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第6話 僕と仲間達、そして試験開始


「へえ、アンタが噂のフィル=フィールか!」

「話はキャリー達から聞いてるわ。

 貴方の力、頼りにさせてもらうからね!」

「よろしくね!フィル君!」


「は、はい!よろしくです!」


僕はチームに加わった初対面の生徒の皆さんと挨拶を交わしていた。

こうやってお話するまで僕の弱っちそうな見た目を馬鹿にされたりしないだろうか、なんて不安もあったのだけど……そんなのまるで杞憂だということがすぐに分かった。


誰も僕を見た目の印象なんかで判断せず、仲間として接してくれている。

それが、僕にはとても嬉しかった……!


そんな感慨に耽っていると……


「あ、あの……!」


「きゅるー?

 今ボクのこと呼んだー?」


近くから、そんな声が聞こえて来た。

その声の方向へと振り向くと……そこにはキュルルと複数人の生徒の姿があった。

たった今キュルルに声をかけたのは、その生徒の内の1人の女生徒のようだった。


彼女はキュルルに声をかけた後、続けて何かを話そうと口を開くも「あ……う……」と声にならない声が出てくるのみであった。


「?」とキュルルが首をかしげて言葉を待っていると………


「えっと………!

 こ、この前は……その……!

 わ、私達のこと!

 助けてくれてありがとうございました!!」


―――バッ!


「きゅるっ!?」


女生徒が意を決してお礼の言葉を発するのと同時、彼女と彼女の隣に並んでいた他の生徒達が一斉に頭を下げた。

その光景に驚いたキュルルが目を丸くする。


「この前の魔物の襲撃があった時……

『ロック・リザード』から、私達を助けてくれたこと……

 そのお礼を、ずっと言いたかったの………!」

「あ……アナタ達、この前の時の……!」


女生徒の言葉で、キュルルも彼女達のことを思い出したらしい。

どうやら彼女達は、あの魔物襲撃事件でキュルルに助けられた生徒達のようだ。


「私達……ずっと、アナタのこと……得体の知れない魔物、としか思っていなくて……

 だからあの時、アナタに助けられても……何も言えなくて……」

「……………」


女生徒はキュルルに対して抱いていた感情を包み隠さずに話した。

キュルルはそれを黙って聞いている。


「それで……今日までずっと……何も話さないままでいたけど……!

 この場を借りて……改めて、言わなきゃって思ったの……!

 本当に……ありがとうございました!

 そして……ここまでお礼を先延ばししてしまって……ごめんなさい……!

 キュルルさん……!」

「きゅ……!」


その女生徒のお礼と謝罪に……キュルルは目を見開き、しばし言葉を失うのだった……

そして、少しの沈黙の後、両手をギュッと胸の前で握りしめ―――


「きゅるー!

 そんなの全然気にしてないよー!

 これからはボク達一緒にがんばろーねー!」

「………!

 はいっ!」


満面の笑みを浮かべながらそう応えたキュルルに……その女生徒もまた嬉しそうに笑うのだった。


そして、その光景を見ていた僕もまた、嬉しい気持ちでいっぱいになった。


この学園に来て、キュルルと過ごすようになって約一ヵ月……

最初の頃は、キュルルがこの学園で孤立してしまうんじゃないか、なんてことを思ったりもしたけど……

きっともう、そんな不安は必要ない。


『『魔物』とか、『スライム』とかじゃなくて……

 ボクは、『キュルル=オニキス』だもん!』


僕はかつてキュルルが言っていた言葉を思い起こす。

彼女のことをただの『魔物』ではなく……『キュルル』という個人として認めてくれる人は、どんどん増えてきてくれているのだ。


それが……僕には堪らなく嬉しかったのだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「俺、怪我して動けなくて……!

 助けてくれて本当にありがとう……!

 それに、あの時すぐにお礼言えなくて、ごめん……!」

「わ、私からも!

 仲間を助けてくれて、ありがとうございました!」


目の前の人達からお礼の言葉を貰うたびに、ボクの心に暖かいモノが満ちていく。


だけど、その暖かいモノが胸を満たす度に―――


『――を……――たせ――』


あの声が、響く―――


「―――ッ!」


「キュルル?

 どうかしたの?」


「……ううん!なんでもない!

 気にしないで!」


突然何かを堪えるように目を瞑ったボクのことを、近くにいたフィルが心配してくれる。



ボクは、ボクの中から響く声から―――


必死に意識を背ける―――



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「………!」


僕は巨大な扉の前でゴクリと息を飲む。


他のメンバーの皆さんとの挨拶を済ませた僕達はこの部屋に存在する無数の扉の内の一つを選び、その前で待機していた。

不安は無くなったとはいえ……やはりどうしても緊張はしてしまう……


「さて、この場の全員が扉を選び終えたようだね。

 それでは早速『選抜試験』を開始しよう。

 アリエス先生、始めてくれ」


―――ガコォッ……!


「――――っ!!」


コーディス先生は僕の緊張などお構いなしに開始の言葉を告げた。


一体どこで聞いているのか、この場に居ないアリエス先生に向かってコーディス先生が指示をした瞬間、目の前の扉が鈍い音を立てる……!


―――ゴゴゴォォ………!


この空間中に音を響かせながらゆっくりと開いていく扉は、まるで僕らを飲み込もうとする巨大な魔物の口のようだった……

心臓の鼓動が早鐘を打ち、否が応にでも喉が渇いていく……


それでも……!


―――ゴォォォォ………!


完全に開ききった扉を前にした僕は………!


皆の方を振り向き、これから共に『試練』に挑む仲間達の顔を見渡し………


意を決して、叫ぶ!


「皆!!!行こ―――」





―――ズォッッッ!!!




「……………え?」



僕が叫ぼうとした瞬間…………


僕の視界から仲間達の姿が消えた。


その理由は――――


「―――――壁?」


そう―――


突然、僕の前に―――クリーム色の壁が現れたのだ。


それは、僕の目の前の床が突然せり上がったことによって現れた壁だった。


いきなり何が起きたのか分からず、僕が思わずフリーズしてしまっていると―――



―――ズズズズォッッッ!!



「えっ………えっ、えっ!?」


僕の目の前だけでなく、僕の両隣、そして背後―――


僕の四方が――――壁に囲まれた!!


「えっ、なっ!?

 と、閉じ込められっ―――うおわぁ!!??」


混乱に次ぐ混乱に見舞われる僕に、更に追加の混乱が起きる。


僕を取り囲んだ4枚の壁が――僕が乗っている床ごと動き出したのだ!


まるで籠にでも乗せられて、どこかに運ばれているかのようだ!


いや、『まるで』ではなく、これは―――


「―――うあっ!?

 と、止まった……!?」


物凄いスピードで何処かへと向かっていた僕を乗せたクリーム色の空間が、突然ビタリと止まる!


そして―――


―――ヒュッ………!


僕を囲んでいた壁が………床に吸い込まれていくように消え―――


そして、開けた視界に見えたのは―――


「うわっ!?壁が消え―――え?」


「わぁっ!え!?

 だ、誰!?貴方達……!?」


「あ、あれ……!?

 アイツらは……!?

 っていうかココ……何処だ……!?」


混乱の渦に見舞われる……見知らぬ生徒達の姿だった………


どうやら……僕だけでなく、ここに居る皆が………

いや……おそらく、この『試験』に参加した生徒全員が同じことを体験したようだ……!


これは………まさか……………


「チームの…………シャッフル………!?」


このチームの皆となら『試験』なんてどうにでもなると意気込んでいた僕達は………『試験』開始直後に、バラバラにされてしまった……!!


―――ゴゴゴゴ………!


「うえっ!!??

 扉が!?」

「こ……ここ!!

 扉の中だぞ!!」


僕達の背後で扉が閉まっていく……!


未だ混乱から立ち直れずにいる僕達は……呆然としながらそれを見ているしかなかった……



―――最後に、一つだけ君達に伝えておく。



そんな僕達の耳に、どこからかコーディス先生の声が響いてきた。



―――この『試験』では、君達を徹底的に『理不尽』に追い込んでいくつもりなので、どうか心して挑んで欲しい。


―――それでは。



そして、その言葉以降………コーディス先生からは何も言われることはなく―――


不気味なほどの静寂の中……僕達の『選抜試験』は始まったのだった………







 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



―――ズゥン……ズゥン………!



「さて、あの子達は果たして『コレ』を倒せるかな」


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