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第13話 僕と君とグダグダと焦燥感


「さあフィル!行こう!

 ボクとフィルの力を一つにした究極形態!

 この『フィルル・フォルム』で!」

「え!そんな名前なのコレ!?」


「ならお姉さまと『お2人』になった姿は『キュルルリーチェ・フォルム』と言ったところでしょうかね!」

「物凄く物申したい気分なのですけど」


と、そんな呑気なやり取りの中に―――


―――ヒュンッ……!


グリーチェさんが横一線に振り抜いた剣の風切音が割り込む……!


「ふふふ~……アリーチェちゃんのお手紙にもあったけど~……

 それがあの水晶ゴーレムを倒したという貴方達の切り札なのね~……」


そして、その剣の切先を僕達へと向け―――


「とっても………楽しみだわ~……!」


思わずゾクリとする笑みを彼女は浮かべるのだった……


「っ……!」

「フィル!大丈夫だよ!

 ボク達2人の力なら!」


左側半分のキュルルから僕を鼓舞する声がかけられる……!

うう……もうこうなったらやるしかない……か………!


僕は覚悟を決め木剣の柄を握る!


「分かったよ……行くよ!キュルル!!」

「きゅる!!」


「ふふふ~……さあ、見せて貰わうわ~……!

 その力を!」


不敵な笑みを浮かべるグリーチェさんに向かって―――


僕達は足を踏み出――――



―――ビターーーーン!!


「ずべあぁっ!!」

「きゅびぃっ!!」



僕達は――――盛大にずっこけた―――



……その様を見ていたグリーチェさんは「あら?」と首を傾げ、スリーチェとフェンスさんはポカンと口を開け、そしてアリーチェさんは『やっぱり……』とでも言いたげに溜息を付きながら額に手を当てるのだった……


「きゅるぅー!もぉー!フィルー!

 最初は左足から出すってこの前言ったじゃーん!」

「ご、ごめん!すっかり忘れてて……!

 あの、でもさキュルル、やっぱりコレ―――」


「じゃあ次はしっかり合わせてねー!

 行くよー?せーの!」

「ああ、もう……!」


「いち、にー!いち、にー!」と元気のいい掛け声に合わせ僕とキュルルは左、右、左、右と交互に足を動かしゆっくり歩を進めていく……


「よーし!息ぴったりだったね!フィル!」

「あ、うん、はい………」


僕とキュルルは何とかグリーチェさんの前まで辿り着いた……

ちなみにたっぷり1分はかかった。


「それじゃー次は《オース・ブレード》の出番だー!

 早速コレを――」

「ちょ、ちょっと待ってキュルル!それ駄目!!

 アレは人に向けちゃいけません!!」

「えー!アレなら絶対グリーチェに勝てるよー!

 あのでっかいのだって真っ二つだったんだからー!」

「いやグリーチェさん真っ二つにしちゃ駄目でしょ!!」


左手に持った木剣の剣身を右手の柄に持っていこうとするキュルルとそれを止めようと動きに逆らう僕……

ギギギッ……とまるで壊れたマリオネットのような動きをする僕らを―――


「え~いっ」


グリーチェさんが剣の腹で軽く叩いた。


パァーーーン!という小気味のいい音と共に僕達は吹っ飛び―――


「「ぐべあ!!」」


ベチャリ!という音と共に壁にぶつかった………


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「いや実はね、一昨日の事件の後……

 僕とキュルルとアリーチェさんとで、もう一度『あの姿』になって、色々動きとか確かめてみようと思ったんだけど―――」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おいアリーチェ!

 ボクはあっち行きたいって言ってるだろー!!」

「キュルルさん!

 動きの主導権はわたくしに任せた方が絶対に効率的だと言ってるではありませんの!

 いいからわたくしの動きに合わせなさいな!!」

「なんだよソレ!!まるでボクがいつも考え無しで動いているみたいに!!」

「あら、わたくしの言いたいことがお分かりになりましたの?

 意外ですわね」

「かっちーん……ふんッッ!!」

「ちょ、急に動きを―――いや、待っ、これ速すぎ――――」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「とまぁ……キュルルとアリーチェさんは言わずもがななんだけど……

 僕とキュルルでも碌に動けなくて………

 むしろなんであの時はあんな動きが出来たのか……って感じでね……」


使用人さんから回復魔法を受けつつ僕はスリーチェ達にこの有り様を説明した……


冷静に考えればキュルルより圧倒的に運動能力の劣る僕やアリーチェさんがキュルルに包まれて動けるようになったところでキュルル1人の時より動けるようになるはずがないのだ……

キュルルからしてみれば余計な重りにしかならないだろう……


けど……

僕とスリーチェを助けに来た時のキュルルとアリーチェさん……

そして水晶ゴーレムに立ち向かった時の僕とキュルル……


あの時の僕達には間違いなく凄まじい力があった。

キュルル本人も『絶対、普段のボクよりもずっと速く動けてたよー!』と言ってた程だ。


一体、どういうことなんだろうか……


……まぁ、それはともかくとして……


「フィルさーん……」

「うぅぅぅ…………」


期待外れ極まりないグッダグダな結果をまざまざと見せつけられたスリーチェとフェンスさんは『ガッカリ』という感情を凝縮したような声を出していた……

特にフェンスさんは期待値を爆上げされたうえでの急降下ゆえにそのガッカリ度合いも凄まじかったらしく、非常に恨みがましい目を向けてきているのだった……


いやどうしろってんだよ……


「ふむ……そろそろいい時間だし、今日の所はこれぐらいにしようか。

 フィル君にキュルル君には部屋を用意しているよ。

 部屋にはシャワールームもあるからゆっくり汗を流してくれたまえ」


と、そんなヴェルダンテさんの声が僕達へとかけられた。


「この『ゲーム』の続きはまた明日にでもじっくり挑戦してくれたまえ」

「っ……!」


まるでお客様にレクリエーションでも楽しんでもらうかのような口ぶりに僕は思わず歯噛みしてしまう……

この『ゲーム』に勝たないと、アリーチェさん達は……!


「そうだねー!ボク疲れちゃたー!

 でもでも!明日は絶対勝つよー!

 じゃあフィル!また明日頑張ろうねー!きゅっきゅるー!」


……とっても無邪気な声でキュルルは手を振りながら部屋から出て行ってしまった………

やっぱあの子レクリエーションとしか思ってないなコレ………


「ふふふ~大丈夫ですよ~

 貴方達ならきっと~私に打ち勝ってみせますよ~」



そう言いながら、楽しそうに笑うグリーチェさんの姿を見ていると……

僕の心には、ただひたすらに焦燥感が募っていくのだった……












 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


《 ガーデン家・??? 》


満月の昇る深夜。


ガーデン家の何処かに存在するその部屋に、ヴェルダンテの姿があった。

彼は窓の外の月を見上げ、呟く。


「果たしてあの子達はこの余りにも困難な『ゲーム』をクリア出来るだろうかね」


そして部屋の中へと振り返り―――椅子に座る人物に向かって、話しかけた。


「君は、どう思う?」


椅子に座る人物は、ただ静かに微笑むのだった。


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