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第5話 僕とガーデン家・マジックアイテム開発部門


《 ガーデン家・マジックアイテム開発、研究エリア 》


「ふぇー……ここもおっきい……」


そこはガーデン家のお屋敷の更に奥側の敷地内に存在する建物。

豪華絢爛、といった庭やお屋敷とは対照的に余計な飾りを完全に廃した無骨な見た目の研究所が僕の目の前にあった。


ここが以前アリーチェさんから聞いたガーデン家のマジックアイテム開発部門……!

その開発力は王都のマジックアイテム開発局にも引けを取らないんだとか……!


「今ここにアリーチェさんが……」


そんなことを呟きながら、その建物の扉へと手をかけようとした、その時―――


「おやー?ここは関係者以外立ち入り禁止っスよー?」


なにやらフランクな呼び声が横合いからかけられた。

その声の方へと僕が振り向くと……


「んー?アンタもしかして、例のお客様……お嬢様のご友人っスかねー?」


ヨレヨレの白衣をマントのように羽織った、ブラウンのショートヘアーの女性がそこに居た。

顔にはそばかすがあるがその可愛らしい顔立ちも相まってむしろチャームポイントとすら思える。


おそらく20代後半辺りの年齢のその女性は、眠たそうに半分閉じている目で僕のことを見つめていた。


「あ、はい。僕、アリーチェさんとスリーチェの友達のフィル=フィールです。

 貴女は……?」

「あーやっぱりそうっスかー。

 アタシはこのガーデン家のマジックアイテム開発部門の主任をやってるリペレント=ガーデニングってもんっス。

 まあ、リペルって呼んでくれっスー」

「えっ!ここの主任!?」


こんなにも若そうな人が……!


「いやー、実はアタシの父さんって王都のマジックアイテム開発局の局長なんスよねー。

 そんでアタシもマジックアイテム製造者(メーカー)としての技術を叩きこまれて育ってきたんスけどー。

 なーんか向こうとはソリが合わなくなって、家の名前捨てて飛び出ちまったんスよねー。

 んで、ここに拾って貰って、新しい名前も頂いて、この役職に就かせて貰って、今に至る……って感じなんス」

「ソリが合わなくなったって……」


一体何があったのだろうか……

気にはなるけど……ご家庭の事情とか、デリケートな問題かもしれないし……

あんまり触れない方がいい話題なのかも―――


「いやー、それがっスねー!

 王都の警備隊で使われる剣を衝撃に応じて剣身が爆発を引き起こす『炸裂(ボンバー)(ブレード)』にしようとしたり、街の門を登録した人物以外の魔力に反応して槍の雨を降らせる『ヘッジホッグ・ゲート』にしようとしたことあったんスけど、しこたま怒られちまいましてねー!

 全く何が気に入らないんってんだか……時々誤作動を引き起こすぐらいしか欠点の無い傑作品達だったってのにー!」

「ああ、触れちゃいけないのは本人でしたか」


そりゃあの爆速車椅子も出来上がるわ。


「んまぁでも、ここで拾ってもらった恩もありますし、今は安全にも配慮して開発してるっスよー」

「安全に配慮して時速300キロを出す車椅子ですか……」


いやまあ……あの車椅子のおかげで僕やスリーチェの危機に間に合ったっていう側面もあるので、僕としてはあまり深くツッコむのも藪蛇なんだけど……


まぁ、それはともかく……


「あの、それで……今ここにアリーチェさんが来ているって聞いたんですけど……」

「ああはいはいー。

 お嬢様のお友達ってんなら入ってもオッケーっスよー。

 どうぞどうぞー」


と、非常に軽いノリで立ち入り許可を頂けた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


不気味な色の液体が泡立つフラスコの数々……

強大な円筒状のガラスの中に浮かぶ謎の生物……


研究所の中に入って僕の目に飛び込んできたものは……『いかにも』といった感じの風景だった。


い、一体ここでどんな研究が行われているというんだろうか……!


「あ、これ全部雰囲気作りの為の飾りなんで意味なんてないっスよ。

 いやーこういう『いかにも』な感じ、気が引き締まるっスよねー!」

「ええ、そして今猛烈に気が緩みました」


そんなコントを挟みつつ……僕はある広々とした一室へと案内された。


そこには―――


「おやフィル。

 どうして貴方がここに?」


「あ!アリーチェさん!」


車椅子に座るアリーチェさんが居た。

彼女の周りには何かしらが書かれた紙の束を持った数人の研究員らしき人達も居る。

そして彼女の座っている車椅子には、何やらパイプのようなモノがあちらこちらから伸びており、そのパイプは様々な装置のようなモノに繋がれており……

なんというか『開発途中』という言葉がぴったりの様相を呈していた。


「スリーチェにアリーチェさんが今ここに居るってことを聞いたんです。

 アリーチェさんも、『自分に出来ることをしている』って聞いて、それで……」

「………そうですか」


そんなことを話していると、1人の研究員がアリーチェさんに話しかけて来た。


「アリスリーチェ様、少しよろしいでしょうか。

 やはりこれ以上出力を上げるのは貴女の身の安全性が―――」

「いいえ、少なくとも今の2.5倍までの出力をお出しするようにお願い致しますわ」


「っ!!しかし―――」

「それぐらいでなければ……『あの人』には通用致しませんわ。

 直にこの目で見たわたくしだからこそ断言できます」


狼狽する研究員に対してアリーチェさんは毅然として自分の意見を伝えた。

その研究員は少しの間返事を濁し……結局はアリーチェさんの意見を取り入れたようだった。


「ふう……貴方達はそろそろ休憩にお入りなさいな。

 昨日からわたくしの無理なお願いにお付き合い続けていただき、感謝致します。

 このお礼はいつか必ず致しますわ」

「勿体ないお言葉です。

 それでは、少し休ませていただきます」


と、その言葉に従い、アリーチェさんの周りにいた研究員達がこの部屋から出て行く。


「昨日からって……もしかして昨日パーティ会場から出た後、ずっとここに居たんですか?」

「ええ……以前から開発を進めていた新型『マジック・ウィルチェアー』……それを今日中に完成させねばならないと思いましたので」


そう話すアリーチェさんの目元をよく見ると薄っすらとクマが出来ていた。


ファーティラさん達もグリーチェさんに夜通しで挑み続けていたって話だったけど……

この主にしてあの従者あり、ということか……


「この新型『マジック・ウィルチェアー』があればグリーチェさんにも勝てる、と……?」

「………正直言って……かなり厳しいでしょう……というのが偽らざる本音ではありますわね」


アリーチェさんは悔しさを嚙みしめるように呟いた。


「それでも……ファーティラ達がああまでしてわたくし達の為に全力を尽くしてくれているんですもの。

 全て諦めてただ時間を無為に過ごすことなんて出来ませんわ。

 そして……わたくし自身の為にも……」

「……貴女自身………」


アリーチェさんは顔を上げ、力強い声を上げる……!


「わたくしは……絶対に、『勇者』になるのです……!」


「…………………!」


その目は――何一つ揺らいではいなかった。


そして僕は……一つの質問をした。


「アリーチェさんは……どうして『勇者』になりたいと思ったんですか?」


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