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第7話 混乱と襲撃


「お、おい……!

 どうすりゃいいんだよ……これ……!」


困惑の表情を浮かべる1人の男子生徒の声が響く。

僕は何とか冷静を保とうとするも、心情的にはその生徒と……いや、この場にいる全ての生徒と間違いなく同じだった。


見知った心強いチームの皆といざ『試験』開始!……と思った矢先にバラバラに分断され、強制的に顔も知らぬ生徒同士が集められてしまった……

そんな状況で動揺せずにいられる方がどうかしているだろう……


「み、皆!とにかく落ち着こう!

 制限時間もあるんだし、いつまでもここで立ち尽くしてる訳にもいかない!」


生徒の内の1人、眼鏡をかけた男子生徒が困惑に騒めく他の生徒達に向かって声をかける。

その声に僕を含めたその他の生徒達は少しばかりではあるが冷静さを取り戻した。


そうだ、今は『選抜試験』の最中……!

こんな事態になったことは完全に想定外だけど……戸惑ってばかりもいられない!

僕は頭を振り、改めて周りを見渡した。


僕達が居るこの場所は先程まで居た第三天中心地と同じ淡い光を放つクリーム色の石材で出来ており、その中心地に負けないぐらいの広大な空間だった。

そしてこの空間の壁の所々には通路の入口や上へ向かう階段、下に向かう階段などが見える。


恐らくそれらの内どれかがコーディス先生が言っていた外縁部の部屋に続いているとは思うのだけれど……一体どれがどの場所へ繋がっているのかなんて皆目見当もつかない……

僕達はその通路や階段を見やり、再び途方に暮れることになるのだった。


「えっと、外縁部は中心地から反対方向にあるんだから……

 取り合えず入口の扉の反対方向にある、あの通路に行けばいいんじゃねーか?」

「おい!そんな単純な考えでいい訳ねぇだろ!

『君達を徹底的に理不尽に追い込む』ってさっきのコーディス先生の言葉、もう忘れたのかよ!」

「ああ!?

 じゃあテメーはどういう考えだっつぅんだよ!?」


「ちょ……!お、落ち着け!」


2人の生徒が声を荒げて言い合いを始めてしまった。

元々顔も知らない生徒同士、そりが合わなければこういうことも起きよう……

だからこそ、見知った者同士でチームを組んでいたはずのだけど……


さらに耳をすませば……その2人だけでなく、他の所でも意見の衝突がちらほらと起きているのが分かった。

「取り合えず軽い自己紹介をして得意魔法とか出来ることを話し合おう」という声もあれば、「そんなことしてる暇はない、とにかくここから動くべきだ」などという声もある。


そうして、この場を取り巻く空気は当初の突然の事態による困惑によるものから、他人との意見の押し付け合いというギスギスとしたものへと変貌しつつあった……


この流れは不味いような……!


僕はなんとかこの場の生徒達に落ち着いて冷静に話し合えないか思案し……結局碌な考えも浮かばず……


ああ、こんなことなら初対面の人との挨拶用にキュルルンゼリーでも用意しておくべきだった……!


などと割と現実逃避気味な思考に移り始めた時――――



―――のしっ……のしっ……



「………?

 なんだ……この音……?」


周りの生徒達の喧騒の中に……なにか、おかしな音が混ざり始めた。


僕以外の生徒も、嫌にこの場に響くその奇妙な音に気付く。


「お、おい……!

 向こうに、何か居るぞ……!」


生徒の内の1人が部屋の奥の方を見ながらそう呟く。

その生徒が見ている方向へ、他の生徒達も目を向ける。


そこにいたのは―――



「角の無い……『ロック・リザード』……?」



それは、大陸西側でもう何度も目撃した魔物『ロック・リザード』だった。

但し僕がぽつりと呟いたように、その『ロック・リザード』からは鋭利な角は生えておらず……

そしてそれ以上の特徴として、その身体はこの迷宮を構成している石材と同じクリーム色をしていた。

ごつごつとした鱗まで含め、奇麗な光沢があり、それはまるで精巧な陶磁器のようにも見えた。


そんなクリーム色の体色をした『ロック・リザード』が僕達から見て部屋の奥側から「のし……のし……」と、聞き慣れた足音と共にこちらへ向かって来ている……


僕達が騒然としている内に、部屋の奥側の通路のどれかから現れたのか……?


「なあ、アレも……『試験』なのか……!?」

「まさか魔物まで用意してるなんて……!」


そんな突然の乱入者に、僕達がまたも騒めき始めていると―――


―――ずしっ……!


「お、おい……あれ……攻撃態勢だ……!

 来るぞ!」


四つの足をどっしりと構え始めた『ロック・リザード』を見て、全員に緊張が走った。

その『ロック・リザード』の近くにいた生徒達は逃げるように距離を取った。


だが……


「へっ!情けねぇ奴らだな!

 テメェら邪魔だ!どいてろ!」


そんな声と共に……生徒達の集団の中から大槌を構えた1人の男子生徒が、不敵な笑みを浮かべながらその『ロック・リザード』の前へと躍り出る。


「『ロック・リザード』ならもうとっくに倒し慣れてんだよ!

 コイツの引っ繰り返し方ももうコツは掴んでんだ!

 何だったら俺一人でも―――」



―――ドッドッドッッッ!!!



「―――え?」


彼の強気な言葉は―――途中で驚愕の呟きに変わった。


普段なら見てから簡単に躱すことが出来るくらいの速さの『ロック・リザード』が―――まるで『ヘルハウンド』並の速度で猛進してきたからだ。


完全に虚を突かれた男子生徒は―――



―――ドゴッッッッ!!!



「がッッッ――――!?」


『ロック・リザード』の突進を、まともに喰らってしまった―――!


ボキボキボキィ!という骨が砕ける嫌な音が辺りに響き渡り―――


その生徒は砲弾のように吹っ飛ぶと―――


「う、わあああっ!!」


後方にいる生徒の集団の方へと飛び込むことになった。

数名の生徒達が慌ててその場から離れ―――


―――ドッッッ!


クリーム色の床に、その生徒が激突する―――


「――――ぁッ………!!!

 がッ………ぎィッ………!!!!」


折れた肋骨が肺に刺さったのか……

その生徒は、叫び声すら上げられず、その場でのたうち回っていた……


その惨状にその場にいた生徒達が息を飲み、何も言えずにいると―――


―――ガコンッ……!


「えっ――――」


その呟きは、のたうち回っていた男子生徒からか、はたまたそれを見ていた周りの生徒達から漏れ出たのか―――


突然、男子生徒が倒れていた場所の床に穴が空いた。


当然、その場にいた男子生徒は――――


「う、あぁぁぁぁぁぁぁ――!!!」


穴の中へと、落ちていくのだった―――


そして、僕達がその光景に唖然としている内に………


―――ガコ………


その生徒が落ちていった穴が……静かに塞がる……


「えっ……えっ……?」と、その一連の流れを見ていた生徒達から今日何度目になると知れない困惑の声があがる。


すると―――


―――戦闘不能となった生徒はこちらで回収させてもらうよ。

―――当然『試験』には失格となるけどね。


無機質なコーディス先生のアナウンスが再び響き渡った。


いや、生徒の回収ってあの生徒は大丈夫なのか、彼は一体何処に行ってしまったのか……

そんな疑問が頭の中に浮かび、僕らはしばし呆然としていたが―――



―――のしっ……のしっ……のしっ……!



「お……おい……!!

 来てる!!!来てるぞ!!!

『ロック・リザード』が……群れで!!」



再び聞こえて来た足音と―――

生徒が発した声により―――


ぼさっとしている場合では無いということ思い知らされる――!!!



―――ドドドドッッッ!


「う……うわああああああ!!!

 来たああああああ!!!!」



生徒達の悲鳴が、一斉に響き渡った―――


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