第3話 君と貴女と副産物
さて、こちらはミルキィさん達との訓練(とキュルルとアリーチェさん達の喧嘩)が一段落した後の僕達だ。
「ねえフィル!今日はこの後どうするの?」
「うーん……特に決めてないんだよね……
休養期間が出来たけど、突然過ぎて一体何をすればいいのか……」
そう、昨日の討伐活動で魔物の群れによる強襲事件に見舞われた僕達先行入学組は学園より4日間の休養が言い渡されたのだった。
あれだけの事件に遭遇してしまった僕達の心身の負担を慮ってのことらしい。
ただ、アリーチェさん曰く……
「というのは建前で、実際は学園側も今後の対応と対策に追われてしまいその時間稼ぎといったところなのでしょうね。
先週のわたくし達と同じことをさせておけばいい新しい入学者組と違って先行組は活動方針もまた考え直さねばならないでしょうし。
まぁわたくし達のことを慮っていることも嘘ではないのでしょうけど」
とのことだ。
まあ確かに……昨日みたいなことが起きたばかりなのにその翌日に、さぁまた魔物討伐活動を再開しましょう、なんて訳にもいかないか……
「きゅるー!
だったらさ!また皆で街に行こうよー!
ボク、もっと見たいところとかあったんだー!
ねえアリーチェ!また案内してよ!」
「もう……仕方ないですわね。
まぁわたくしとしても今日はこの後特に予定はないので構いませんですけど。
キュルルさん、今回はアリエス先生にご迷惑をお掛けしないようにお互い気を付けましょうね」
「きゅるっ!分かってるよー!」
「おい、フィル、あいつら……」
「ええ、昨日の一件から……
2人とも、かなり接し方が変わったんです」
キュルルとアリーチェさんが険悪な雰囲気にもならず、ごく自然と話し合っている。
ミルキィさんが物凄く意外そうなものを見る目になっているがそれも無理はないだろう。
昨日の事件における共闘以来、2人はお互いを『アリーチェ』、『キュルルさん』と呼び合う仲になった。
まさかあの戦いからこんな『副産物』が生じるなんて……
僕は思わず2人を見つめて笑顔を浮かべていた。
「大体この前大騒ぎになっちゃったのはアリーチェが意地悪するからでしょ?
ボクはただフィルと一緒に楽しく遊びたいだけなのにさー」
「アナタはフィルやその周りの迷惑を考えずに動き過ぎですのよ。
わたくしのようにもう少しお淑やかになった方がよろしいですわよ」
「おしとやかー?」
「………なにか言いたいことでも?」
「べっつにー?
いっつもいっつもフィルの部屋に押し掛けたりする奴が『おしとやか』っていうのかー、なんて思っただけー」
「………それはどこぞの破廉恥不審者からフィルの身を守る為致し方なく行っていることですわ」
「……あ?誰が破廉恥不審者だって?」
「別にアナタのことだなどとは言っておりませんが?
わざわざ自分で言及する当たりそういう自覚があるのでは?」
「………………………………」
「………………………………」
―――ドォォォォォオオオ!!!!
―――ズバシャァアアアアア!!!
「まぁこんな風にシームレスに喧嘩に移行することも珍しくないんですけどね!!」
「結局殆ど変わってねぇじゃねぇか!!」
ヴィガーさんのツッコミを背に受けつつ、僕は2人を止めるために走り出すのだった……
そして、この時の僕は気付いていなかった。
あの戦いの『副産物』がこれだけではないことを―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「きゅるー!
お出掛け準備かんりょー!
ねえねえアリーチェ!今日はどんな所行くのー?」
「そうですわね……
前回は一つの施設だけで一日を終えましたし、今回は複数の観光名所などを回りましょうか」
「きゅっきゅるー!
たのしみーー!!」
「なんであんな大決戦繰り広げておきながらコイツらまた普通に会話出来てんだよ」
「もう2人の間では『喧嘩』というイベントが当たり前に起こり過ぎてもはや言及するまでもないからですね」
僕の返答にヴィガーさんは何も言えなくなった。
まぁそれはともかくとして、早速僕達は街へと―――
「フィル=フィール!!!
それにその愉快でヘンテコな仲間達!!!
いるかぁ!!」
―――この厄介さの塊のような声は………
「……何か御用ですか?コリーナさん……」
「なんだぁ!!
その『うわぁ厄介な人が来たよ……』とでも言いたげな生返事はぁ!!!」
よくご存じじゃあないですか。
「きゅる。
愉快でヘンテコな仲間達ってボク達のこと?」
「この方にだけは言われたくありませんわね」
キュルルとアリーチェさんもこの人の前では若干押され気味だ。
「全く!!
今日はこの私がお前達にとてもビッグな知らせを持ってきたというのに!!!」
「ビッグな知らせ?」
一体なんだろう?
もしかして昨日の事件に関することで何か……?
「この私に関することだ!!!」
「正直すっげぇ帰って欲しい」
……それで、何の知らせなんですか?
「おいフィル!!
台詞と地の文が逆!逆ゥ!」
ヴィガーさんのツッコミが冴えわたる。
「きゅるー。そういえばコリーナって初登場時からずっと叫んでばっかだよねー。
黙ってると死んじゃうのかなー」
「この方の台詞には常にエクスクラメーションマーク(!←これ)が2つ以上付いてる気がしますわ」
なんかコリーナさんのテンションに引っ張られてかどんどんメタ台詞が増えていくなぁ……
まぁ、とにかく早く話を終わらせてしまおう……
多分大した話じゃないだろうし……
「で、一体なんなんですか?知らせって」
「聞いて驚け!!!
この私に……!!!
『エクシードスキル』が発現したのだ!!!!」
「はぁそうですか」
はらやっぱり大した話じゃ———
…………ん?
「………今なんて?」
「このぉ!!!!!!!
私にぃ!!!!!!!
『エクシードスキル』がぁ!!!!!
発!!!現!!!
したのだあああああああああああ!!!!!」
「え、えええええ!!??」
思わず聞き流しかけてしまう所だった……!
え、『エクシードスキル』……!?
「ま、マジでですか!?」
「本当でだ!!!
まだ詳細な条件は不明だが!!!
私は一度だけ自分の『魔力値』を増大させることが出来るのだ!!!
その量は……普段の10倍だああああ!!!!」
「じゅ、10倍……!?」
確か、コリーナさんの『魔力値』は『4500』……
つまり………『45000』………!?
「そういえばコイツ……魔力すっからかんのはずなのに『準』高等魔法を連発してやがったな……」
「あん時はコイツならまぁ何でもありってことでいいか、って感じで深く考えなかったな……」
ミルキィさんとヴィガーさんがそんなことを言いながら昨日の戦いを振り返っていた……
「そう!!!この主人公に相応しき『エクシードスキル』!!!!
その名も……!!!
【フィーヴァー・タイム】だあああああ!!!」
「それ確実にリブラ先生の命名ですよね!?」
いやまあコリーナさん本人に不満が無いなら別にいいんだけど。
「ふぅん……やはりそうでしたの」
「え……?」
アリーチェさんが顎に手を当てながらそんなことを呟いた。
「実は昨日、念の為スリーチェやプランティに医務室で精密検査を受けて頂いておりまして……
わたくしも同行していたのですが、そこでリブラ先生からある話を聞かされましたの」
「ある話……?」
「ええ、それが―――」
アリーチェさんは高笑いをあげ続けているコリーナさんを一瞥した。
「昨日の大陸西側における強襲事件に巻き込まれた生徒達の中から『エクシードスキル』が発現した者が数十名……あるいは数百名単位で出たかもしれない、というお話でしたの」