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第11話 僕とアナタと力足らず


「さらに追加の増援は無しか……

 まあ、どれだけ来ようが関係ないがな」


クリーム色の『ロック・リザード』の群れをあっという間に始末したイーラさんは、まるで何事もなかったかのように佇み……

僕はただただ唖然としながら彼女を見つめるだけであった……


「ちょ、ちょっと君………!!」


そんなイーラさんに、先程僕が助けた眼鏡の男子生徒が慌てた様子で声をかける。


「君……なんで今の今まで何もしなかったんだ……!?

 その力があれば、この場にいる生徒全員を助けることだって……!」


「ふん、何故私がそんなことをしなければならないんだ?

 折角『力足らず』を間引いてくれるというのに」


「なっ―――!」


男子生徒の方に振り返りもせず、吐き捨てるようにイーラさんは告げた。


「イーラさん……『力足らず』を間引いて、って……どういう……?」


二の句が継げられなくなった男子生徒に代わり、僕が彼女の前に出て会話を引き継ぐ。

イーラさんはやれやれと言った面持ちでこちらに視線を向けた。


「私がわざわざこんな『試験』に参加したのは、私一人でこの『試験』を乗り越えることでこの学園の俗物共に己の脆弱さを見せつけてやる為だ。

 故にそもそも私はお前達を助けるつもりなど毛頭ないし、この先お前達の力を借りる気も一切ない」


「ただ――」と、眉をひそめながらイーラさんは言葉を続ける。


「この『試験』を考えたのはあのコーディス=レイジーニアスだ。

 私が1人で迷宮攻略を進めようとすることも想定済みかもしれん。

 もしかしたら他人と協力することを強制する『仕掛け』が用意されていないとも限らん。

 例えば……この『試験』の合格条件は『宝珠』とやらを手に入れて中心部に戻ることらしいが、その『宝珠』のある部屋には複数人でなければ入れない、といったものなんかがな」


それは考えすぎ……とも言えないかもな……

君達を徹底的に『理不尽』に追い込む、なんて言ってたし……


「それ故『念の為』ある程度の頭数を揃えておくか、と考えていたのだが……

 わざわざこの私が俗物共の『お守り』をしなければならない道理などない。

 だから、さっきまであえてお前達を放っておいたんだ。

 せめて『この程度』の脅威は退けられるぐらいの実力はある者が残るまで待つ為にな」


「………っ!」


そのあまりにも傲岸不遜な言い様に、話を聞いていた他の生徒達から非難と憤慨が入り混じった視線がイーラさんへと向けられる。


「あの、イーラさん!

 それは余りにも―――!」


一発触発な雰囲気に焦った僕が彼女を諫めようと声を上げるも、彼女はそんな周囲の視線をまるで気にしない風に「ふん」と鼻息をつき、僕の言葉を遮った。


「これは元々そういう意図の『試験』なのだろうが。

 こんな状況に追い込もうとする以上、あの告知で知らされた『特別校外活動』とやらにある程度の実力が必要なのであろうことに今更疑問の余地はない。

 ならば私が不用意に手を貸し、分不相応な者が合格するような事態にでもなれば、むしろ学園側にとって不利益な結果を生みかねないのではないか?」


「う……!」


彼女の言葉を完全には否定できない自分がいた。

イーラさんの実力は学園内でも飛びぬけて高い。

たった今見せられた光景からも、冗談抜きで彼女一人でこの迷宮を攻略出来るのではないかと思えてしまう。

そうなれば……他の生徒達はただ彼女の傍にいるだけで合格出来る、ということになってしまいかねない……


「これから先も私はお前達に手を貸すつもりはない。

 私は私の周りに迫った外敵をただ排除していくだけだ。

 先ほど述べた『仕掛け』に対する懸念もあくまで『念のため』程度の考えだからな。

 お前達がどれだけの脅威にさらされ、泣こうが喚こうが私の方から助けに行くことはないと思え」


「テメっ……!

 誰が泣くかぁ!!」


生徒の内の1人、男勝りな口調の女生徒が睨みつけながら激昂する。

他の生徒達もまた今にも殴りかからんとばかりに拳を握りしめていた。


うう……入学者募集の日のミルキィさん達もこんな感じだったのかなぁ……


「ふん、まあ今ここに残っているのは俗物共の中でもまだ『マシ』な部類だということは認めてやろう」


そんな一応の褒め言葉が彼女の口から出てくるも、それを好意的に受け止める者はこの場に皆無だ……

むしろ「何様だよ…!」とより非難の色が濃くなるくらいだった。


「もっとも、他者に助けられるばかりで碌に動けそうもない奴もいそうだがな」


「「―――っ!!」」


僕が助けた生徒2人が、彼女の言葉に強く反応する。


「ちょ……!イーラさ――!?」

「………………」


思わず声を上げた僕を―――眼鏡の男子生徒が手を掲げて制した。


「いいんだ……彼女の態度はともかく……

 言っていることは間違っていない……

 少なくとも……僕は、君の助けが無ければここに残ってはいなかったよ……」


そう言いながら、その生徒は悔しそうに唇を噛みしめる。


「そんなこと―――」

「でもね」


僕の言葉を遮り、その生徒は顔を上げ……イーラさんを真っ直ぐに見つめて、言う。


「僕も……『勇者』になる為にここに来た。

 どんなに分不相応だと言われても……それだけは揺るぎないよ」

「………!」


その眼差しは……とても力強かった。

気が付けば、もう一人の女生徒も僕達の近くに立ち、同じように真っ直ぐな眼差しをイーラさんへと向ける。


そんな2人に呼応するように……残った生徒達もまた、イーラさんを見つめていた。

その視線には、単なる非難と憤慨だけでなく……強い『意志』が、込められていた。


そして僕もまた……その『意志』を込めて彼女を見る。


僕達は、俗物じゃない。

『勇者』になる為に、ここに来たのだと――


「………ふん」


イーラさんは一つ鼻息をつくと、もうこれ以上話すことは無いと言わんばかりに僕達に背を向けた。


そして、この部屋の左奥にある通路の入口へ向かって歩き出す。

全く迷うそぶりもない彼女の足取りに僕は戸惑いを覚える。


「あの、イーラさん……?

 なんでそっちに……?」


僕の声に反応することなく、イーラさんはそのままコツコツと足音を鳴らしながら歩き続けるだけだった。

うーん……やっぱりさっきの僕達に手を貸すつもりはないという言葉通り、僕達には何の助言も与えないで1人で進む気なのか……


「チッ!スカしやがって……!

 もうそんな奴放っておいてアタシ達で―――」


「この通路から一番多く『ロック・リザード』が雪崩れ込んできていた」


「―――!」


男勝りの女生徒がイライラした様子で発した声を遮り、こちらに振り向かないままにイーラさんは応えた。

話の内容以上に、こちらに応じてくれたことに僕は驚いてしまった。


「無論それがこの通路の先に目的の場所があるという根拠にはならないが、コーディス=レイジーニアスが言っていた『君達を理不尽に追い込むという』言葉から、より困難が待ち構えていると予測出来る箇所こそ正解の道と推測は出来る。

 元よりなんの手がかりもない状態だ。

 自分なりの考えで進んでいく他ないだろう。

 お前達はお前達で自由に考えて進むがいいさ」


そう言い終えると彼女は再び「ふん」と鼻息をつき、黙ってその通路へと歩を進める。


そんな彼女を見た他の生徒達は、自発的な行動を取りあぐねている様子だったが……


「………僕はイーラさんの後に続きます。

 皆さんはどうしますか?」


僕が他の生徒達へと振り向き、全員の顔を見ながらそう告げると―――


いまいち納得のいっていない風の面持ちの生徒もいたけど(特にさっきの男勝りの女生徒さん)―――


結局反対の声は上がらず、全員でイーラさんの選んだ通路へと歩き始めたのだった。


「あの、折角なのでついでに自己紹介もしておきませんか?

 イーラさんはともかく、僕達はこれから協力しないとですし……」

「ああ、そうだね!

 僕は―――」


こうして……顔も知らないまま突発的に組むことになったチームで―――


僕達はクリーム色の迷宮を攻略していくことになったのだった―――



それにしても、他の皆は大丈夫なのだろうか……?



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