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第8話 僕と消失重


―――ドッドッドッ!!


「ひっ!ひぃっ……!

 よ、避けっ―――!」


―――ゴキィッッッ!!!


「いッ―――ぎゃあああああッッッ!!!」


その生徒は『ロック・リザード』の突進を何とか避けようとしたらしいけど……足がすくんでしまったらしく、上手く動くことが出来なかったようだ……


完全には避け切れず、足に突進を食らってしまった……!


その足は、あらぬ方向へねじ曲がり―――その激痛による叫び声が響く……


そして―――


―――ガコンッ………!


「ひっ、わああぁぁぁぁぁ――――!!」


最初に吹っ飛ばされた男子生徒と同じく、彼が居た場所の床に穴が空き、その中へと彼は消えていった……


―――ドッドッドッドッドッ!!


「ひッ……!こ、こっちにも来たぞ!」

「に、逃げるぞ!ひとまず向こうの階段に―――ッ!?

 おい、前だ!!!

 向こうからも来てるぞおおお!!」

「へっ?

 あ……わああああああッッッ!!!」


―――ガコン……!


「畜生!なんなんだよコレ!」

「おいッ!どけッ!どけェッ!!」

「痛ッ……!

 てめッ―――はッ!?

 う、うわぁああああああ!!!」


―――ガコン……!


「クソッ……!

 やってやる……やってやらあああああ!!!」


他にも現れた数体のクリーム色の『ロック・リザード』の群れによってこの場は混沌の渦に飲み込まれつつあった。


必死に逃げ出そうとする生徒。

他を押しのけようとする生徒。

腹をくくり、立ち向かおうとする生徒……


1人、また1人と『ロック・リザード』の餌食となり、床を転がり……そして、床に空いた穴の中へと消えていく……!


そんな中で、僕は―――


―――ドッドッドッ………!


「ひッ……いやぁあああああああ!!!!」


―――ダッッッ!!!


「《ラージ-ポットリッド》!」


―――ガッキィィィ!!!


「え……?

 あ、貴方………!?」


「立ってください!!

 早く!!」


へたり込んでいた女生徒に向かって容赦のない突進を浴びせようとしていた『ロック・リザード』の前に、黒い『大鍋蓋』を正面に構えて飛び込んだ。

生徒を数十メートルも吹っ飛ばす威力を持つ突進も、衝撃によって数トン単位の重量増加を起こすこの『鍋蓋』を吹き飛ばすには至らない。


むしろ激突してきた『ロック・リザード』の方こそダメージを負ったようで、そのクリーム色の頭部に蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。

先程この『ロック・リザード』のことをまるで陶磁器のようだと例えたけど、ヒビの入ったその姿はまさにといった感じだ。

そしてそれを見て僕は思った。


この『ロック・リザード』……もしかして本物よりも脆いのか……?


なら―――!!


「《ミートハンマー》!!」


僕は即座に木剣の柄の先に通常サイズの黒い『肉たたき』を生成する。


そして、体勢を立て直そうとしている『ロック・リザード』に向かって―――駆ける!


「はあああああああッッッ!!!」


僕はその『ロック・リザード』の、ヒビの入った頭へ―――『肉たたき』を、振り下ろす!!


―――ガッ……キャアアアアアン!!!!


それはまさしく陶磁器を叩き割ったかのような甲高い轟音。

派手な音を立てて頭部を失ったクリーム色の『ロック・リザード』は……残った身体を床へと倒れ込ませるのだった。


「よし!

 やっぱり、普通の大きさの《ミートハンマー》で倒せる!」


本来なら2倍のサイズが必要なはずの『ロック・リザード』を通常サイズで対応できる。

そのことを確信した僕は安堵の笑みを浮かべた。


『ヘルハウンド』並のスピードは脅威には違いない。

けど、僕にとってはそれ以上に体外に放出するキュルルの欠片達を抑えられる優位性の方が勝った。

攻撃方法も通常と変わらず真っ直ぐこちらに突っ込んでくるだけだから迎撃もそう難しくない。

これなら―――


「うわあああああああああああ!!」


「―――!!」


他の生徒の悲鳴により、僕は考えを中断してそちらを見やった。

ここから100メートル程先―――そこでは先程僕達に向かって落ち着くように呼び掛けていた眼鏡の生徒が『ロック・リザード』に襲われようとしていた。


今から僕が全速力で駆けたところで、到底間に合わない―――


―――普通ならば。


「《バニシング・ウェイト-ニアゼロ》!」


―――トンッ……!


僕はその《魔法名》と共に、床を蹴った。


直後、そのとても軽い音とは裏腹に―――僕の身体は光の如く加速する。


そして―――


―――バッッキャァァァアアア!!!


「ひあッ―――!?」


凄まじい速度を乗せた《ミートハンマー》が『ロック・リザード』の身体を叩くと―――

クリーム色の身体が粉々に吹き飛ぶ音が辺り一面に響き、助けられた生徒が眼鏡をズラしながら思わずといった風な驚愕の声を漏らした。


「大丈夫ですか!?」


「え……あ、ああ……!」


助けられた生徒は戸惑いながらも僕の声かけに返事をすると、眼鏡をかけ直しながら立ち上がり、その場から脱した。


そして僕の方は―――


「はぁっ……!はぁっ……!

 ふぅ……よし……まだ、大丈夫……!」


少し荒くなった息を整わせていた。


質量操作魔法 《バニシング・ウェイト》。

ガーデン家のお屋敷で起きた出来事が切っ掛けで目覚めた僕の『力』。

自らの重量をほぼ0にまで消失させることで、本来ならあり得ない程の超高速移動を可能にする魔法だ。

物体に衝突した時の速度によって重量が増す僕の【フィルズ・キッチン】と組み合わせればその破壊力は僕自身の想像を絶する程となる。


但しそれだけの『力』に何の代償も無いはずもなく……

この魔法を発動すると、僕の身体には凄まじい疲労感が生まれるのだった。


今はこの生徒を助ける為にほんの一瞬だけの発動だったけど……

それでもまるで数十メートルの距離を全力疾走したかのようだった。


『これ』の多用は、出来そうにない……か………


けど、それについて考えるはとりあえず後回しだ。

今はこの場を切り抜けることを―――


「貴方!!後ろぉ!!」


「―――!!!」


その声は最初に助けた女生徒のものだった。

僕は素早く反応して振り向く。


そこには―――


―――ドッドッドッドッ!!


まだ距離は遠いけど―――僕に向かって突進をかけて来る3匹の『ロック・リザード』の姿が見えた!


僕は改めて黒い『肉たたき』を両手に握り、迎撃の構えを―――


「お、おい!!

 横からも来てるぞ!!」


「―――ッ!!」


今度は眼鏡の男子生徒からの声だ。

僕が左右へと目線を移動させると―――


壁に空いている通路の奥や階段の奥から2体ずつ、更に追加とばかりに『ロック・リザード』が雪崩れ込んできていた!


僕は、ほぼ前後左右を―――7匹の『ロック・リザード』に囲まれた!

そしてその全てが―――


―――ドッドッドッドッドッドッ!!!


同時に僕に向かって襲い掛かる!


「ああっ―――!」

「君―――!」


僕が助けた2人の生徒の息を飲むような声が聞こえる。


逃げ場は無し。


先程のように質量操作魔法を使えばこの場から脱せるかもしれないが、次に再びあの疲労が襲えば僕の少ない体力は確実に尽きてしまうだろう。


ついさっき僕自身が思ったことだ。

あの《バニシング・ウェイト》の多用は出来ない―――


「『あの』《バニシング・ウェイト》なら、ね」


僕は『ロック・リザード』が目の前に迫る中で―――しっかりと心の中であるイメージを思い描く。


そして、再びその『魔法名』を呟いた。


「《バニシング・ウェイト-1/2(ハーフ)》」


―――ダンッッッ!!


同時に――僕は床を蹴り、思いっきり飛び上がる!

『半分』の体重となった僕は、突進してくる『ロック・リザード』の頭上を宙返りしながら通り過ぎ―――


―――ガガギギャァァァァ!!!


標的を見失った『ロック・リザード』達同士が激突し、その頭や身体のあちこちにヒビが入る羽目になった。


―――トッ……!


床に着地した僕は即座に《ミートハンマー》を構え、仲間同士で衝突した衝撃で地面を転がる『ロック・リザード』に向かって反転する!


先程の男子生徒を助けた時とは比べるべくもない―――


それでも普段とは段違いの速度で『ロック・リザード』達に肉薄した僕は―――



「うおああああああッッッ!!」



―――ガガガガガガギィィッッッ!!!



黒い『肉たたき』を7体の『ロック・リザード』に―――叩き込む!!!


その陶磁器のようなクリーム色の破片が、雪のように舞い散り―――


「はぁ……!はぁ……!はぁ……!」


汗をかき、荒い呼吸に苛まれながらも―――

僕は倒れることなく、その場に立ち続けていた―――


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