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第5話 スリーチェと自然な理由


《 エクスエデン校門前 》


さてさて、こちらは街から学園へと戻って来た僕達。

時刻はすっかり夕暮れ時だ。


「きゅるー。

 コリーナの自慢話に付き合わされた所為であんまり遊べなかったねー」

「まさかお話の途中でこっそり抜け出したのがバレて街まで追って来られるとは……」

「最終的に『そういえばミルキィさんとヴィガーさんがコリーナさんの成り上がりストーリーを是非その生い立ちから現在に至るまでをじ~っくり知りたいって言ってたなぁ』なんてフカすことで何とか事なきを得ましたからね……」


今度2人に会ったらまず土下座しなきゃね。


まぁそれはそれとして……


「アリーチェさん、今日は色んな所を案内してくれて本当にありがとうございました」

「うんうん!

 ボクあの大っきなお風呂とかもう一度行きたいなー!」

「ええ、アレは噴水広場ですけれどね。

 今回はまだ悪気が無かったので注意だけで済ませましたけど次に公衆の面前で池にダイブしたら池の水ごと氷漬けにしますのでそのつもりで」


それやると多分また大喧嘩に移行すると思うからもうちょっと穏便に済ませて欲しいです。


「ファーティラさん達も、いつも以上に護衛として周囲を警戒していたんですよね?

 それでいて僕達の邪魔にならないように気を回していたとか……

 本当にお疲れ様です」

「いえいえ、元よりその為の我々『園芸用具(ガーデニングツールズ)』なのですから」


昨日の戦いでスクトさん達……コーディス先生が聞いたところによる『レゾンデートル』という組織がアリーチェさん達の命を狙っているということが分かり、ファーティラさん達お付きの3人はより一層アリーチェさんの護衛として力を入れているようだ。


アリーチェさんのプライベート以外では必ずアリーチェさんの傍に3人の内1人を置き、絶対に目を離したりしないようにしているんだとか。

それでも決して主の行動を阻害したり気分を害するようなことはせず、傍目からは今までと同じ様な距離感を保ったままでいるそうな……

全く持って彼女達には敬服するばかりだ。


「それに我々……というか私としてはアリスリーチェ様達の様子を観察しているだけで十分楽しませて頂きましたから。

 例えばお店の人にアリスリーチェ様とフィール様がカップルだと思ったと告げられた時の赤面している場面だとか……

 別のお店でオニキス様とフィール様がカップルだと思ったと告げられた時の氷のような眼差しを送る場面だとか!

 実に充実した時間を過ごさせて頂きました!」

「もう、ファーティラさんってばー。

 僕達に気を使わせないようにわざわざそんな思ってもいないことを言ってー」

「いや、純度100%の本心―――」

「いえ、そういうことにします。

 だからもうそれ以上喋らないでください」


と、割と強い口調でファーティラさんに釘を刺しつつ、皆と雑談混じりに校舎へと向かう。


「それにしてもさー、折角ならスリーチェ達も来れば良かったのにねー。

 スリーチェと一緒に色々なところ行きたかったなー」


ふいにキュルルがそんなことを言ってきた。


スリーチェにプランティさん……

彼女達も昨日の事件に巻き込まれた生徒だ。

それどころかスクトさんがあんな事を引き起こした一番の目的がスリーチェの暗殺だというのだから、スリーチェこそ事件の一番の当事者と言っていいだろう。

なので、学園側からも彼女達に休養は出されてはいたのだけれど……


「結局、スリーチェは今回の休養を蹴ってしまったんですよね……」

「『元よりわたくしはわがままを言って皆さんの活動に同行してしまった身。休養を受ける資格などありませんわ』などと言って新しい入学者組の活動へと戻ってしまわれましたわ。

 一応身体はアリエス先生の手で全快されておりますけれど……」


ちなみにプランティさんもそんなスリーチェに付き添っている。

スリーチェとしては昨日の戦いで一番酷い怪我を負ったプランティさんには何としても休養して欲しいようだったけど……普段の気弱な彼女はどこへやら、とても強い本人の意志に押されてスリーチェも折れてしまったらしい。

2人とも無理だけはしないで欲しいものだけど……

本人達の決意に水を差すのもなぁ……


なんてことを考えていると―――


「あっ!スリーチェ!」


噂をすればなんとやら、校舎前にスリーチェとプランティさんがいた。

キュルルが嬉しそうに2人に向かって走り出す。


「……皆さん!お帰りなさいませ!

 街へのお出掛けは楽しかったですか?」


「うん!ちょっとお邪魔が入っちゃったりもしたけど、楽しかったよー!」

「……?」


今一瞬、スリーチェが暗い顔をしていたような……?

気のせいかな……?


「おや、お邪魔とは?」

「コリーナがねー、『お前らああああああ!!!記念すべき主人公の覚醒イベントの説明中に抜け出すとはどういう了見だあああああ!!!』って爆走して来たの。

 周りに迷惑だし静かにしてって言っても全然治ってくれないし……」

「まさかキュルルさんのことを『もしかして良識人なのでは?』なんて思う日が来るとは思いませんでしたわ……」


なんか酷いこと言ってる気がするが正直僕も同じようなことを思ってしまったのでツッコめなかった。


「そうでしたの?

 でもコリーナさんならつい先程まで『そうかそうか!!お前達はそんなにも私のここまでに至る軌跡を知りたかったのか!!ならば今日はとことん私の物語が始まるまでの道のりを語り尽くしてやろうじゃないか!!!』と言ってミルキィさんとヴィガーさんにお話しし続けておりましたよ?

 今はお2人とも白目を剥いて医務室に運ばれておりますけど」

「うーん、詫びキュルルンゼリーすぐに作らなきゃなぁ」


ちなみにコリーナさんの方はキャリーさんとバニラさんを次の標的にしたそうな。

どうにか逃げ切って欲しいものだ。


「ねえスリーチェ!

 次に街行く時はスリーチェもおいでよ!

 一緒に色んなところ見て回ろー!」

「……ええ!

 是非そうさせてくださいな!」


……まただ。

一瞬、言葉に詰まっていた……

スリーチェ……どうしたんだろう……?


「あっ、そうですわ!お姉様!

 わたくし、今日の模擬戦でとっても活躍しましたの!

 是非是非わたくしのお部屋でお聞きくださいな!」

「貴女の部屋で?

 別に構いませんけれど……どうせなら食堂でお話しすればよろしいのでは?」

「きゅる!

 そうだよ!僕もスリーチェの活躍聞きたーい!」


キュルルが身を乗り出して2人の間に割って入った。


「ごめんなさい!キュルルさん!

 今日のお話はお姉様達にしかお伝えすることは出来ませんの……」


「えー!どうしてー!?」

「アリーチェさん達にしかお伝えできない……?」


キュルルがぷー!と頬を膨らませて抗議の意思を見せる。

僕としても何故アリーチェさんにしか話せないのかは気になるところだ。


「お嬢様……どうするおつもりなのですか……?」

「大丈夫ですわ……ごく自然な理由を思いつきましたの……」


プランティさんとスリーチェがぼそぼそと何かを話し合った気がする。


「実は……」


スリーチェは勿体ぶるようにやたらと間を空けた。


「今日の模擬戦でわたくしが使った技はガーデン家の限られた人間にのみ伝承される秘奥義中の秘奥義だったのです……!」

「えっ」


「きゅる?」

「秘奥義?」


急に出てきた単語にキュルルと僕が思わず間の抜けた声をあげる。

ついでにプランティさんが絶句しているような。


「そう……そしてこの技の詳細は決してガーデン家以外の者には口外してはならないと言われており、それゆえ今日の模擬戦の内容についてはお姉様やファーティラ達にしかお話出来ませんの……!

 わたくしとしても心苦しい限りですわ……!」


スリーチェはぐっ!と拳を握り込み力説している。


「ですのでお姉様!

 どうかわたくしの部屋でお話を!」

「あのスリーチェ。

 わたくしそんな秘奥義など聞いたこと―――」

「さあお姉様!!

 いざわたくしの部屋へ!!」

「ちょ、スリーチェェ!?」

「ス、スリーチェ様!?あの、少しお待ちをぉ!」


スリーチェは無理矢理アリーチェさんを引っ張って校舎の中へと消えていき、ファーティラさん達は慌てて後を追っていった……


「あの、プランティさん……?」

「えっ!?あっ、その!

 そう、秘奥義、秘奥義ですので!

 だから2人きりにしてあげないとですので!

 なんせ秘奥義ですから!

 いくらなんでもそりゃあんまりじゃないかと思われても秘奥義ですので!!

 それでは!!!」

「いやあのちょっとお!?」


プランティさんは早口で捲し立てながら全力ダッシュでこの場から消えた……


「そっかー。

『ひおーぎ』じゃしょうがないよねー」

「しょうがないのかなぁ?」


キュルルは全くもって疑っていなかった……


うーん……なんかよく分からないけど、僕達が街へと出掛けている間に何かがあったのは間違いなさそうだ……


それに、僕は見た。


スリーチェがアリーチェさんを引っ張っていく時の掌の中……

彼女は何かを握っていた。


チラリと見えたアレは―――


「………封筒?」


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