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第11話 グリーチェと本当のこと


「―――っ!!

 ファーティラ!!ウォッタ!!カキョウ!!」


アリーチェさんが必死にファーティラさん達へと呼びかけている……

そんな主の悲痛な叫びに応えられる者はいなかった……


「アリーチェちゃん~……ごめんなさい~……

 少し力を入れすぎちゃったみたい~……

 お父さま~~!」


「大丈夫、すぐに回復魔法を使える者を呼ぶよ」

―――チリンチリン……


謝罪を行うグリーチェさんの呼びかけに答えたヴェルダンテさんは、胸元から取り出した小さな呼び鈴を鳴らした。

すると、部屋の中に複数人の使用人さんが入って来て、床に横たわるファーティラさん達へと手を当て、回復魔法をかけ始めた。

しばらくするとファーティラさん達は「うう……」と呻き声を出しながら目を覚まし始める……


そんな自らの付き人達の様子を確かめた後、アリーチェさんは再びグリーチェさんへと視線を向ける。

その表情はファーティラさん達にした仕打ちに対する憤りの感情も勿論あるだろうが、それ以上に先程目撃した光景の信じられなさが見て取れた。

そしてそれはスリーチェやプランティさんも同様だった。


彼女達はグリーチェさんの実力を知っているはずだった……

容易に倒せるような人ではないことは知っていたが、ファーティラさん達のような実力者数人を同時に相手にして怪我を負わずにいることなど不可能だと断じていた……


それが……………!


「アリーチェちゃん~……

 スリーチェちゃん~……

 それに、他の皆も~……」


ウォッタさんが気絶したことで『水の枷』から解き放たれたグリーチェさんは、床に転がった剣を足で蹴り上げて掴み――


「ごめんね~、貴方達に本当のこと隠してて~」


申し訳なさそうな声で、そんなことを言う。


「本当のこと……?」


「うん~、実は私~………」


右手の剣を再びこちらへと向け―――


彼女は、告げる―――



「凄く……強いの」



その時、開かれた瞳は―――

とても綺麗でありながら―――

僕は確かな恐怖を感じた―――


「グ、グリーチェお姉さまっ!!」


僕がその瞳に縫い付けられたようにその場から動けずにいると、スリーチェから大声が上がった。


「グリーチェお姉さまは……何故……!

 何故このようなことをなされるのですか……!?

 わたくし達が勇者学園に居ることに……グリーチェお姉さまは、反対されているのですか……!?」


スリーチェは、まるで信じてた人に裏切られたかのような様子で必死に叫んでいた。

そうか……彼女のグリーチェさんに対する信じられないものを見る目は、本当の実力を思い知ったということだけでなく……

この人ならば自分達の思いに寄りそって味方になってくれるだろうと思っていたから、というのもあったのか……


グリーチェさんはスリーチェの言葉を受けると、「スリーチェちゃん……」と呟き、再び糸目に戻った。

そして、言葉を続ける。


「私はね~……貴女達の意志を否定する気は全然ないの~……」


「っ!それなら―――!」


スリーチェの縋るような声を「でもね~……」とグリーチェさんは遮る。


「だからこそ~貴女達なら………

 この『ゲーム』に打ち勝つことが出来るって、そう思っているの」


「!!」


スリーチェは目を見開いて動きを止める。


「この先、どんな命の危機が訪れようと……

 どんな困難がその身に降りかかろうと……

 絶対に打ち勝つことの出来る『勇者』になる……そう、信じているもの~」


「――――――!」


そのグリーチェさんの言葉に……スリーチェは何も言えなくなるのだった……


「さて、それで~。

 ここから、どうします~?」


そんなグリーチェさんの催促に即座に答えられる者はいなかった……


この『ゲーム』に……グリーチェさんに勝たない限り、アリーチェさん達は勇者学園には居られない……


でも……この人は………あまりにも…………!!


「私が、出ます……!」

「!!」


その声をあげたのは―――


「プランティ!」


長い前髪で顔の殆どを隠したスリーチェのお付き……プランティさんがグリーチェさんに向かって歩き出す……!

チラリと見えた、僅かに覗く瞳は……覚悟に満ちていた……!


「皆さん………離れていてください……

 少し……本気を出します………!」


そう言ったプランティさんは、静かに両手袋を外し―――


「《クレイ・クロウズ》!!」


その《魔法名》を唱えた瞬間―――!


――ジャキキキィッッッ!!!


「わあっ!!」


僕は思わず叫び声を上げる……!

プランティさんの両手の五指に―――刃渡り1メートルはある鋭い爪が生えたのだ!!


手袋を外したその手は黄土色をしており、魔法によって生み出された爪も同様だ……

あれが、プランティさんの魔法によって造られた義肢……!

一昨日の事件の後、プランティさん本人から聞き及んではいたけど……実際に見たのは初めてだ……!


プランティさんは指先から刃のような爪が生えた両腕を左右へ開く……

そして腰を落とし………突撃の構えを取った……!


「グレーテリーチェ様……先に言っておきます……

 今から貴女様に……大怪我を負わせてしまうかもしれません……

 もしかしたら………最悪の場合……貴女様の……命にまで………」


プランティさんはぽつりぽつりとグリーチェさんに向かって言葉を投げかける。

汗が顔から滴り落ちてしまうのは、これから自分が主の親族に手をかけてしまうかもしれないという最悪の事態を想像してしまってか………


「ですが………」


それとも………


「恐らく……()()()()()でないと……

 貴女様には、届かない………!」


自分がこれから……途轍もない強敵に挑もうとしているからか……!


そんなプランティさんの言葉を受け、グリーチェさんはニコリと笑い―――


「いいわ……いらっしゃい」


その瞳を……再び開ける……!


「っ!!

 行きます!!!」


―――ダンッッッ!!!


プランティさんは―――凄まじい速度でグリーチェさんへ向かって走り出した!!


「はぁああああああ!!!」


プランティさんは不規則に蛇行しながらグリーチェさんへと猛スピードで近づいていく!!


―――バッッッッ!!!


気が付けばプランティさんはグリーチェさんの右側面に位置しており―――その右手の刃の如き5本の爪を振り被った!!


「ふっ!!」


だがグリーチェさんは即座に反応し、右手の剣でその刃を受け止めようと構え―――!


「――――ッ!!!」


「なぁっ!!」


僕は瞠目する―――!!


グリーチェさんが右側面に対して構た瞬間―――プランティさんは、一瞬の内にグリーチェさんの左側面へと回り込んだ!!


どう考えてもそのまま爪を振り下ろすしかないという動きだったのに―――!

土魔法で出来た強靭な義足の力で無理やり自身の身体を移動したんだ!!


「貰いましたッッ!!!」


未だ右側へと剣を構えるグリーチェさんの反対側から、プランティさんが今度こそその五爪を突き出し―――!!


―――ギィィィン!!!!


「なッ……に……!?」


突き出そうとした五爪は、グリーチェさんには届かなかった……!

グリーチェさんは右側へ向いた格好そのままに―――右手の剣を即座に逆手に持ち替え―――その切先で爪を受け止めたのだ―――!!


「ぐぅッ………はぁああああああああ!!!!」


攻撃を止められたプランティさんはわずかな時間驚愕に固まるも、即座に次の行動に移った!

両手の爪による―――驚異的な速度の乱舞だった!!


合計10枚の刃がプランティさんの周囲を荒れ狂い、彼女の周囲の床面が瞬く間に削れていく―――!


だけど――――!!


―――ガキキキキキキィィィィィ!!!


「ふふふ……!」


「馬鹿………なぁッ……!?」


信じられないことに………!

グリーチェさんは逆手持ちのままの剣で………!

プランティさんの方を見もしないままに……!

自身に襲い来る刃のその全てを止め続けている………!!


「それじゃ、私からも……」


「っ!!!」


グリーチェさんが刃の嵐を受け止めながら振り返る……!

危険を察知したプランティさんは剣戟を止め背後へと距離を取――――


「――――え?」


その声は―――僕からも、プランティさんからも出ていた気がする。


距離を取ろうとした背後へ跳躍しようとしたプランティさんだったが―――ほんの少し後ろに移動することしか叶わなかった。


いや、移動ではなく―――ただ後ろへと倒れ込んでいくだけだったのだ。


プランティさんは、『ソレ』を見つめた。


その場から全く動いていない……『自身の両脚』を。


膝下から上を綺麗に切り取られた義足が―――そこにあったのだ。


「既に―――斬られて、いた?

 あの剣戟の最中に―――?」


あり得ない―――プランティさんは、そう言葉を続けようとしていたのかもしれない。


だが、言葉の続きよりも先に―――グリーチェさんが、剣を振った。


―――ガッッッッッッ!!!


「がァあああああッッッ!!!」


プランティさんは、先程のファーティラさん達のように、僕達の方へと吹っ飛び―――


―――ドッッッッ!!!


「がはぁッ!!!」


壁へ激突し―――床へと転がり込むのだった……!


「プランティ!!!」


スリーチェが悲痛な叫びと共にプランティさんの方へと駆け寄る……!


「大丈夫!?プランティ!!」

「う……く……!

 な……なん、とか……!」


膝から下を失ったプランティさんは、どうにか気絶はしていないようだった……

横一線に斬られたように見えたけど、足以外に斬られた形跡は見られない。

どうやら剣の腹で叩かれただけのようだ。

……それで人がこれだけ吹っ飛ぶのか、という困惑と恐怖が同時に僕には湧き上がるのだった……


「う~ん……やっぱり、まだ少し力が入り過ぎてるわね~……

 プランティちゃんの足も、つま先をちょっと切ろうとしただけなのに、目測を誤ってしまったわ~……

 まぁ、力加減が難しいのはそれだけ貴女達が強いからなんだけどね~……

 ごめんね~プランティちゃん~」


「っ…………!!!」


グリーチェさんの謝罪の言葉に、プランティさんは何も返せず……先程のファーティラさん達と同様、使用人さんの回復魔法をただ静かに受けるのだった……


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