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第7話 僕達と最後の時間


「やあ、フィル君」


「――!

 ヴェルダンテさん……」


午後7時……軽めの食事を部屋で取り、僕は再びバルコニーに向かおうとすると、その途中でヴェルダンテさんに会った。


「食堂に姿を現さないものだから心配していたよ。

 君だけでなくアリーチェやスリーチェもだけどね」

「…………………………」


先程……夕食を用意しているので食堂へどうぞ、と使用人の人達に言われたのだけど……

僕を含めアリーチェさん達は昨日の食堂へは行かず、簡単なモノで済ませていた。

その理由は……


「すみません……でも、ファーティラさん達は……

 食事も取らずに今もグリーチェさんに挑み続けているんですよね……?」


そう……僕はバルコニーで訓練している合間に、パーティ会場の様子を見た。

そこには……まるで猛獣が暴れまわったのかというような、床や壁に様々な傷の痕が出来た部屋の中で、息を切らしているファーティラさん達……

そして、平然と立ち続けるグリーチェさんの姿があった……


休憩する間も、食事を取る暇すら惜しんで戦い続ける彼女達の姿を見ると……とても自分だけ豪勢な食事を楽しもうなんて気にはなれなかったのだ。


それにしても……


「ヴェルダンテさんの方こそ、グリーチェさんのことが心配ではないんですか?

 あの人も休みなしでずっとファーティラさん達の相手をし続けているんですよ……?」


そう……あの平然としているグリーチェさんの様子を見ていると感覚が麻痺してしまうが、彼女もファーティラさん達と同じく全くの休憩なしで戦い続けているのだ。

それどころかファーティラさん達4人を同時に相手にしている彼女の方が負担は確実に大きいはずなのに……


「ああ、あの子に関しては全く心配はしていないよ」

「…………………………」


あっけらかんと言い放つヴェルダンテさんを見て、僕は思わず閉口してしまう……

それ程までにグリーチェさんの実力を信頼しているのか……


それとも……まさかヴェルダンテさんはグリーチェさんのことを、何とも思っていない……?

休憩なしで戦い続けていようがどうでもいい、なんて風に―――


「それで、結局君達は食堂に来るつもりはない……ということだね?」

「………はい」


僕はそれ以上考えることを止めた。

今は……目の前のことに集中しよう。


「折角用意して頂いた料理を無駄にしてしまって申し訳ありません」

「ああ、それについては大丈夫。

 キュルル君が

『きゅるー!腹が減っては『ゲーム』は出来ぬ!!

 いーっぱい食べて英気をやしなっちゃうぞーー!!!』

 と言いながら用意していた料理を全部平らげてしまったからね」

「そりゃよかった(適当)」


まぁ、あの子の平常時っぷりに救われるところはあるんだけどね……


ともかく……


「それじゃあ……僕、行きますね」


これ以上話すこともないだろうと、ヴェルダンテさんに声をかけ、僕はこの場を離れようとする。

その直前―――


「フィル君、君は―――」


ヴェルダンテさんが僕に何かを言おうとした、

しかし―――


「―――いや、何でもないよ」


「―――?」


結局、何も言わないままに、彼も僕に背を向け、この場から去っていったのだった……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「きゅるーっぷ……食べすぎちゃった……

 いい感じに消化するまで待ってねー。

 戦えるようになったらがんばろーねー!!」


「うん、もう午後9時だけどね」


『ゲーム』終了まで、残り3時間―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そして―――


学園の制服に身を包んだ僕達は、パーティ会場への扉を、再び開ける―――



―――ギィィィ………



そこには―――


「あら~いらっしゃい、皆~。

 もう来ないのかと思っちゃったわ~」


昨日の夜……この部屋で見た時とまるで変わった様子の無いグリーチェさんと……


「…………はっ………かっ……!」

「…………………………っ!」

「ぐぅぅぅッ…………………!」

「はぁッ……!はぁッ………!」


満身創痍……そうとしか言いようのない姿で床に横たわる、4人のお付き達の姿があった………



現在時刻、午後11時―――


『ゲーム』終了まで、残り1時間―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「………このような醜態をお見せしてしまい…………申し訳ありません……」


もはや動くことすらままならないファーティラさん達が、この部屋の扉近くの壁に寄りかかりながら回復魔法を受けていた。

その顔は、疲弊と自らの力不足を嘆く悔しさに歪んでしまっていた……


「………全く、こんな有り様になるまで戦い続けて………

 わたくしの身を守るはずの貴女方が自分の身を案じられては世話がありませんわよ?」

「……………っ…………!」


主からの容赦ない言葉にファーティラさん達は不甲斐なさを噛みしめるかのように黙り込む……

そしてアリーチェさんは「やれやれ……」と言いながらある物を彼女達を差し出した。

それは、透明な袋に包まれた携帯食だった。


「アリスリーチェ様……?」


ファーティラさんはその袋を見つめながら呆然と呟く。


「貴女達にはこれからもわたくしの身を守る為に働いて貰わねば困りますわ。

 自分が倒れるまで戦い続けることなど今後はせず、しっかり自分の身を案じ、その上でわたくしの傍におりなさいな」

「―――――っっっ!!!!

 うううぅぅぅぅぅ…………!!!」


ファーティラさん達はもはや言葉が出てこないようだった。

ただ涙を流しながら、アリーチェさんの手から携帯食を受け取ったのだった……


「はい、プランティ!

 貴女もですよ!

 もう今後はこんな無茶なことはしないようにしてくださいな!」

「お嬢…………様…………!」


プランティさんの方も同じく主から携帯食を受け取り、その瞳からただひたすらに涙を流していた……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ファーティラさん達は治療が済んだ後、そのまま休んでもらうこととなった。

身体の傷は回復魔法により治すことは出来ても空腹や疲労から来る身体的負荷までには及ばないらしい……

何でも常人ならとっくに気絶していておかしくないレベルの疲労を負っているとのことで、改めて彼女達の忠義心に感服するばかりだ……


そして―――


「うふふ~……」


僕達は、朗らかに微笑むグリーチェさんを見据える―――!


「グリーチェお姉様……」


「な~に~?

 アリーチェちゃん~」


アリーチェさんは……荒れ果てた部屋の中で悠然と佇むグリーチェさんに向かって、言い放つ!


「この『ゲーム』―――勝たせていただきますわ」


「ふふ………

 その意気や、良し」


―――ヒュン……!


グリーチェさんは、右手に握る剣を振るい……目を、開く!



「さあ――かかっていらっしゃい!」



現在時刻、午後11時30分―――


『ゲーム』終了まで、残り30分―――



僕達は―――全てを、終わらせる!!


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