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第12話 僕と君とあの時の姿


「さあ、お次は~?」


グリーチェさんが剣をクルクル回しながら楽しそうに笑う。

そしてそんな彼女とは対照的に、僕達は緊迫感に満ちた表情でグリーチェさんへと視線を向けるのだった……


時間にすればたった数分……

この数分で全員が思い知った……


あの人は……強すぎる………!


でも……

それでも………あの人に勝たないと………アリーチェさん達は……!


僕は震える腕を無理やり動かし……!

木剣を、握り―――!


「はいはーーーい!!

 次はボク!ボクのばーん!!

 きゅっきゅるきゅーーー!!!」


と、物凄く底抜けに能天気極まりない声がこの部屋に響き渡り、僕は思わず動きを止める……

言うまでもなく、この声の主は―――


「あら~キュルルちゃん~」


「きゅるっ!」


キュルルが飛び跳ねながら僕達の前へと躍り出る。


「きゅ、キュルル……!」


「だいじょーぶ!ファーティラ達の仇はボクが取る!!」


キュルルは眩しい笑顔で僕達へグッ!とサムズアップをする……

とてもこの戦いにアリーチェさん達の勇者学園存続が掛かっているとは思えない様子で……というかまず間違いなくコレを本当にただ『ゲーム』としか思っていないよねキュルル!!


そんな僕の不安を他所に、キュルルはグリーチェさんへと向き直り―――


「うふふ~……噂の『スライム魔王』の実力……楽しみだわ~」


「きゅる……!」


両腕をグッ!と引き締めると―――


「キュルル!いきまーーす!!」


そう叫び、両腕を振り上げ―――!!


「《ダイナミック・マリオネット-モンスター・パレード・メモリー》!!」


―――ズオオオオオッッッ!!!


キュルルの身体から―――管に繋がれた漆黒の魔物の集団が生まれる!


今までも何度か見たことのあるキュルルの得意技―――!

ただし、今回生み出されたの魔物達は『ヘルハウンド』に『ハーピィ』、そして『ロック・リザード』!

これは―――!


「一昨日の事件での魔物の群れ―――!?」


「実際に戦った子達の方が思い通り動かしやすいんだー!

 なるべく最近のことならなお良しー!」


僕の驚愕の声に応答しつつ―――キュルルは生み出した魔物の群れをグリーチェさんへと向かわせる!!


四方八方から襲い来る漆黒の魔物達に対しグリーチェさんは―――!


「うふふ~……!

 はぁああああああ!!」


―――シュバババァッッッ!!!!


その全てを―――斬り伏せていく――――!!!


漆黒の魔物はグリーチェさんに触れる前に―――

その身を切り刻まれ、吹き散らされる―――!!!


「きゅるぅううう!!

 だったらぁああああああ!!!」


キュルルは魔物の群れを生み出すのを一旦止め、両腕を上へと掲げる!


そして、一際大きな管が何本も両腕から生え、それらが一本に絡まりながら一体の巨体へと姿を変えていった―――!


キュルルの両手の先に現れたその魔物は―――!!!


「く………水晶(クォーツ)ゴーレムゥ!?」


そう、あの洞窟の中で僕らが遭遇した10メートルの巨人―――!!


僕はあの時のトラウマから若干顔を引きつらせてしまう―――!!


「きゅぅうううううるアアアアアア!!!」


この広い部屋でギリギリのサイズの『ソレ』が―――グリーチェさんの頭上から襲い来る―――!!!


だが―――グリーチェさんは全くその場から動こうとせず―――


―――チャキ……!


剣を両手で握ると―――正面から振りかぶり―――!


「はあッッッ!!!」


一直線に―――振り下ろした!!!


―――ザンッッッッ!!!


「―――――!!!」


僕達は、その光景にもはや声を上げることすら出来ない―――


黒い水晶ゴーレムは―――真っ二つになったのだった――――


そして、グリーチェさんの両側に沈んだ水晶ゴーレムの残骸は……ゆっくりと溶けるように消えていった………


「ふふ~……あのゴーレムって物凄く硬いって話だったけど~……

 流石に硬度まで完全再現ってわけにはいかないわね~」


「ぎゅるるるぅぅぅ…………!」


キュルルは両拳を握りしめて悔しがる……


いくら本物でないとはいえ……あの巨体を一刀両断って……!


僕はもはやグリーチェさんにひたすら畏怖の念を覚えるしかなかった……


「さて~……これで終わりかしら~?

 キュルルちゃん~?」


「きゅる!まだだいっ!!

 フィル!『アレ』!『アレ』やろう!!」


「『アレ』……?」


キュルルが突然僕の方へ振り向きながら叫ぶ。

『アレ』って……?


「この前、あの硬いのと戦った時の『アレ』!

 ボクとフィルとで、『2人』で戦うの!!」


「あの時の……『2人』でって……あの……!?」


『2人』で戦う―――

そう、一昨日の水晶ゴーレムとの戦いの時―――


僕とキュルルは『2人』で『1人』になって戦ったのだ―――!


「ボクとフィルとの『2人』なら、絶対勝てるよ!」


「いや、でもキュルル、アレは―――」

「そうですわ!フィルさん!キュルルさん!」


僕がキュルルの提案にちょっと待ったの声をかけようとした所に、割り込む声があった。

その声は―――


「す、スリーチェ?」

「わたくし、あの時の『お2人』の戦い……今でもしっかり覚えておりますわ!

 あの水晶ゴーレムへ黒き剣を片手に果敢に立ち向かっていく姿を!そして何よりもあの強さを!

 アレならば……アレならばきっとグリーチェお姉さまにも勝てますわ!!

 ね!お姉さま!!」

「え?いや、それは……うーん……」


スリーチェが目を輝かせながら僕を見つめる。

一昨日のあの戦いをその目で見ていた彼女が僕達に期待を寄せるのは大いに理解できる。


一方のアリーチェさんはバツが悪そうに返事を曖昧に濁していた。

彼女も僕とキュルルが『2人』になった時の戦いを目撃している。

それどころか本人がキュルルと『2人』になって戦ったことさえあり、『2人』になった時の強さは誰よりも理解していることだろう。


でも―――


「おお!とうとうフィルダンテ様が戦われるのですね!」


「うおわっ!?フェンスさん!?

 貴女いたの!?」


突然真後ろから興奮した様子の声が響いたと思ったらそこにはお屋敷の前で出会ったフェンスさんの姿があった。

どうやら他の使用人に紛れて観戦していたらしい……


「スリーチェ様!貴女が仰られていた伝説の剣を手に戦う彼の姿がいよいよ見られるのですか!」

「ええ!その通りでしてよフェンス!

 いいえ!それどころがわたくしがお伝えした以上の物凄い戦いがこれから繰り広げられますわ!

 刮目されてご覧になりなさいな!」

「ふおおおお!!わ、私もうワクワクが止まりません!!」


なんかもう、勝手に2人だけで盛り上がってしまっている……


「いやあの!ちょっと待ってスリーチェ!アレは―――」

「さぁ!フィル!いっくよーー!!」

「うわっ!?キュルル!?わあああ!!!」


いつの間にかすぐ傍まで近づいてたキュルルに僕は無理やりグリーチェさんの前に立たされてしまった!


「さあ!あの時みたいに!」

―――グニュニュニュ!

「キュルル!ちょっ―――」


と、僕の意志などお構いなしにキュルルは僕を包み込んでいく!


そして――――



「ようし!!

 準備かんりょーー!!」

「うぅ………」



僕達は、水晶ゴーレムを相手にした時のあの姿に――『2人』で『1人』の姿となった。


僕の身体を黒い鎧の如くキュルルが覆い、学園の制服をマントのように羽織り――

そして、顔の右側が僕、左側がキュルルとなった、あの姿に―――


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