通りさ。

 彼らにはこの場で徹底的に『理不尽』を与え……『理不尽』に耐性をつけて貰う」


わざわざ生徒達には自由に、各々にとって理想的なチームを組ませておいて『試験』開始直後に分断……

彼らからしてみれば正しく、余りにも納得し難い『理不尽』だろう。


「それに、チームでの力の前に個人での力もまた重要だからね。

 顔も知らない者同士で即座に連携など出来るはずもなし。

 ならば、少なくとも最初の脅威は自分の力で退かなければいけない。

 今あの場に残っている者は、少なくともそれだけの実力はあるということだ」


コーディスの言葉はエルフの少女……イーラ=イレースがフィル達へ吐き捨てた理屈とほぼ一緒であり、彼女が言っていた「『力足らず』を間引く」という言葉は(言い方はともかく)本質を得ていたということではあった。

もっとも、それを伝えてもあの場の生徒達から納得を得ることは困難であろうが……


「でも、他の生徒に助けられたり、運よく残る生徒もいるのでは……?」

「そこはまぁ、運も実力の内ということで。

 実際私としてはどれだけ力や知恵があろうが最終的には運次第、というのが持論だからね」

「………………………」


ホントにこの人はちゃんと考えているのかいないのか……

この試験終了の暁にはまた大量に学園から去っていく生徒が出て来てしまいそうだ……とアリエスは深い溜息をつくのだった。


「改めて、君達には感謝しているよ。

 この『人工迷宮』を『構築(セッティング)』するのに多大な苦労を掛けてしまったね」

「苦労なら現在進行形でも受けてますが……

 まぁ、『アレ』を造り出す作業よりかはずっとマシですね」


アリエスは今日まで行ってきたあのクリーム色の『迷宮』の構築作業を思い出し、思わず額に手を当てた。


「『ファンタズマゴリア・マテリアル』。

 この建造物のほぼ全てを構成している『マジックアイテム』だが……その特性は魔力を込めることによって自在にその性質を変化させることが出来る、まさに夢の材質とも呼ぶべき代物だ。

 とりわけ、『第三天』を構成している物は高度な魔力操作技術があれば、自由に造形を変えられ動きさえも設定することが出来る。

 それによって生物の『再現体(レプリカ)』を造り出し、更には膂力やスピードといった『項目(ステータス)』も操れる」

「今思い出しても眩暈がしますよ……この2週間あまり、私達はほぼ丸一日あの迷宮構築の作業に駆り出されていたんですから……

 おまけに生徒達の十分な脅威になりつつも、決して命を奪わないぐらいの塩梅の強さだなんて……

 どれだけ繊細な調整作業が必要になったことか……」


アリエスは恨みがましい目つきでコーディスを見た。


そして、重々しく言葉を吐き出す。



「何より………『あんなモノ』を造り上げて欲しい、だなんて………

 あまりにも無茶苦茶ですよ………」



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