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第6話 僕とアナタの動揺


「ちょっと皆さん!!

 この騒ぎは何ですか!?」


「!!」


アリーチェさんの話を聞き終え、呆然としていた僕の耳に叱りつけるような女性の声が聞こえて来た。

この声は―――


「アリエス先生!」


「ようやくコリーナさんの後始末が落ち着いたと思ったら……!

 今度は一体何―――って、フィル君!?」


人だかりを掻き分けてやってきたのは予想通り我らが『勇者学園』の苦労人こと、アリエス先生だった。


「なんか今物凄く不名誉な称号付きで紹介された気がするんですけど……!」


うーん、実に勘のいいお人だ。


「それより貴方達!また何か問題を起こしたんですか!?

 休養期間中はガーデン家へお出掛けしてたって聞きましたけど……帰ってきた途端にコレですか!?」

「いやいやいや!!違います違います!!

 今回の騒ぎは僕達とは関係なくて!!

 っていうか僕達そんなトラブルメーカー扱いだったんですか!?

 割とショックなんですけど!?」


「ほぼ毎日のようにキュルルさんとアリスリーチェさんが貴方を巡って深夜に大騒ぎを起こし、私は他生徒からの苦情に追われているのですが、何か反論はありますか?」

「あ、はい。

 弁明の余地もありません」


「お前らはとにかくコントを始めなければ気が済まないのか」


イーラさんの冷ややかなツッコミが耳に痛い……


って、そうだ!!

今はこんなやり取りしてる場合じゃなくて―――!!


「あの、アリエス先生!!

 ミルキィさんとヴィガーさんの治療をお願いします!!」

「えっ……ミルキィ君とヴィガー君って―――わあっ!?

 ふ、2人とも!?」


僕の言葉でアリエス先生が地面に倒れている2人の存在に気が付く。

彼女はすぐに2人に向かって手を当て、回復魔法をかける。

その傍ら、「一体、何があったんですか……?」と僕達へと説明を求めた。


「それがどうも、2人はこのエルフの女性……イーラさんと喧嘩になってしまったらしくて……

 原因はこの人が僕達学園生徒に向かって酷い事を言ってきたかららしいんですけど……」


「言っておくが、先に手を出してきたはそちらの方だ。

 私はただ事実を言ったまでに過ぎないのだからな」


イーラさんは黄金色の長髪を手で梳きながら、悪びれもなくそう言い放つのだった……

アリエス先生はそんな彼女を非難するような眼差しを向けつつ、口を開く。


「……今回は喧嘩両成敗ということで大目に見ますが、あまりに発言や行動が目に余るようなら強制的にこの学園を退学して頂くことも考えられますよ。

 これから先は、どうか問題を起こさず―――」


「ふん、お前にそんな権限はないのだろう?

 聞いているぞ、この学園のあらゆる事柄の最終決定権はコーディス=レイジーニアスにあるとな」


「なっ―――!」


アリエス先生の言葉を遮り、イーラさんは言葉をかぶせた。


「そして、()()()がこの程度のことを問題視などするはずがない。

 いくら声を荒げたところで無駄に気力を消耗するだけだろうに」


「んがッ―――!!」


続けて畳みかけるように告げて来た言葉に、アリエス先生は二の句が告げられぬ様子だった。

どうやらイーラさんの言っていることに全く反論出来ないようだ……


っていうか、今のイーラさんの言い方―――


「あの、イーラさん!

 アナタはコーディス先生のことをご存じなんですか?」


今、イーラさんはごく自然にコーディス先生の名を出した。

しかもこの人の口ぶりからは、ただ単に名前を知っているというだけでなくあの人の人柄についてまで十分存じているように聞こえた……


「ふん、知っているとも。

 それもコーディス=レイジーニアスだけでない。

 お前達が言う所の『勇者』……あのアルミナ=ヴァースのこともな。

 私はお前達が『勇者一行』と呼んでいる者達全てと話したことがある」


「え……えええええっ!!!」


『勇者一行』の皆さんと……話したことがある!?


「さっきそこの女が言っていただろう。

 私の故郷の『里』がある森は『勇者』と『魔王』の決戦の場に使われたと」


イーラさんはどことなくこちらを見下すような口ぶりで話し始めた。


「『勇者一行』が『魔王』との戦いに挑む前……あの者達は我らの『里』へと交渉に来ていたのだ。

 この大陸に平和を取り戻す為にこの森を使わせてくれ、とな。

 そして……その場には私もいた」


「っ……!

 それで……アナタは勇者様達と話を……!」


故郷の村を『勇者一行』の皆さんに助けられた時、碌に話すことも出来なかった僕からしてみれば、羨ましいことこの上なかった。


「ふん……まぁ、そういうことだ。

 もっとも、私を含め我が同胞達は奴らの身勝手な願いなど聞き入れるつもりなどなかったがな。

 そも、交渉の場などに就くつもりすら我々にはなかった。

 即座に奴らを追い返し、森から出ていくように通告したのだ」


「え……でも、勇者様達と『魔王』の決戦は実際『エンシェント・フォレスト』で行われたんですよね……?」


「…………………ふん」


僕の疑問の声に、イーラさんは何度目になると知れない鼻息をつくだけで何も話しはしなかった。

一体、彼女達と勇者様達の間で何が……


と、僕がそんな思いを巡らせている時だった。



「おーーーーい!!

 フィル君達ーーー!!

 ちょっといいかなーーー!!」



校門の方から、僕のことを呼ぶ声が聞こえた。


この声は―――!!


「勇者様!?

 さっき別れたばっかりじゃ……」


そう……先程僕達に別れの言葉を告げ、去っていったはずの勇者様の声だった。


そして―――


「――――ッ!!!

 ゆ、『勇者』……だと………!?」


「イーラ、さん……?」


イーラさんがその声を聞いた瞬間、表情が一変する。

その端正な美貌をくしゃくしゃに歪め、今にも感情が爆発しかねないとでも言うようだった。


「いやー、いい感じの台詞でお別れしたのにすまないなー!!

 ちょっと君達に伝え忘れてしまったことがあってねー!!

 コレ、ガーデン家で解析してもらった例のマジックアイテムの報告書なんだけど、コーディスにも渡しておいて欲しかったんだよー!!

 彼、今はウィデーレの所に行ってるらしいから、帰ってきたら―――」


「あの、すいません勇者様!!

 そのキャビン一旦下ろしてからお話してくれませんか!!

 周りがすっごい引いてるので!!」


生徒達が困惑のざわめきを起こす中、全く気にしていない様子で用紙の束を手渡そうとこちらに片手でキャビンを持ち上げながら移動してくる勇者様に僕はすかさずツッコミを入れる。


と、こちらへとやって来た勇者様が―――


「では、これをコーディスに―――ん?」


彼女に気付く。


「君……もしかしてイーラか……!?

 トリスティスの妹さんの……!」


「―――――ッッッッ!!!!」


その勇者様からの言葉を聞いた瞬間―――

イーラさんは目を見開き、何かを叫びそうになった。

だが、その声を何とか抑え込むように歯を食いしばり―――


――――ダッッッッ!!!


「あっ!イーラさん!?」


彼女は、走り去ってしまったのだった……


そしてそんなイーラさんの姿を見ながら、勇者様は呟いた。


「ああ、不味ったなぁ……

 トリスティスの名前を出したのは間違いだったか……」

「トリスティス……?」


先程、イーラさんを見た時に勇者様が呼んだその名前は……


「ああ……トリスティス=イレース。

 私達に協力したがゆえに、故郷の『里』を追放された彼女の兄の名だ」


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