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第13話 皆とそれぞれの戦い:その2


「超速貫通炎弾魔法……

《アーマーピアッシング・ブレイズ》」


―――パシュッッッ………!!!


キャリー=ミスティの指先から放たれた『徹甲炎弾』は―――


―――パキィィィィィィ………!


クリーム色の『ロック・リザード』を、3匹まとめて撃ち抜いた。


「うん、やはり中途半端な威力の魔法を連打するより、高威力の魔法で一撃を以って仕留める方が効率的みたい。

 炎魔法以外の攻撃魔法があればこんな憂慮も必要ないのだけれど、無いものねだりをしてもしょうがない」


「あの……その『中途半端な威力の魔法』って……

 最初に撃った《ファイアー・ジャベリン》のこと……?」

「アレ私達が全力を込めた魔法ぐらいの威力はあったんだけど……」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ふうっ……!

 皆さん!大丈夫ですか!?」


黒髪おさげの少女……バニラ=タリスマンが汗をぬぐいながら周囲の生徒に声をかけた。


「あ、ああ……アンタのおかげで、なんとか……

 っていうか……あ、アンタの方こそ、大丈夫なのか……?」

「私達数十人に同時に隠匿魔法をかけたうえに……

 攻撃で魔法が解かれる度にかけ直し……

 トータルで50回以上は発動してるはずよ……?

 あれだけの魔法……普通は10回も使えばとっくに魔力が枯渇してるはずなのに……!」


「……この前の襲撃事件の時……この魔法をもっと沢山の人にかけてあげられればって、そう思って……!

 ちょっと……訓練してみたんです……!」


そして、これは他人にはとても言えないことではあるが……


つい最近、『とある少女』にその得意魔法を僅か3日で習得されたという信じがたい事実を知らされ……

自分には無縁の物だと思っていた『プライドを傷つけられる』という感覚を味わったことが、より彼女を魔法の訓練へと駆り立てたのであった。


余談だが、その訓練模様を見ていた彼女の親友キャリー=ミスティは「普段大人しい子ほどキレると怖いという実例を見た」と語ったという。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「《ブレイジング・ブースター》!!」


―――ゴォォアアアアア!!!


赤色の制服に身を包む大柄の生徒……ミルキィ=バーニングか構える大斧の後方から―――凄まじい勢いの炎が噴き出す。

そして、その推進力を乗せた大斧の振り下ろしが―――


「うるあああああああッッッ!!!」


―――バッキャアアアアアン!!


クリーム色の『ロック・リザード』を、叩き割った。


「ふぅ……!

 炎魔法の効きがわりぃってんなら……

 直接の攻撃には使わねえで物理的な威力の底上げに使ってやらぁ……!」


それは前回の魔物討伐の際……自身の魔法が『ロック・リザード』に全く通じなかったことに歯噛みした彼が考え出した戦法であった。


「すげぇ……!

 補助的な魔法の使い方は、ただ攻撃するだけの魔法より繊細な技術が求められるって話なのに……!

 アイツ……あんな(ツラ)で、そんな器用なこと……!」


「いや(ツラ)は関係ねぇだろ!!!」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「《アイス・フットギア》!」


―――シュアアアア!!


『氷の靴』を履いた青色の制服に身を包むワイルドな髪型の少年……ヴィガー=マックスが床の上を疾走し、『ロック・リザード』の側部へと肉薄すると———


「《ギガントバスター・アイス・ブレード》!!」


両腕で振り上げた自身の身長の数倍はあろうかという『氷の巨剣』を振り下ろす―――


―――ピキィィィ………!!!


すると『ロック・リザード』の胴体が瞬く間に凍りつき―――次の瞬間。


―――バッ……キィィィィン!!!


凍り付いた胴体が爆砕し、『ロック・リザード』の身体は前後へと分かたれるのだった―――


「お、お前……そんなもん造り上げて……!

 魔力、大丈夫なのかよ……!

 おまけにあんな動きまで………!」


「へっ……!

 この前の『事件』以降、だいぶ無理が効くようになってな……!」


「それに……」と少し悔し気な表情になりながら、ヴィガーは言葉を続けた。


「つい最近になって、すげぇ『力』は持ってるけど、実力的にはまだまだ未熟だと思ってた奴が……とんでもねぇ新しい『力』引っ提げてきやがったからなぁ……

 しかも、よりにもよって俺の方がずっと分があると思ってた『速さ』って分野を克服しやがって……!」


と、そこまでは日々訓練に付き合っていた相手の予想外の成長に驚きと焦りを感じつつも、自身も負けてられないという気概を込めた独白といった所なのだが……


「けど何よりムカつくのはなぁ……!」と、彼は更に言葉を続けた。


「あの野郎、俺達に厄介ごとを勝手に押し付けてどっか行きやがった癖に、アイツの方はなんか知らねぇうちにそんな『力』を身に着けて帰ってきやがったってことだよ!!

 その話をしたら「あ、忘れてた」とか言いやがった時は本気で『アイス・ブレード』叩き込んでやろうかと思ったぞ!!!」


―――ビキビキビキィィ!!


「おおおおい!!

 なんかよく分からんけど落ち着けぇぇええ!!!」


抱えていた『氷剣』を振り回すヴィガーを、周りの生徒が必死に宥める。

そうして、何とか落ち着いた彼は再び口を開いた。


「他の奴らに関しては……心配いらねぇな。

 アイツらがこの程度で後れを取るわけねぇ」


その後、ぽつりと呟く。


「………ひとり、別の意味で心配な奴はいるけど………」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはッッッ!!!!!

 皆の者ぉッ!!!!!

 刮目するがいいッ!!!!

 この究極超絶超弩級最強勇者!!!!

 コリーナ=スタンディの力を!!!!

 その目に!!!焼きつけろぉぉおお!!!!

《ジャァァァァァァァァッジメントォォォォォォォォォォォォ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥミナァァァァァァァァァァァス》!!!!」


「さっきから飛んでもない威力の魔法をブッ放ってはブッ倒れて次の瞬間起き上がってはまた魔法をブッ放つコイツは一体何なんだぁああああああああああ!!!???」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そして――――


また別の場所で――――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「きゅるああああああ!!!

 《ダイナミック・マリオネット》!!」


―――ズォォォッッッッ!!!!


人型の黒いスライム……キュルルの身体から湧き出る黒い魔物の群れに―――


―――バキバキバキィィィ………!


『ロック・リザード』が飲み込まれ―――成すすべなく押し潰される。


「………これで最後、かな………」


キュルルは特に疲弊した様子もなかった。

今更この程度の相手など、彼女の脅威にはなり得ない。


この学園の中でも最上位の実力を持つ『スライム魔王』は―――


「……………………」

「……………………」

「……………………」


周りの生徒達から―――遠巻きに、警戒の眼差しで見られていた。

それはこの空間に現れた『ロック・リザード』に向けるもの以上といっても過言ではなかった。


この空間に移動させられた当初―――キュルルは他の生徒達に自分から話しかけにいった。

いつもフィルやアリーチェ達とそうしているように、ごく自然に、彼らに近づいて行ったのだ。


だが、その時の彼らの反応は―――


「ひっ―――!?」

「お前……!

 あ、あの魔物……!?」

「なっ、なんでっ……!

 なんでコイツがここに……!」


「―――――っ」


キュルルは完全に失念していた。

『自分』がいかに特異な存在であるかを。


この『試験』が始まる前に『自分』という存在を受け入れてくれた生徒達がいただけに、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。


思い起こされる、かつてのアリーチェの言葉―――


『この勇者学園に来られた方々は一体何の為に入学したのかお分かりでしょうか』


『正解は『魔物』を打ち滅ぼす為、ですわ』


『自らの無力さを呪い、『力』を求める者………

 それが今、ここにいる方々が学園に残る理由ですわ』


そう……彼らがキュルルを見つめる目は……

人類の天敵……『魔物』を見つめる目であり―――


そしてそれは……この世界に生きる人間として、限りなく正しい『在り方』であった―――



『―――を………示せ……!』


「―――――ッ!」



不意に、ずっと無視していた頭の中の声が一際大きく響く。


キュルルが両手で頭を抑え、そんな彼女の様子に周りの生徒達がより警戒の眼差しを強める中―――


「っ!!お、おい!!なんか来たぞ!!」


「きゅるっ……!」


この空間に『ロック・リザード』がなだれ込み―――『ハッ!』と我に返ったキュルルと生徒達はその対応に追われることとなった。


だが、そうして脅威を排除した今になっても……

いや、『ロック・リザード』をいとも簡単に倒すその光景を見たからこそ……


生徒達は、再びより強い警戒の眼差しを、彼女に向けるのだった―――


「………………きゅる」


そして……そんな目線を向けられるキュルルは―――


何も言わず彼らから目を背けるだけであった………


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