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第35話 コーディスとスクトと存在理由


「がっ……はぁッ……!!」


スクトは脇腹を手で抑えながらもがいていた。

その手の隙間からおびただしい量の血が流れ出ている。


「心配するなスクト。

 すぐに治療する」


そのスクトの元へと、コーディスが緑色の蛇を右腕に巻き付かせつつ歩いてくる。

彼を閉じ込めていた5枚の《アンファザマブル・ウォール》はスクトが倒れた時点で消滅していた。


「ただ……少しの間眠っていてもらうぞ」


コーディスはそう言いながら2つの小瓶を取り出した。

1つはスクトの傷を治す為の『ポーション』であり……もう1つは、彼を眠らせる為の薬品であった。


今回の事態の首謀者、あるいは関係者に遭遇した時の為に彼が学園を出る前に用意していたのだ。


「っ…………!!!!」


スクトはなんとか近づいてくるコーディスから逃れようと足や腕を動かすも、うまく力が入らないのか地面を搔きむしるような動きになるだけだった。


そして、コーディスはスクトの前まで―――




「彼を渡すわけにはいきません」




突如―――

謎の声が聞こえたかと思うと―――


コーディスの目の前に倒れていたはずのスクトの姿が、消えた。

彼が流していた血の跡だけを残して―――


「――――――」


コーディスは即座に後ろを向いた。


そこには、スクトが使用していたものと同じローブを纏った人物と……

その人物の足元に倒れているスクトの姿があった。


スクトの時と同じくローブの人物の顔は隠されている。

しかし、その声とわずかに覗く口元に塗られた口紅などから、女性ということは分かる。

もっとも、スクトがプランティに姿を変えることが出来ていた以上、それも信じるに足るかどうかは疑問なのだが……


「あん……た………何、故………!?」


スクトはそのローブ姿の女性を驚愕の目で見つめていた。

どうやら彼にとってもその人物がこの場にいることは予想外の出来事らしい。


この人物が何者なのかは分からない。

だがコーディスが今、何よりも優先して考えなければならないことは――


「………今すぐ治療をしないとスクトは死ぬぞ」


地面に倒れ伏すスクトの顔はどんどんと青ざめてきており、失血死までもう時間がないことが見て取れた。


「………………………」


ローブ姿の女性は何も言わずに、片手をスクトの方へと向けた。


すると―――



――――ボウッッッ!!!



「―――――っ!!!!

 ぎッ!がぁああああああああッッッ!!!」


突然スクトが両手で抑えていた脇腹が―――燃え上がった。

その炎はスクトの服などに燃え移ることはなく、蛇の牙によって付けられた傷の場所のみで燃えている。

炎に炙られる苦痛にスクトが悶え、暴れまわろうと……その炎は燃え続けた。


そして数秒しないうちに、炎は音もなく消え―――


「―――かッ……はッ……!はぁッ……!!」


スクトの脇腹の傷は、完全に塞がれたのだった………


「………このような手段しか取れず、申し訳ありません……」


ローブ姿の女性はスクトに対してあまりに荒っぽい『治療』を行ったことを謝罪した。

本心はどうなのかは分からないが……少なくともその声色からは、スクトのことを本気で気遣っているようには聞こえた。


そんな光景を見ながら、コーディスは呟いた。


「………今のは『炎魔法』………ではないな?」


「……………………………」


コーディスには、今のは炎を生み出したというよりも……

まるで、どこかで燃えている炎を『転送』してきた……という風に見えた。


『転送』……つまり、空間を飛び越えてきた―――


「スクトに空間跳躍魔法を授けたのは、君か?」


「何も答えるつもりはありません」


そう言い、ローブ姿の女性はスクトの肩を支えると―――


―――ザッ……ザッ……


彼と共にその場から立ち去ろうとした。


「……………………………」


コーディスは何も喋らず、左腕を水平に上げる。

すると、既にこの場に戻ってきていた赤色の蛇が巻き付いてきた。


2匹の蛇はこの場を去ろうとする2人の背中に今にも飛びつかんと、口を開き牙を立てている―――


「止めておいた方がいいですよ」


ローブ姿の女性は、振り返らずにコーディスへと警告した。


「お分かりでしょう?」


「………………………………」


具体的なことは何も言っていない。


しかし……コーディスは2人へと手を出すことは出来なかった。


手を出せば、何が起きるかは分からない。


だが、『何か』が起きてしまうのは確実だった。


そして、その『何か』は……おそらくこの場だけでは収まらない。


コーディスの勘は、そう告げていた―――


―――ザッ……ザッ……


ローブ姿の女性はスクトを支え、去って行こうとする。


そのまま、2人の姿がコーディスから見えなくなる―――


その直前―――


「貴方の質問に答えるつもりはありませんが………

 これだけはお伝えしておきましょう」


ローブ姿の女性は立ち止まり、声をかけた。



「私達の名は―――『レゾンデートル』」



その意味は―――『存在理由』



「それでは、またいつか会いましょう。

 コーディス=レイジーニアス」


その言葉を最後に―――

2人は、完全に姿を消した———


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