第9話 僕達とゲーム
そんなこんなで食事が終わり―――
僕達はヴェルダンテさんに言われた通り、玄関ロビーの一番奥……大きな扉の前へと来ていた。
「この先にパーティ会場があるんでしたっけ」
「ええ、最大約7000人の収容が可能の我が屋敷の中でも最大の広さの部屋になりますわ」
アリーチェさんの言葉に僕は「ひえ~……」と思わず恐れおののいた。
流石は大貴族というか……それだけの人数で行うパーティなんて想像もつかないや……
「でも、ヴェルダンテさん……なんでそんな場所で話の続きをしようなんて言ったんでしょうかね?」
「さぁ……わたくしには皆目見当もつきませんわ。
グリーチェお姉様は何か聞いて―――あれ?お姉様?」
そう言いながらアリーチェさんが辺りを見回した。
その様子を見て僕もまた周りを見ると……グリーチェさんの姿が消えていた。
確か食堂からは一緒に出たはずだったのだけど……?
僕達はしばらくグリーチェさんの姿を探したり、名前を呼び掛けたりしてみたのだけど……
結局見つからず仕舞いとなった。
「うーん、どこに行っちゃったんでしょう……」
「ひょっとしてはぐれて迷子になってしまったのでは?
ウチは物凄く広いですし、グリーチェお姉さまなら十分ありえるかも!」
「いやいやスリーチェ……長年暮らしてきた屋敷で迷子になるんていくらグリーチェお姉さまでも……うーん………」
「いや何故悩む!?」
アリーチェさん達からのグリーチェさんの評価ってどうなっているんだ……
「まぁ、仮に迷子だったとしたら使用人が見つけてくれているでしょうし……
わたくし達もいつまでもここで悩んでいるわけにはいきませんわ。
とりあえず、わたくし達は目の前の問題に……お父様とのお話に決着を付けることに集中しましょう」
と、アリーチェさんが改めて決心を固める。
確かに……グリーチェさんの行方は気になるけど……
今は、僕達の目的のことだけを考えよう……!
「それでは、入りますわよ。
ウォッタ、カキョウ」
「「はっ!」」
アリーチェさんの掛け声により、ウォッタさんとカキョウさんが扉の前へと立つ。
そして、2人がその扉のドアノブに手をかけ―――
―――ギィィィ………
その大きな両開きの扉が、開かれていく……
その扉の先には――――
「うわぁ………!」
広い………とにかく広い………
そんな馬鹿みたいな感想しか思い浮かばない程、広大な空間がそこにあった。
玄関ホールの5倍の大きさ。最大7000人を収容できるという、その空間。
今、この空間には何一つ家具は無かった。
パーティ会場ということだし、本来ならテーブルや椅子なんかが置かれていたのだろうけど……
豪奢なシャンデリアの光は、ただひたすらに何もない広すぎる空間を照らし続けているだけだった……
「やあ、待っていたよ」
「「「「!」」」」
そして……そんな広大な空間の中に、男性の声が響く。
その声は、先ほどまで食堂で聞いていた声……
アリーチェさん達のお父さん……ヴェルダンテさんだ。
「ヴェルダンテさん……なんでこんな場所で話を――――あれ!?」
僕は喋っている最中に驚きに見舞われた。
声の主、ヴェルダンテさんはこの部屋の中心に立っていたのだけど……
その隣に予想だにしない人物が立っていた。
それは、ついさっきまで僕達が姿を探していた人物―――
「グリーチェ、さん……?」
そう、アリーチェさん達の姉……グリーチェさんであった。
「お姉様……?
一体いつの間にこの部屋の中に……?」
アリーチェさんもまたその人物がここに居ることに、訝しげな声を上げる。
僕達が気が付かないうちに早く移動して、この部屋で待っていた……ってことか?
でも、なんでそんなこと……?
それに……彼女の格好が、先程と少し違っている。
来ている服が先程までの裾の長いドレスではなく、短いスカートと半袖になっており、なんというか、動きやすそうな恰好だ。
そして何より気になるのが……腰に携えられている、剣だ。
飾り気のない、シンプルなロングソードだった。
その恰好はまるで……
今から、何かと戦うかのような………
「今からちょっとした『ゲーム』を行う。
ルールは簡単だ」
「え?」
ヴェルダンテさんが困惑する僕達へ向かってそんな声をかけて来た。
『ゲーム』……?
一体何の―――
「君達の内誰か1人でもいい。
この子に傷をつけることが出来れば、君達の勝ちだ」
―――は?
「制限時間は明日の24時まで。
それまでに誰も傷をつけることが出来なければ、君達の負け。
実にシンプルだろう?」
あの、いや、え―――?
突然言われた言葉その内容に、僕は何と声をかければいいものか分からずにいた。
僕がただひたすらに?マークを浮かび上がらせ続けていると―――
「お父様」
アリーチェさんが、僕達の前へと移動しヴェルダンテさんへと話しかけた。
「この『ゲーム』の意図は、一体何なのですか?」
「なに、久しぶりに会った娘達と客人との親睦会を兼ねた、ちょっとした余興みたいなモノだよ」
「もっとも……」と、ヴェルダンテさんは両腕を左右へと広げ、薄く笑いながら、言う。
「『元』勇者一行のメンバーに命を狙われる……そんな状況で尚も勇者学園に居続けようとする気骨のある娘達ならば、これぐらいの『ゲーム』は簡単にこなしてしまうだろうとは思っているけどね」
「………………………」
僕達はヴェルダンテさんの言葉を受け……しばし固まってしまうのだった……
彼が言外に語るこの『ゲーム』の意図を……この場に居る全員が察していたからだ……
つまりは―――
「つまりは……この『ゲーム』で勝てなければ……
勇者学園を諦めろと……そういうこと、ですか?」
「………………………」
アリーチェさんの言葉に、ヴェルダンテさんは何も答えない。
「そしてそれは、わたくし達がこの『ゲーム』に勝てば……
勇者学園に存続することを認めると……そういう認識でよろしいのでしょうか」
やはり、彼は何も答えない。
ただ、「ふっ……」と伏し目がちに笑うその表情は……肯定の意志を示しているようだった。
「まぁ、いずれにせよこの『ゲーム』……
受ける受けないは君達の自由だ」
そう言うとヴェルダンテさんは部屋の中心から僕達の方へと歩き出し……
元の場所には、グリーチェさん1人が残されたのだった……
そして彼女は、僕達に向かってニコリと笑顔を向けると―――
―――シャキィ……!
腰に携えた鞘から剣を抜き―――
―――ヒュンッ……!
僕達に向かって……構えを取った……!
「ふふふ~……
さぁ、どうしますか~?」
グリーチェさんは、そう言って楽しそうに笑うのだった。