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第10話 アナタと僕、俗物共と『勇者』達


「貴方にとって、『勇者』とはなんですか?

 ただ単に、勇者アルミナ本人のことを刺す『称号』でしかないんですか?

 それとも………」


「………………」


僕の言葉を受け、イーラさんは黙り込んだ。


イーラさんの目を見る僕の目を、彼女はじっと見つめている。


静寂が、しばしの間部屋を満たし―――


「『勇者』とは―――」


彼女が、口を開く。


「その名の通り、『勇気』を持つ者……

 そして―――」


僕から、目を逸らさずに、言う。


「他者に、『立ち上がる力』を与える者」


「――――!!!」


それは――――


「あの日……アルミナに助けられ、森の外へと連れ出してもらった私は……震えて、立ち上がることが出来なかった。

『シルバー・ワーウルフ』の爪と牙が……

『リビング・ギガントメイル』の巨剣が……

 私の脳裏に、こびりついて離れなかったのだ。

 そんな私に……アルミナは、こう言ったよ」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「大丈夫だ」


「え……?」


彼女は、私の目を見て言った。


「私がここにいる限り、絶対に大丈夫だ。

 私は絶対に負けない。

 そして、絶対に死なない。

 だから……君は絶対に、大丈夫だ!」


「―――!!!」


その言葉は―――


今まで生きてきた中で聞いた、どんな言葉よりも力強く―――


心の底から安心することが、できた―――


「さあ……立てるか?」


気が付けば……身体の震えは、止まっていた―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「アルミナの言葉に……

 アルミナの姿に……

 私は、『勇気』を貰ったんだ」


「………………………」


かつて、勇者様から聞いた言葉。


『『勇者』とはその名の通り勇気を持つ者……

 でも、それだけじゃない』


『勇気を『与える』者でもあるんだ』


イーラさんにとっての『勇者』……


それは、勇者様と同じ………



なら―――



だからこそ――――!



「イーラさん」


「――?」


僕は立ち上がり―――


目線を、ベッドの上に座るイーラさんと同じ高さに合わせる。


そして、言う。


「ここにいるのは、俗物なんかじゃありません」


「!!」


僕自身は『それ』を見た訳じゃない。


『あの事件』の後……先生達やファーティラさん達から聞いただけに過ぎないけど―――


『あの時』、確かにそこには―――



『『戦えぇえええええええええ!!!!!

 『勇者』共ぉおおおおおおおおお!!!!』』


『さあ、如何いたしますか!!

『勇者』様方!!!』



「ここには、『勇者』がいます。

 勇者アルミナにも劣らない、『勇者』達が」


「―――――――」


イーラさんは、目を一瞬見開き―――


次の瞬間、僕を睨みつける。


僕は、目を逸らさなかった。


そして……お互いに何も言わないまま、ただ見つめ合い―――


「………ふん。

 勝手に言っていろ」


そう言い放ち、イーラさんは僕から視線を逸らした。


「それで、話はもう終わりか?」


「…………はい」


そう……もう、これ以上話すことは無さそうだ。

今、これ以上僕が言葉を尽くしたところで、この人を説得することは出来ないのだろう……


「色々お話してくれて、ありがとうございました。

 それでは―――」


そう言いながらイーラさんに背を向けた僕は、扉のドアノブに手をかけ、部屋を出ようとする。


その直前――――


「おい……お前、名前は?」


イーラさんが、僕に声をかける。


「あ、そういえば言ってませんでしたね……

 僕はフィル。フィル=フィールです」


「………ふん、そうか」


そう言い、彼女は一息つくと―――


「ところでフィル。

 一つ言っておくが―――」


急に、今までにない程の素敵な笑顔を見せ―――


「もし、お前が今日ここで見たことや聞いたことを他の者にバラしたりしたら……

 分かっているな?」


―――ビュォオオオオオオ!!!!!


右手から発生させた黒い竜巻の轟音と共に、そんなことを言う。


僕は生唾を「ゴクッ……」と飲み込み、コクコクと何度も頷いたのだった……


「ならばもういい。

 とっとと行け」


竜巻を収めたイーラさんのそんな言葉を受け、僕は彼女の部屋を後にしたのだった……


「ふん……

 こんな学園の生徒の名など、覚えるつもりはなかったのだがな……」


扉を閉める直前にポツリと呟かれた言葉は、僕の耳には届かなかった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



















《 エクスエデン校舎・食堂 》


「と、いう訳で!

 イーラさんは『勇者』アンチなんかではなく、寧ろ勇者様ファンの『勇者』ガチ勢だということが判明したのでした!!」


「速攻でバラしやがったコイツ!!!!」


大陸西側での魔物討伐の際のチームの皆の前で、イーラさんの部屋で見たこと聞いたことを包み隠さず話し終えた僕に、ヴィガーさんのツッコミが炸裂した。


「いやだって、確かにあの人がやろうとしていることは決して褒められたものじゃありませんけど……

 あの人も『勇者』というものに対して真剣に考えてるんだってこと、是非皆さんに知って欲しかったんですもん」

「けど勇者グッズまみれの部屋とか枕を抱いてゴロゴロしてた辺りの情報は排除してあげてもよかったんじゃないかな!?」


イーラさんにコテンパンにされた身でありながら、彼女を慮るような発言をしてしまうヴィガーさんなのであった。


「ところで、この場にコリーナがいないのは」

「皆さんがスリーチェ加入の理由を伝えなかったのと同じ理由です」

「知ってた」


キャリーさんの問いに僕は即答する。

まぁその理屈で言うとキュルルに話すのもだいぶ危険なんだけど……


「それで……貴方はどうするおつもりですの?フィル」


アリーチェさんが僕に問いかける。


「僕達やこの『勇者学園』が、決して彼女が思っているようなものではないってことを彼女に分かってもらえるように努力するつもりです。

 でも……それはすぐに伝わるようなものではないでしょうし、その間に彼女は他の生徒達を追い出そうとしてしまうでしょう。

 だから――――」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


《 後日・校舎前広場 》


―――ドガァッッッッ!!


「ぐああああッッッ!!!」


「終わりか?

 所詮、『勇者』という名に釣られて集まる奴らの力などこんなものだな。

 己の無力を恥じてサッサとここから出ていくがいい、俗物共が」


「ぐっ……!!

 くぅううううう……………」


「ふん………さて、次へ行くか」


―――ザッ……ザッ……ザッ……


「くそッ……

 くそおッッ……!!!」


―――コソッ……


「あのちょっといいですか?

 実は、あのイーラさんって人は―――――」


「え?アルミナグッズまみれの部屋?

 アルミナ抱き枕を抱きしめながらゴロゴロ?

 え、マジで?」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「イーラさんに酷い事されたり酷い事言われたりした人に、彼女がホントは勇者様ガチ勢なことを伝えてあげて、少しでも彼女への悪感情を抑えて貰えるようにするつもりです!!」

「いやお前更に不特定多数にアレをバラし続けるつもりなのかよ!!」


「大丈夫です!!

 イーラさんからは『もし他の者にバラしたりしたら分かっているな?』としか言われてません!!

 他の人にバラすなとは言われてませんから!!!」

「フィル。

 貴方わたくしの屋敷での一件でお父様からなんか良くない影響受けちゃってませんか?」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


と、いう訳で。


僕の活動によってイーラさんの過激な言動や行動は勇者様への愛が故、ということが周知され―――


彼女は生徒達からは密かに『ガチ勢エルフ』の愛称で呼ばれることになるのでした。



「くそっ、奴らめ……!

 何故ここから去ろうとしない……!

 あんなにも手酷く痛めつけてやっているというのに……!

 それに、なんか生暖かい目で見られているような……?」



「うんうん……!

 いつかは、彼女と一緒に勇者様談義なんかが出来るようになりたいな……!」


「その前にお前がブッ殺されなきゃいいけどな……」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

























《 ??? 》


「生成状況はどうかな、アリエス先生」


「はい、この調子ならあと10日程で完成するかと……」


「そうか。

 ではその間は通常カリキュラムを実施しておこう。

 当初の予定とは随分と順番が前後してしまったが、まあ仕方がない」


「でも……コーディスさん……

『これ』は……その、余りにも―――」


「生徒達にとっても、必要なことだよ。

 彼らに襲い掛かる試練は、『これ』を遥かに超えるものになるかもしれないんだ。

 君だって、もう理解しているのだろう?」


「……………分かりました。

 貴方と……彼らを、信じましょう。

 でも、それならば…………」


「――――?」


「どうか貴方も……彼らを、信じてあげてください」


「――――!」


「それでは……失礼します」


―――コツ、コツ、コツ………



「………………彼らを、信じる……か………」



『貴方はその蛇達のこと以外、誰も信頼していない。

 共に戦った仲間がこんな事態を引き起こしていようが、どうでもいい。

 だから貴方はここにいる』



「なぁスクト………

 君は私のことを、嗤うかい?」


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