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第1話 ボクと夢、僕とヴァール史


『――を……――たせ――』


…………誰の声………?


『お前の――を――たせ――!』


ボクの中で、誰かの声が響く。


『お前の――『――――』を……――せ――!』


ボクを急かすように―――


ボクを責め立てるように―――


声が、響く――――


分からない……

この声が何を言っているのか、分からない………


いや………分かりたく、ない………


ボクは……この声を……聞きたくない……!


「フィル……!」


この声を遠ざけたくて――


とても大切な存在の名を、ボクは思わず口にしていた——


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


《 エクスエデン校舎・第二天 講義室 》


「さて!『勇者』に必要なのは強大な『力』だけで、一般教養なんて何も必要ない……なんてことはありません!

 後世まで語り継がれる英雄が碌な知識も学も無かった、なんて恥ずかしいですもんね!

 という訳で!本日こちらエクスエデン第二天・講義室にて『ヴァール史』の講義を担当するカノン=メロディです!

 皆さん、今日はしっかりと知識を蓄えていってくださいね!」


「なんか急に普通の学園っぽいこと始まった!」


大量の机が並ぶ、すり鉢状の部屋の中心点に立つ、ベージュ色の美しい長髪をポニーテールで結んでいるカノン先生からの声が拡声器のマジックアイテムを用いることで、この学園全ての生徒が集まる広大な講義室に響き渡る。


そんな先生の元気な挨拶に思わずツッコミの声を上げてしまった。


「コラそこー?

『勇者学園』が普通の学園っぽいことしてはいけないとでも言うんですかー?」


「え、あ、いや、別にそんなことは……

 すいません……」


僕のツッコミにすぐさまカノン先生からの注意が掛かり、そんな僕に周りからはクスクスと笑いが漏れる……


いやだって……今まで模擬戦やら魔物討伐やら肉体を使った活動しかして来なかったもんだから……


と、僕が身を縮ませながらカノン先生を見つめていると……


「――?」


「おやー?どうしましたかー、ぼーっとしちゃってー。

 もしかして先生に見惚れちゃってますかー?」


そんなことを軽い調子で話しながらウィンクを飛ばすカノン先生の顔を僕はまじまじと見つめる。


この先生とは今日初めて会ったと思うけど……

なんか見覚えがあるような……


「あ、思い出した。

 キュルルと再会して、あの子が人型になるのに調査隊の人を参考にしたって話の時に逃げ出した先生だ。

 確か調査地域で男の人と―――」


「さあ!!!!!

 無駄話はこれぐらいにして早く講義に入りましょうね!!!!!」


僕の言葉を掻き消す大音量が講義室の中に響き渡り、前側に座っていた人達が耳を抑え悲鳴を上げた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「さてー、5年前まで続いていた『ヴァール大戦』は皆さんの記憶にもまだまだ新しいかと思いますが、実は人類と魔物の大戦闘はこれが初めてという訳ではありません。

 今より約550年前……つまりは現在の光歴525年以前の昔、大陸全土で魔物の大繁殖が起き、人類に多大な被害を及ぼしたことがありました。

 その頃の『ヴァール』は大小様々な国家が乱立しており、各国で領土争いが盛んに行われておりましたが、その魔物達の脅威を前にして1人の国王が大陸の全ての国々を纏め上げました。

 それこそが現『ヴァール』の国王……ヴァールライト8世のご先祖様です。

 彼と共に大陸の人類が一丸となって魔物達と戦い、その脅威を取り除くことに成功しました。

 大陸西側へと魔物達を追い込み、『両断壁』を作り上げた暁に、彼は自らをヴァールライト1世と名乗り、この大陸における統一国家を樹立され……そしてその時より、新たな年号『光歴』が始まったのです」


へぇー……僕がずっと過ごしてきたこの大陸にそんな歴史が……

全然知らなかったや……


……まぁ、それはそれとして………


―――ガッガッガッ……!


僕は目の前の光景を何とも言えない表情で見つめるのだった……

それは、カノン先生が黒板にチョークで講義内容を書き記しているという、その字面だけを見れば何の変哲もないありふれた授業風景なのだが……


問題はその黒板が数十メートルもの巨大なもので……

それに使われるチョークもまた直径1メートル程もあるということだ……

まあ、これだけの人数に同時に見えるようにする為にはこれぐらいは必要になるとは思うのだけど……

絵面的にはすっごいシュールだ……


当然、カノン先生はそんなチョークを直接持ち上げている訳ではなく、魔法によって浮かび上がらせながら書き記している。

そもそもあの巨大チョーク自体がカノン先生の魔法によって作り出されたものであった。

多分『石魔法』……なのかな?


ともかく、そんな光景にただ圧倒されている訳にもいかない。

僕はすぐさま黒板の内容を手元のノートに書き写していく。


そんな僕の耳に―――


「きゅるぴーー………

 きゅるるぴーー………」


隣ですやすやと気持ちよさそうに眠るキュルルの寝息が飛び込んでくるのだった……

いやまあ、講座という時点でこうなることは100%予想出来たんだけどね……


そんなキュルルを横目に僕がやれやれと言った表情を浮かべ―――


「―――フィ……ル……」

「え?」


突然キュルルが僕の名を呼んだ。

一瞬、目が覚めたのかと思ったけど……彼女は未だ机に突っ伏し、目を閉じたままだった。


ということは寝言……かな……?


ただ……その時のキュルルは……

まるで、何かにうなされているようで―――


僕がそんなことを考えていると――


「はいそこー!

 居眠り禁止ーーー!」


というカノン先生の警告と共に、彼女が操っていたチョークがこちらに向かって飛んで―――


「っていやちょっとおおおおおお!!??」


僕を含めキュルルの周りに座っていた生徒が一目散にその場を離れる!!


「んー……あれー?フィルー……?

 あ、ボク寝ちゃって―――」


―――ドゴォォォォ!!!!


「―――きゅブェッ!!!」


「ぎゃああああああ!!!」


丁度目を覚ましたキュルルの頭部が机ごと巨大チョークに押しつぶされる!!!


「ふふっ!

 居眠りする悪い子にチョーク投げは学園の講義におけるお約束ですよねー!」


「それってこんな猟奇的な見た目になるものでしたっけ!!??」


直立する巨大チョークと陥没した床の間に頭部を挟まれ、残った身体をピクピクと痙攣させているキュルルを見て僕は大声を張り上げる!


「うきゅる~……っぷはぁッ!

 もう!いきなり何するの!

 ボク、ビックリしちゃったよ!!」


と、チョークの下からペラペラになった頭を引っ張り出したキュルルが怒りの声を上げる!

なんか割と平気そうだった!!


「きゅるー?アナタってー……?

 あ!ボクが昔見た2人のチョーサタイの女の人の方!

 なんかあの時と髪型違うねー!」

「ああそれは多分、前に君があの人の髪型を参考にしたって話を聞いて、その話題に触れられないように―――」


「はぁーーーーーーーーい!!!

 講義中に私語を話す悪い子にもチョーク投げのお仕置きでーーーーーーーーーーーす!!!!」


―――ボッ!ボッ!ボッ!ボッッッ!!


「いやちょッ……!!

 うおああああああああ!!!!」


乱れ撃ちされる巨大チョーク群に講義室は生徒達の阿鼻叫喚の渦に包まれるのだった………


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「はいっ!

 という訳で、本日の『ヴァール史』及び投擲物回避訓練活動はここまでとなります!

 皆さん、ここで学んだことをしっかりと今後に活かしていきましょうね!」


「中々に逞しいなこの先生……」


そんな感じの勇者学園生活3週間目なのであった。


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