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第9話 君と誓いの模倣剣


アリーチェさんのその力強い声は、部屋の中だけでなく僕の胸にも響いた。

ファーティラさん達など主の勇ましい姿を見て感動に打ち震えている。


そしてその宣言を正面から受けたグリーチェさんは……何も言わず静かに微笑んでいた。


まるで時を止めたように、その場に静寂が満ち―――


「きゅっるーー!!

 食べ物消化かんりょーー!!

 よぉーし!!ここからはボクもガンガン戦うぞぉーー!!」


―――そしてその静寂を、ものすんごく明るい声が打ち破った………


「なんかよく分かんないけど!

 とにかくアリーチェは『ゲーム』に勝ちたいってことだよね!

 でもボクだってそれは同じなんだから!

 抜け駆け禁止ーー!!」


そんなことを言いながらキュルルはズンズンとグリーチェさんに向かって歩を進めていく……

あぁもぉ雰囲気台無しだぁ……


で、アリーチェさんはと言うと……

表情は前髪に隠れてよく見えないけど……口元がヒクついてる気がする……


うーんこれは後でまた大喧嘩コースかなぁ……

せめてこの『ゲーム』の最中では爆発してくれないことを祈るばかり―――


「あとさ、アリーチェ」


と、キュルルが改めてアリーチェさんへと話しかけた。


「さっきお前の言ったこと……

『『勇者』になる』って奴さ……

 正直、何で今そんなこと言ったのかボクは分かってないけどさ」


キュルルは、しっかりとアリーチェさんを見据えて、言った。


「あの言葉……凄い本気なんだな、ってのが、ボクにも分かったよ」


「――!」


その言葉を聞き、アリーチェさんの顔からキュルルに対する苛立ちが消えたようだった。


「それでさ……『負けてたまるか』って思った!」


「…………」


アリーチェさんもまたキュルルを見据えて、その言葉を聞いている。


「何に『負けない』なのかは、自分でもよく分かんないんだけど……なんでか、そう思ったんだ。

 アリーチェの勇者になりたいって気持ちに、ボクは負けたくない……!」


キュルルは立ち止まり――叫ぶ!


「だから、ボクも負けない!!

 この『ゲーム』に……グリーチェにだけじゃなく!!

 お前にも!!」


いつの間にかキュルルの右手には……木剣の剣身が握られていた……!


キュルルは剣身を高く掲げ―――それを自身の腕部で包み込む!!


そして―――


キュルルの右腕と木剣の剣身が――― 一体化した!!


「《イミテイト・オース・ブレード》!!」


僕と『2人』で戦っていた時に見た、あの『誓いの剣』―――

それを模した『剣腕』を携えたキュルルは―――!!


―――ダッッッッ!!!


グリーチェさんへ全速力で駆け出し―――!!


「きゅぅううるあああああああ!!!」


『剣腕』を―――振り下ろす!!


「―――ッ!!」


グリーチェさんはその『剣腕』を横一文字にした長剣で受け止めた―――!!


―――その瞬間!!


―――ガキィィィィィ!!!!!


「―――――――!!!!」


そこから凄まじい衝撃が生まれる!!


グリーチェさんが立っていた場所の床がミシリと音を立て、その身体が僅かに沈み込む――!!!


その時確かに、グリーチェさんは僅かながら苦悶の表情を浮かべていた――!!


「流石に――フィルと一緒だった時程の力は出ない……か!」


「ふふッ……!

 もしそうなってたら、私は真っ二つでしたわ……ねッ!!」


―――ギィィィン!!


グリーチェさんは『剣腕』を受け止めていた長剣を振り抜き、キュルルを弾き飛ばした!


そして……床に着地し、僕達から見てグリーチェさんの右側へと立ったキュルルは、グリーチェさんの背後にいるアリーチェさんへと再び目線を送った。


「ふふん!どーだアリーチェ!!

 ボクだけで『ゲーム』クリアしちゃうもんね!!」


そう言いながらニッと笑うキュルルを見たアリーチェさんは……


フッ……と微笑を浮かべると―――


「やれやれ……言ってくれますわね、この『魔王』様は……

 わたくしがそれを指を咥えて見ているとでも……?」


そう言いながらアリーチェさんは―――

自身の着ている制服の襟の左側……青い宝石模様を押し込む……!


―――キィン……!


鐘のような音が鳴り響き……アリーチェさんの身を包む制服が、青く染まる……!


「『アーティフィシャルフラワー』と勇者学園制服の連動機能……

 こちらも確かめさせて貰いますわ……!!」


そしてキュルルは―――!


「ふんっ!

 だったら……!」


自身の着ている制服の右側……赤い宝石を押し込み……!


―――キィン……!


その漆黒の身を包む制服が、赤く染まる……!


「どっちが先に『ゲーム』クリアするか―――競争だ!」


「望むところですわ!」


2人が……同時に構えを取る―――!!


「あらら~……

 私ったら、まるっきりのけ者ね~……!」


そう言いながら長剣を構えるグリーチェさんの頬からは……一滴の汗が、流れていた―――


その汗は―――


頬を伝い―――


雫となって、床へ落ちた―――



―――ポタッ……



「「はッッッ!!!!」」


2人は―――同時に駆ける!!!


―――ギャリリリリッッッッ!!!!


アリーチェさんは先程を超えるスピードで――!!!


―――ガッギィィィィ!!!!


キュルルは先程を超えるパワーで―――!!!


「はぁアアアアアアアアア!!」

「きゅるうぅううあアアアアアア!!」


その刃を、魔法を、『剣腕』を―――!!


突き出す!撃ち放す!振り下ろす!!!


それをグリーチェさんは―――!!!


「―――――ッッッッッ!!!!!」


―――ガキキキキキキィィィィッッッッ!!!


その手に握る長剣で―――!!


止める!弾く!受け流す!!!


あの凄まじい左右からの乱撃を――尚も受け続ける!!


彼女の表情は変わらない……!

先程までと変わらぬ、薄い笑みを浮かべたままだ……!


しかし―――その額には汗が浮かび、焦燥の影が確かに見えた―――!!



「…………………………」



僕はその光景を見つめながら………今日、これまでに聞いた様々な言葉を思い浮かべていた。


『だから、ボクも負けない!』


『わたくしは『勇者』になります』


『わたくしにやれることをッ!やるためにッ!』



『ただ、『なりたい』と思った自分がいるなら……

 何が何でも、『なる』。

 ただ、それだけなのよ』



僕は――――!


「【フィルズ・キッチン】……

 《キッチンナイフ》……!」


『黒い包丁』を手に握り……グリーチェさんへ向かって、歩き出す―――!


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