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第9話 僕と君は貴女と共に


「……それで、それだけの理由でわたくし達に同行したいと、貴方は仰るのですね?」


首をふるふる振って我に返ったアリーチェさんが僕に改めて問いかけて来た。


「……はい。

『物事に絶対はない』だなんて、そんな弱気なことを言う貴女を行かせたくありません」

「……貴方は何故、そこまでしてわたくしをこの学園に引き留めたいのですの?」


アリーチェさんは再び僕に目を合わせる。


そんなの―――


「そんなの、決まってます!」

「―――!」


僕は、大声でアリーチェさんに向かって言い放つ!


「僕達、あの時誓い合ったでしょう!

 お互いに、負けないって!

 こんな中途半端なところでお別れなんて……僕は絶対に嫌なんです!!」

「――――――――」


アリーチェさんの目を真っ直ぐ見つめて、僕は自分の思いの丈をぶつけた!

そう、僕はこの人のライバルで……この人は、僕のライバルなのだから!


「僕は貴女と、一緒に居たいです」

「っ……………!」


アリーチェさんは僕の言葉を受けて、しばらくは何も言わなかった。

ぼそっと「この方はまた、臆面もなくこんなことを……」と聞こえた気がしたけど。


「…………では、アナタの方はどうなのですか?

 キュルルさん」

「…………きゅる」


アリーチェさんは視線を僕の後ろの方に立っていたキュルルへと移した。


「アナタからしてみれば、わたくしがここから出ていくことは願ったり叶ったりではありませんの?」

「…………………………」


出会った時から今日まで、キュルルとアリーチェさんが仲違いをしなかった日は全く無いと言ってもいいぐらい、2人は喧嘩ばかりしてきた。

アリーチェさんと顔を合わせなくなることは、キュルルにとって嬉しいことのはずだろう。


………一昨日までは。


「まぁ……スリーチェはともかく……

 いっつもいっつもボクとフィルが一緒に居たりするのを邪魔し続けてきたお前がいなくなることは、確かに清々することかもしれないよ」

「……ならば、フィルの言っていることにアナタは―――」

「でも―――!」


キュルルはすぐに言葉を続けた。


「あれだけボクとフィルの邪魔をし続けてくれたお前には……見せつけてやりたいんだよ!

『勇者』になったフィルと、『魔王』のボクが、カッコよく戦い合う所を!

 フィルの本当のライバルはボクのことだって、存分にお前に分からせて、悔しがらせてやるよ!」

「―――!」


キュルルは腕を組みながらフン!と鼻息を鳴らし、アリーチェさんを睨みつけた。


「だから………まだ、ここにいろよ。

 帰るなら、ボクとフィルの戦いを見てからにしろよ……アリーチェ」

「……キュルルさん」


そう……一昨日の共闘を得て、2人はもういがみ合うだけの関係じゃなくなった。

全く持って情けない意見だけど……僕なんかより、真っ当にライバル同士って感じだ。


「…………………………」


そして、アリーチェさんは再び黙り込む。

そんな彼女に、僕は改めてお願いをした。


「アリーチェさん。

 どうか僕達も、貴女と一緒に―――」

「フィル」


僕の言葉を遮って、アリーチェさんが声を発した。


「言っておきますが……貴方達のような部外者を連れて行ったところで、すぐさま門前払いされるに決まっておりますわよ」

「っ!でも、アリーチェさ―――」


「ですから―――」

「え―――?」


「貴方達は屋敷の外で待って貰うことになる可能性が高い、ということを予め言っておきますわ」

「―――!

 それって―――!」


アリーチェさんはやれやれ……とでも言いたげに腰に手を当て、僕達に向かって言った。


「全く持って失礼極まりない理由でありますけれど……

 恩人の心遣いを無駄にするわけにもいきませんわ」

「アリーチェさん……!」


その言葉に僕の顔から笑みがこぼれた。


「それに!」

「!!」


とても大きな声と共に、アリーチェさんは改めて僕達へ向き直った。


「わたくしとしても、貴方に『臆病者』だのなんだの言われっぱなしでいる訳にはいきませんわ!

 このわたくしの華麗な姿を精々その目に焼き付けなさいな!

 貴方が抱いている不安がまるで見当違いだということを思い知らせてあげましてよ!」


そこには、先程とはまるで別人の……いや、逆か。

先程までの、別人と見紛うアリーチェさんはもういなかった。


いつもの……絶対の自信に満ちた、アリスリーチェ=マーガレット=ガーデンがそこにいた!


「ふん……調子のいい奴」


ぷいっ!と顔を背けながらキュルルがそんなことを言う。


「ふふ……キュルルさん。

 先程、わたくしにフィルとアナタの戦いを見せつけると言っておりましたが……

 確かに、わたくしもアナタに見せつけてあげなければなりませんわね。

 わたくしとフィルの美しいライバル関係を!」

「キュらぁん!?

 なんつったぁ!?巻貝ぃ!!」

「ああもう、いつもの調子に戻ったとたんにこれぇ!」


僕が2人の仲裁にわたわたとしていると……


「フィルさん!キュルルさぁーん!」


「わっ!」

「きゅる!」

「スリーチェ!」


スリーチェが僕達の輪の中に飛び込んでくると、笑顔でキュルルに抱き着いたのだった。


「キュルルさん!

 お姉さまやわたくしの為に一緒に付いてきてくれるなんてー!

 わたくし、感激ですわー!」

「きゅるっ!

 お安い御用だよー!

 あっ!そういや勝手にスリーチェの部屋に忍び込んだりしてゴメンー!」

「いいえ!ぜーんぜん気にしておりませんわ!

 何だったら毎日忍び込んでも構いませんことよー!」


「いやあのお嬢様……護衛として流石にそれは看過できないのですけど……」


プランティさんがおずおずとスリーチェさんにツッコミをいれる。


「もう!プランティったらまたそんな固いこと言って!

 こんなのお友達同士のお泊りのようなものですわよ!

 貴女にだってそういった経験ぐらいおありでしょう!?

 ならば余計な心配は無粋だということぐらいお分かりでしょうに!」

「ぐへァあッッ!!」


主からの言葉の手刀によってプランティさんが地面に沈む……

あ、丁度ファーティラさんの隣に並んで倒れた。


「やれやれ……浮かれるのは構いませんけど、わたくしの言ったことはちゃんと聞いておりましたか?

 フィルとキュルルさんはほぼ確実に門前払いにされますわよ?」


アリーチェさんがスリーチェを宥めるような口調で声をかける。

まぁ、僕としてはアリーチェさんがいつもの調子でいて欲しいってのが一番の目的なので、絶対に傍にいないと駄目ってわけでもないんだけど……

出来れば近くで見守りたいって気持ちはあるなぁ……


「ふっふっふ……!」


と、なにやらスリーチェの不敵な笑い声が響き渡る。


「わたくしにいい考えがありますの」


うーん、なんだろう。

凄く期待できない。


「……その考えとは?」

「今はまだ秘密ですわ……

 その時が来たら……ふっふっふ……!」


スリーチェは1人、不気味な笑い声を出し続けていた……



ともあれ……僕とキュルルは彼女達の帰郷に同行させてもらえることとなった。


そして……必ず皆でここに戻ってくるんだ!


僕は静かに決意を固めたのだった―――


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