第3話 僕達と謎の告知
《 エクスエデン校舎廊下 》
「きゅっきゅるー!
今日もボクとフィルで大活躍だったねー!
ボクが動きを止めてフィルがトドメを刺す最強コンビネーション!」
「まあ君が相手を締め上げた時点で既に9割方瀕死になってるから僕の意味があるのかどうか微妙な所なんだけどね……
それにしてもイーラさんってば隙あらば他生徒に罵倒を浴びせるんだから……
僕がすかさず彼女の勇者様へのガチっぷりを伝えてあげなきゃ一体どれだけトラブルが起きていたことか……」
「なんかもう彼女の秘事、全生徒中三分の一くらいには知れ渡ってしまっている気がしますわ」
などと会話をしながら廊下を歩いていた僕達の目に……ある光景が飛び込んできた。
―――ガヤガヤ………ガヤガヤ………
「きゅる?」
「なんだろアレ……人だかりが……」
「あの場所は……学園からの告知が張り出されている掲示板の前のようですわね」
そう、そこは学園から生徒達に何かしらのお知らせをする時に使われる掲示板だった。
僕が知る例では……僕がこの学園にやって来た時、受付のアリエス先生から『魔法師』の素質がある人用には講習を用意してある、という話を聞いたことがあったが、その講習の開催場所、開催日時などが張り出されていることがあった。
僕もその講習に興味はあったけど……僕の場合、『魔力値』や体質など、ちょっと他の人とは事情が特殊過ぎてあまり参考にはならないかもなぁ……と思い、魔法に関してはアリーチェさんからの魔法講座で学習することにしたのだった。
閑話休題。
まあ、そんな風に度々この告知用掲示板は使われるのだけど……
今日のように生徒の人だかりが出来るなんてことは一度もなかったはずだ。
一体どんな告知が……?
僕達はすし詰め状態の生徒達をなんとか掻き分け、その張り出された告知用紙を目にした。
そこに記されていた内容は―――
「『特別校外活動受講者』……『選抜試験』!?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 エクスエデン校舎・食堂 》
「皆さん、掲示板に張り出されていたあの告知……見ました?」
食堂に集まったミルキィさん達……最初の討伐活動でチームを組んだメンバーの皆に向けて、僕は質問を飛ばした。
「ああ、とっくに知ってるぜ。
あんなデカデカと張り出されたら誰でも気付くだろうよ」
「そうでなくても、周りでこれだけ噂してたら嫌でも耳に入ってくるわな」
ミルキィさんの返事に続き、ヴィガーさんが周りの様子をチラリと横目に見ながら話す。
耳をすませば、周りの生徒達の話す内容は全てがあの告知についてだ。
既にこの食堂だけに留まらず、学園中で話題になっている状態なのであった。
「特別郊外活動……ってなんだろうね……?
大陸西側での魔物討伐活動とは違うのかな……?」
「そうでなければわざわざあのような告知は行わない。
だけど、その内容について一切の説明がされていないのがかなりの気がかり」
バニラさんが不安げな表情で疑問を呟き、キャリーさんが淡々とした様子で応える。
そう……あの告知では『特別校外活動』などという名称が出てきたが……その活動内容については一切の情報が無かったのだ。
『校外活動』というからにはここの外で行う……ということなのだろうが、これまでに行ってきた大陸西側での魔物討伐活動とはまた別……ということなのだろうか……?
「それ以上に気になるのが……『選抜試験』の存在ですわね。
今まで学園活動を行うにあたってそのような措置が取られたことは一度もありませんでしたわ」
「そしてその『選抜試験』の内容についてもこれまた一切の説明なし……
どうにも……今までの学園活動とは何かが違うというか……異質なものを感じてしまいますわ……」
アリーチェさんがティーカップを一口含みながらそう言い、スリーチェがそんな姉の仕草を真似るようにティーカップを口に付けながら言葉を続ける。
「『選抜試験』の開始日時は2日後の午前7時から。
場所は………」
「学園校舎『第三天』……『特別実習室』………ということですが………」
「確か『第二天』から先の階層は現時点で入ることは出来ないようになっているのではなかったでしょうか?」
「ええ……聞くところによると、校舎内にある特別な『昇降機』を使わなければ立ち入ることは出来ないのだとか……」
ファーティラさん、ウォッタ、カキョウさん、プランティさんが続けて話す。
今更だけど、この勇者学園『エクスエデン』に使われている校舎は10層の階層分けがされているらしく、僕ら生徒が普段暮らしている部屋がある領域が『第一天』、先生達の協議室やこの前も使った講義室なんかがある領域が『第二天』と呼ばれていて……ファーティラさん達が話していた通り、生徒が入れるのは現状『第二天』までとなっている。
『第三天』から先は一体どんな部屋があるのか、僕達生徒はまるで分からないのだった。
一言でまとめると………一体何が何だかさっぱり分からない、ということだ。
意図も内容も全く持って不明な謎の『特別校外活動』と『選抜試験』……
普通なら、とても参加しようなんて気にはならないだろう……
だけど―――
「ふん!!!
なぁにをゴチャゴチャ言っているんだお前達は!!」
コリーナさんが腕を組みながら大声で僕達に向かって語り掛ける。
「どれだけ怪しかろうが!!意味不明だろうが!!
あんなことが書かれていた以上!!
参加しない訳にはいかないだろうが!!!」
彼女から力強く放たれた言葉を否定する人はいなかった。
僕は改めて思い起こす。
あの告知に記されていたあの一文を―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【この『特別校外活動』に参加した者には、『勇者』になる為に必要な『力』が授かれるであろうことを、『勇者学園』最高責任者コーディス=レイジーニアスの名に誓って確約する】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「『勇者』になる為に必要な『力』……」
僕が改めてその文を口にすると、この場にいる皆の表情が引き締まった気がした。
その『力』とは『エクシードスキル』のことなのか。
はたまた別の何かなのか……
具体的なことは何も書かれていない。
それでも―――
「きゅる!
だったら、絶対参加しなきゃだよね!」
最後のメンバー……キュルルが僕を見ながら言う。
「だってフィルは……『勇者』になるんだもん!」
そう言いながら……キュルルはニッ!と笑う。
僕は―――
「うん!勿論!」
そう、力強く返すのだった。
そしてそんな僕の言葉に『勇者』になるのは俺だ!私だ!と、他のメンバーが追随してきて――
ワイワイと、賑やかになった空気の中―――
告知の最後に書かれていた一文によって湧き起こっていた一抹の不安を頭から追い出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【なお、『選抜試験』の詳細については当日に詳しい説明を行うが、命の危険だけはないので安心して欲しい】