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第15話 僕達と最後の確認


「貴方達の戦いをここで直接は見れなかったけど~。

 コレで私の部屋から見ていたのよ~」


そう言いながらグリーチェさんは大きめの鏡のようなモノを両手で掴みながら僕達に見せる。


「『プロジェクション・ミラー』って言うんだって~。

『投影球』を設置すると~その場所の様子をこの鏡に映してくれるの~」


そのマジックアイテムは確か……あの事件でスクトさんが使っていたものだったはずだ。

コーディス先生から聞いた話だけど……


「私がローブと一緒に持ってきたんだ。

 王都の方はアリスリーチェ嬢暗殺未遂事件で使われたアイテムや水晶ゴーレム……そして今回のローブの解析で手一杯だったからな。

 この鏡の解析はこちらに任せようということになったんだ。

 図らずも役に立ってしまった訳だな」


勇者様がそんな風に説明を引き継いだ。


そうして、全ての説明が終えられ……

改めて僕は呟いた。


「ホントに……全く想像もしてませんでした……

 僕達が今まで戦っていたのが……あの勇者様だったなんて……

 今でも信じられない気分で一杯です………」


僕の憧れ……

僕の『勇者』への思いの『原点』……


その張本人に、僕は挑んでいた……!


「全くですわね……ですが――」


アリーチェさんが僕の言葉に同意を示しつつ、言葉を続ける。


「あの異常な強さに関しては合点がいきましたわ。

 グリーチェお姉様は確かに相当な実力をお持ちではありますが……

 いくら何でも『アレ』はおかしいとずっと違和感を覚えておりましたもの」


アリーチェさんは肩を落としながらそう言った。

家族として長年接してきたアリーチェさんからしてみれば、あのグリーチェさんの強さは今まで実力を隠してた、だけでは到底納得がいかなかったのだろう……


「あ、そういえば――」


と、スリーチェも何かに気付いたような声を出す。


「お父さま、このパーティ会場で『ゲーム』の説明始めた時からずっと……

 グリーチェお姉さまのことを『この子』とか『あの子』って呼び方しかしていませんでしたわ……」


『この子に傷をつけることが出来れば、君達の勝ちだ』

『あの子のあの格好は動きやすくなる為だけでなく、傷の有無を分かりやすくする為でもある』


言われてみれば、確かに………

ヴェルダンテさんは、グリーチェさんのことを一度も名前で呼んでいなかった。


「私は嘘をつくことが嫌いだからね」


ヴェルダンテさんがいけしゃあしゃあとそんなことを言う……

この人……意外と食えない人だ……


僕が思わず半眼になっていると―――


「でも……わたくし達……本当に……」


スリーチェがふるふる震えながら声をだす。

その震えは……興奮から来るもののようだった。


「あの勇者アルミナに……この大陸の英雄に……!

 勝ってしまったんですわね……!

 勿論……ただ傷をほんの少し付けた……それだけでしかありませんですけど……!

 それでも……!」


「…………!」


そのスリーチェの言葉に、僕も今更ながら気付く。


スリーチェの言う通り……ただほんのちょっと傷を付けただけ……

8人がかりでもあの人には殆ど圧倒されて、勝負になっていなかったのが大半だったけど……!


それでも……僕達は、勝った……!


あの、勇者様に………!!


「まぁ、相手が普段の動きが全く出せない状態での勝利っスけどねー」


「え」


僕が感慨に打ち震えていると、そんなリペルさんののほほんとした声が響き渡った。


「あのローブって、着ている人の肌や服にベターって張り付くことによって姿を変えるんスけど、その状態であんまり素早い動きを出すとローブが剥がれてすぐに変身が解けちゃうんスよね」


リペルさんは勇者様が脱ぎ捨てたローブを広げながらそんな説明を続ける。


「このローブは両腕部分には張付かないようにアタシが改良したんス。

 だから両腕だけは問題なく動かせるんスけどー、もし勇者様が超スピードで移動なんかでもしちゃったら、すぐにローブが剥がれて正体バレちゃってたでしょーねー。

 さっきお嬢様のご友人に吹っ飛ばされかけた時とか、危なかったんじゃないっスかー?」

「ああ、そうだ!

 あの時はローブが剥がれていないかと冷や冷やもんだったぞ!」


「…………………………」


そういえば……あの時、グリーチェさんは素早い動きが出来ないのではないか、ってアリーチェさんが見抜いていたけど……

それは強化が腕だけだから、ではなく……そういう理由からだったのか……

考えてみれば腕だけの強化で僕の攻撃を受けた後、吹っ飛ぶのを堪えることなんて出来ないよな……


更に―――


「それに、この前の事件で身体を酷使した所為で、まだまだ本調子ではなかったのだろう?

 この『ゲーム』に参加を頼んだのは私だが、あまり無理をさせるつもりはなかったのだが……」

「ご心配には及ばず!

《サファイア》や《ルビー》にならない限り悪化はしません!」


と、追い打ちをかけるかのようなヴェルダンテさんの言葉に、先程まであった僕の心の中の感慨が吹き飛んでしまった……


つまりは……勇者様は物凄いハンデを負ったうえで戦っていた、と……

それであの強さだった、と……


僕は一瞬でも調子に乗りかけたことを深く反省し……


「そ、それでも勝ちは勝ちですわ!ね!キュルルさん!」

「そうだよー!僕達の勝ちー!きゅっきゅるー!」


と、両腕を振り上げて叫ぶスリーチェとキュルルのやり取りを見つめるのだった……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「さて……お父様……

 最後の確認ですわ」


そして、最後に……


アリーチェさんが静かにヴェルダンテさんへと話しかけた。


「なんだい、アリーチェ」


ヴェルダンテさんもまた、静かに答えた。


「わたくし達は……貴方の用意した『ゲーム』に………

『試練』に、打ち勝ちました」


「…………………………」


その言葉がこの部屋の中に響き渡る。


「ならば――――お認めになられるということで、よろしいですわね」」


アリーチェさんは、ヴェルダンテさんの目を見据え、言う。


「わたくし達が………

 勇者学園に在学し続けることを!!」


その言葉に―――

ヴェルダンテさんは―――!!








「いやまあ、それは最初から認めてるけどね」








「…………………………?????????????????????????」


その帰って来た返事に……


アリーチェさんの顔は「?」で埋め尽くされた……


「あの、お父様」

「なんだい?」


「この『ゲーム』の目的は?」

「昨日言った通り、君達との親睦会を兼ねた余興だよ」


「この『ゲーム』に勝てなければ勇者学園を諦めろということかと、わたくし確認致しましたよね?」

「そうだね。そして私は特に返事はしなかったよ」



「……………昨日の食堂で言っておりましたが、お父様はわたくし達を勇者学園から引き取りたいと思っているのでしたよね?」


「ああ、『思っている』だけで実際に引き取るとは一言も言っていないよ」



「「「「「「「…………………………」」」」」」」


「きゅるー、そうだよねー?

 昨日からずっとアリーチェってば何言ってんだろーって感じだったよ。

 皆もなーんかやたらと深刻そうだしさー。

 折角の『ゲーム』なんだから楽しめばいいのにー、ってボクずーっと思ってたよー!」



7人の沈黙と、キュルルの無邪気な声が、この空間に満ち満ちていた――――



「はーーはっはっは!

 まあつまりは、盛大なドッキリ企画だったわけだな!これが!」


「まぁでも本来は『ゲーム』に敗れて『なんてこったー!』ってなってるお嬢様達に種明かしをして『はぁー良かったー!』ってなってもらうって予定だったんスけどねー。

 まさか勝っちゃうなんてホント予想外だったっスよー」


「うふふ~私は信じてたわよ~?

 皆ならきっと勝てるって~」


「それにしても……『ゲーム』を立案した私が言うのもなんだが、すっかりこの部屋も荒れてしまったね。

 もうすぐ各統治権保有者との談合パーティーもあるというのに。

 まあでもこのぐらいなら開催日までに修復は間に合いそうか。

 アリーチェ達も出来れば片付けを手伝って――――ん?

 どうしたんだい?ふるふる震えたまま何も喋らなくなってしまって―――」



「『アーティフィシャルフラワー・モード』」


―――ガチャガチャガチャガチャ……



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



その後――――


その場で大暴れを始めたアリーチェさん達 (よく分かってないキュルルも便乗して暴れた)によってパーティ会場は完膚なきまでに破壊し尽くされ、当分の間この部屋は使用出来なくなるのであった――――



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