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第8話 貴女と特別な存在


「いきなり……何を仰いますの」


僕の突拍子もない言葉に、アリーチェさんは一瞬だけ動揺の色を浮かべたけど即座にいつもの調子へと戻り、僕に呆れたような声をかける。


「言った通りです。

 僕達も、アリーチェさん達の帰郷に同行させてください」

「……………………………」


先程と同じ内容の言葉を繰り返す僕を、アリーチェさんは訝しげに見つめた。


「フィルさん……?」


僕達の様子を見守っていたスリーチェも思わずといった感じで困惑の声を上げる。

まぁ、無理もない反応だろう……


「訳が分かりませんわ。

 何故そんなことをしなければなりませんの。

 貴方達には何も関係のない話でしょう」

「………………………」


アリーチェさんが馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに僕に背を向け、馬車へと向かおうとする。


「もし……」


僕はその背に向かって、声を発する。


「もし、さっきスリーチェが言っていたように、貴女が『必ずここに帰ってくる』と言っていたなら、僕は声かけるつもりはありませんでした」

「―――っ」


その声に、アリーチェさんは足を止めた。


「でも……」


アリーチェさんが言った言葉は……

『物事に絶対はない』……

『いくら死力を尽くしてもどうにもならないことはある』だった……


「それが……何だというのですの?

 わたくしは何も間違ったことは言っておりませんわ。

 物事が何もかも自分の都合の良いように進むと思い込むなど、愚か者の考え―――」

「僕の知るアリーチェさんは――」


アリーチェさんの言葉を遮り、僕は言った。


「そんな『臆病者』ではないはずです」

「っ!?」


アリーチェさんが驚愕の表情と共に僕へ振り返る。

自分で言うのもなんだが、僕らしからぬ当たりの強い言葉だ。


でも今はハッキリと言うべきだと、僕は思ったのだ。


「どういう……意味ですの」


僕を睨みつけるアリーチェさんに、僕もまた目を逸らさず答える。


「自分の望んだ結果にならないことが怖くて……

『物事に絶対はない』なんて『逃げ道』を作っておく人は、僕の知るアリーチェさんじゃないってことです」

「―――っ!!」


そうだ。

『わたくしは、『勇者』になる』……

彼女と初めて出会い、僕に向かって高らかに宣言した時からそうだった。

『不可能』だなんて一切考えない、絶対の自信に満ち溢れている姿こそ、僕の知っているアリーチェさんだ。


「しかも僕達に嘘までついて……

 もしここに戻って来れなかったら僕達に顔も見せないままサヨナラするつもりだったんですか?」

「………………………」


それに関しては言い訳の余地もないようだ。


「僕、一度だけ『今の』アリーチェさんと同じ様な姿を見たことがあります」

「え……」


アリーチェさんが困惑の声を上げる。


「学園活動初日に起きた……アリーチェさんの暗殺未遂事件……

 あの事件の後、僕の元へやって来たアリーチェさんは……

 今の貴女と同じ様に、普段の絶対の自信に満ちた貴女とはまるで別人でしたね」

「……………………!」


アリーチェさんもその時このことを思い起こしているようだ。

そして、絞り出すように声を発した。


「それが……何だと言うのですの……」


アリーチェさんは、僕の視線から逃げるように目を逸らした。


「今の貴女をそのまま見送ったら、きっと戻っては来ないんじゃないかって……

 何となくですけど、そう思ったんです」

「…………………………」


僕の言葉に、アリーチェさんは何も反論しなかった。


「仮にそうだったとして……

 何故、貴方達がわたくし達に付いてくるという話になりますの」


話を誤魔化すように、アリーチェさんが僕の『お願い』について触れてきた。


……『これ』を言うのは、正直むず痒い所はあるけど……

ここまで言った以上、誤魔化すわけにもいかない。


「己惚れかもしれませんけど……

 僕が一緒に居たら、貴女は元のアリーチェさんに戻ってくれるんじゃないかと思って」

「っ!

 そ、それはどういう―――」


「僕は、貴女にとって………

 特別な存在だと………そう思ってます」

「なっ――――!?」


アリーチェさんは今まで一番の狼狽えっぷりを見せた。


「まぁ……!まぁまぁ……!」

「ほう……!」


そして黙って見守っていた外野が……特にスリーチェとファーティラさんが何やら騒がしくなってきた気がする……


「だって僕は、アリーチェさんの―――」

「ちょっ!ちょちょちょ、ちょっとお待ちくださいな!

 い、いきなりそんな!わた、わたくしの、そんな、わたくしは―――!!!」


「一番の、ライバルなんですから!!」

「いやっ!そんな、ライバルだなんて!

 貴方のことを、そんな――――ライバル?」


そう……まだまだ実力不足な僕が彼女とライバルなんて本来は役者不足もいいところだけど……

彼女と初めて会ったあの日、僕達はお互いに負けないと誓いを立てた。

そしてあの事件の後、彼女自身が言ったのだ。

『貴方はわたくしの生涯最大のライバルだ』と!


僕は、彼女にとって決して弱気な姿を見せられない、ライバルなんだ!!


「ライバルの僕が一緒に居れば、貴女はあんな弱気なことは言わないはずです!

 あの事件の後みたいに、きっといつもの自信に満ち溢れた貴女に戻って―――――あれ?アリーチェさん?」

「ええ、ええ、そうでしょうね。

 むしろそれ以外何を想像したというのでしょうかね、アリーチェ。

 まさかこの方の口から何か別の意味の言葉でも出てくるとでも、そんな馬鹿なことを僅かでも考え―――」


アリーチェさんが頭に手を当てながら何やらブツブツと呟いている……


「あーんもう……!

 フィルさんったらもう!もう!」


スリーチェが両手をぶんぶん振りながら憤りの声を上げる……


「やれやれ……ここは私がアドバイスに入るしかないようですね……

 フィール様!こう言うのです!

『アリーチェさん、僕は貴女の心の花園からとても大事な花を摘み取っていってしまった。そう……『恋』という名の―――』」

「ファーティラ」

―――ゴッッッ!!!

「おぐォッッ!!」


何かをほざこうとしていたファーティラさんをプランティさんが首を狙った手刀で沈める……


うーん……なんか間違えちゃったかなぁ……?

僕は顎に手を当ててしばし考え込むのであった……


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