表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/255

第3話 僕と原初の魔法


「うふふ~いい運動になったでしょ~?」

「はあ………まあ………はい………」


グリーチェさんはバルコニーに設置されているベンチに腰かけ、足をパタパタとさせていた。

そして僕はそんな彼女の隣で肩を落として落ち込んでいる………


まぁ、そりゃさ……よく考えなくても結果は見えてたとは思うけどさ………

まさかあそこまで勝負にならないとはなぁ……


僕はずーん……とただひたすらに項垂れているのだった……


「ふふふ~ん♪」

「……………」


しばらくの間、グリーチェさんの鼻歌以外何も聞こえない、静かな時間が流れていた……


「……ねえ、フィルくん」

「……………?」


そんな静寂をグリーチェさんが破る。


「フィルくんはさ、どうして『勇者』になりたいって思ったの~?」

「え………」


どうして……って………


「さっき、お部屋では聞きそびれちゃったでしょ~?」

「……………………」


僕が『勇者』になりたい理由……それは…………


「昔………僕の故郷の村が魔物の群れに襲われた時………

『勇者』様達が来て……そして、救われたんです………

 それで、僕も『ああ』なりたいって……心から、そう思ったんです」


そう……それはとてもとても単純な、何の変哲もない、余りにも子供っぽい安直な夢……

本当にちっぽけな、僕の『原点』……


「ふ~ん……」


グリーチェさんが僕の顔を覗き込み、柔らかく微笑みかける。


「今はそれだけじゃなくて、幼い頃に出会った時のキュルルとの、『お互いに強くなって、戦いの決着をつける』っていう誓い……

 それに、アリーチェさんとの、『お互いに負けないぐらい、立派な勇者になる』っていう誓い……

 彼女達の為に『勇者』になりたいって気持ちもあります。

 でも―――」


僕は俯いていた顔を上げ、満天の星々を見上げた。


「僕が一番最初に『勇者』になりたいと思った切っ掛けは……そんな、とても単純な『憧れ』からです」


「…………………」


僕の言葉を受けても、グリーチェさんからの返事は無かった。

彼女は何を思ったのだろうか。


信念と呼べるほどの想いがあるわけでもなければ、『力』を欲したくなるような壮絶な過去があるわけでもない……

正直、馬鹿にされてもしょうがないとすら思える僕の『原点』……


それでも、僕にとっては―――


「ねえ、『原初の魔法』って知ってる~?」

「え?」


いきなりの話題転換に僕は思わず間抜けな声をあげる。


『原初の魔法』……?

確か昔、村の大人達からそんなおとぎ話を聞いたような………


「私達のいるこの世界は……かつて滅亡の危機に瀕していた」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


何が原因なのかは分からない。

気がつけばこの世界は『そう』なっていた。


干からびた大地……

吹き荒ぶ砂塵……


人も、動物も、魚も、虫も、植物も……

あらゆる『生』が、もう間も無く消え失せる。


そんな世界に……ある1人の人間がいた。


その者は……どんな命も死に絶えるしかないその世界で、ただ1人生き続けていた。


常人を……いや、あらゆる生物を遥かに凌駕する『生命力』を持つその者は、願った。


「この私の身体を――私の存在そのものを、この世界の『生きる力』として欲しい。

 私はなりたい。この世界の『希望』に――」


その者は、ひたすらに願い続けた。

朝も昼も夜も、ただただひたすらに……


しかし……いくら願えど、その望みは果たされなかった。

その者は嘆き、悲しみ……それでも尚、ただ願い続け―――


そして、気付いた。


『願う』のでは駄目だ。

『思う』のだ。


『なりたい』ではない。

『なる』のだ。


その者は―――何よりも強く思っ(イメージし)た。

自分という存在を……この身に宿る力強い『生』を……肉体より解き放つ―――!


その者は―――叫ぶ!!


「『生』よ!!!満ちよ!!!」


その瞬間―――


その者の身体は霧散し―――


『力』そのものとなった―――




そして―――


『力』は―――


世界へと、降り注がれた―――




その後世界は、幾年月もの時をかけ―――


再生していく―――




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「それこそが、この世界における原初の魔法……

 再世魔法 《ワールド・リジェネレーション》」


グリーチェさんは夜空を仰ぎながら、そう語った。


「そして世界へと降り注いだ『力』―――それが今、私達が『魔力』と呼んでいるものである……

 な~んてお話~」

「え、ええ……僕も、聞いたことはあります……

『力』そのものとなったその名も無い『英雄』は、今も僕達のことを姿なき姿で見守ってくれている……なんて締め括りで終える、おとぎ話……」


まあ、初めて聞いた時の僕は、自分の存在が『力』そのものになった辺りがどうにもイメージしづらくて、なんとなく『いいはなしだな~』って感じでぼーっとしていたのだけれど。


「うふふ~満更おとぎ話ってわけでもないかもしれないのよ~?

 実際、今この世界に生きる私たちの生命活動には『魔力』が重要な役割を果たしているし~」


そういえば、『魔力』は僕達の身体を動かしたりするのにも使われているんだっけか。

まあ僕は勇者学園での『魔力値』検査の時に初めて知ったんだけど。


「それにね~、勇者様の『エクシードスキル』についてはフィルくんもご存じよね~?

 その勇者様の『力』はこのお話に出てくる『英雄』が持っていたという『生命力』と同一のものではないか、なんて見方もあったりするのよ~?」

「ええ!?

 勇者様の『エクシードスキル』……【インフィニティ・タフネス】がですか!?」


でも、言われてみれば確かに……

一切の休息をせずに活動し続けることが出来る底なしの体力……

それは無限の『生命力』とも言っても過言ではないのかもしれない……


「そして~このお話はこの世界で魔法を扱う為の礎でもあるの~。

『願う』のではなく『思う』……

『なりたい』ではなく『なる』……

 漠然とした『願望』ではなく、その現象を具体的に、詳細に『イメージ』し、それを現実世界へと『形成』する……

 魔法を扱う上での三要素、『魔力』、『イメージ力』、『形成力』の概念の大元と言われているわ~」

「はぇ~……」


僕は呆けた顔で感心していた。

この世界では当たり前のように存在している魔法って、凄い壮大なお話が元となっていたんだなぁ……


それで……


「あの……何故そのお話を……?」

「ん~……フィルくんってさ~」


グリーチェさんは再び僕の顔を覗き込みながら、言った。


「心のどこかで自分のことを『全然大したことない奴だ』なんて卑下していたりしない~?」

「っ……!それ……は………」


それは………確かに、そうだ。


僕はこの学園に来て、『力』に目覚めた。

その『力』で戦い、時に人を救うことだって出来た。


でも……その『力』は………僕だけの『力』じゃない……


僕の体内に宿る、キュルルの欠片達のおかげだ……


僕自身は、全然……


「そんなもの、関係ないのよ」

「え?」


僕は、グリーチェさんを見た。

彼女は……とても柔らかな笑みで、夜空を見上げていた。


「自分は弱いだとが、この『力』が誰のおかげだとか……そんなものは、まるで関係ないの。

 ただ、『なりたい』と思った自分がいるなら……

 何が何でも、『なる』。

 ただ、それだけなのよ」

「………何が何でも……『なる』……」


僕の心に、その言葉が響く。


「遥か昔の『英雄』が、この世界の『希望』に『なりたい』と願い、そして『なった』のと同じように……

 貴方もまた、『勇者』に『なりたい』と思ったのなら……あとは『なる』。

 ね?単純な話でしょ~?」

「………………」


そんな世界規模の壮大な話と僕1人のちっぽけな夢とを同一のように語っていいものか……

そんな疑問が僕の中で一瞬出て来たけど……


その言葉は……とても大切にするべきものだと、僕は思った。


「うふふ~少し長くお話しし過ぎちゃったわね~。

 そろそろお部屋に戻りましょうか~」

「…………はい」


そうして僕達は、満月に照らされるバルコニーから立ち去ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ