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第31話 僕と貴女との重なる魔法


鏡のようなものを覗き込むスクトは、唸るような声を出していた。


「逃がすものか……!

 むしろこれはガーデン家の娘を2人まとめて葬るまたとない好機だ……!

 どれ程の力があろうと、あの『水晶ゴーレム』を倒すことなど、出来る訳がない!!」


そう叫びながらも、スクトは嫌な予感が消せなかった。


君ももう知っているのだろう。

この学園の生徒は、面白い子ばかりだと。


コーディスの言葉が、嫌に頭に響いた―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


―――ピキキキ……!


―――ズゥン……!ズゥン……!


『水晶ゴーレム』が左腕を再生しつつ歩いてくる……!


出口を塞がれた以上、もうアレを相手をするしかない……!


「キュルル……!アリーチェさん……!

 もう一度……『ゴーレム』の動きを止めてください……!

 僕が……《ミートハンマー》で……攻撃します……!」


「きゅるっ!?駄目だよフィル!!

 ボク達が何とかしてみるから!!」

「そうですわ!既に貴方の身体は限界のはずでしてよ!!

 これ以上は……!!」


「でも……やらないと……!!

 僕しか……あの『ゴーレム』に……

 傷をつけられない……!」


僕は震える腕で木剣を握りしめる……!

『2人』はそんな僕を必死に止めようとする……!


そんな時――――


「フィル……さん……」

「スリーチェ……!?」


僕に負けず劣らずに満身創痍なはずのスリーチェが、僕の傍に立っていた。


「どうして……」

「え……?」


「どうして、貴方は……そこまで頑張ろうとするんですの……?」

「どうして……って……」


スリーチェは僕の目を真っ直ぐに見つめて、聞いてきた。


「こんなにも苦しんで……

 今だって……いつ倒れてもおかしくない状態なのに……

 どうして、まだ貴方は戦おうとしますの……?

 もう嫌だと言って……全てを投げ出しても……

 いいのではありませんの……?」

「……………………………」


僕が、今まで頑張って来た理由―――

今もなお、頑張る理由―――


スリーチェを守りたかったから―――

僕自身、死にたくなかったから―――


色々と考え付くけど―――


結局のところは―――


「『勇者』に―――」


「え……?」


「僕は……『勇者』になる……!!

 だから……頑張るんだ……!!」


「―――――」


そう……結局は、それに行きつくんだ。

とても子供っぽい、笑ってしまう程単純な理由。


それが―――僕の全てだ!!


「……………………」


スリーチェは、何も言わない。

あんまりな内容に呆れてしまったのかな……


まぁ無理もない―――


―――ギュッ……


「えっ」


スリーチェが―――僕を抱きしめた。


「え……えっ、えっ!!

 ちょっ!ス、スリーチェ!?」


僕は突然のことに顔を赤くして声を上げる!!

な、なんで!?どうして!?


「きゅるっっ!!??

 スリーチェ!?何してるの!?

 ダメ!!それダメ!!!離れて!!!」

「すすすすすすスリーチェ!!!!

 あなあなあなあな貴女何を!!??

 こんな時におやめなさい!!

 いやこんな時でなくてもおやめなさい!!」


スリーチェの行動に『2人』もまたパニックになり、キュルルとアリーチェさんが分離しかかっていた……


「あ、あの、スリ―――」


「《リストレーション・フォース》」


「えっ―――?」


スリーチェが、その『魔法名』を唱えると―――


とても暖かな光が、僕を包み込んだ―――


そして―――


「腕の震えが……止まった……?

 身体が……元の状態に戻ってる!?」


さっきまでの辛さが――完全に消え去っていた!!


「きゅるっ!?フィル、ホント!?」

「今のはまさか……回復魔法!?

 スリーチェ!貴女、まさか探知魔法と爆発魔法の他にもう一つ魔法を―――」


―――ドサッ……!


「っ!!スリーチェ!!??」

「きゅ―――!」

「――――っ!!」


スリーチェは魔法を唱え終わると、全ての力を失ったかのように地面へ崩れ落ちた……!!

そうだ……彼女はもう既に限界まで魔法を使っていたんじゃないか!!


僕も、キュルルもアリーチェさんの『2人』も……!

崩れ落ちたスリーチェに駆け寄る!


「スリーチェ!しっかり!」


「くっ……はっ……!!」


スリーチェはまるでさっきまでの僕のような有り様だった……!


「スリーチェ!なんでこんな……!」


「………最初…………」

「えっ……?」


「わたくしが………ここに、来た理由………

 最初に言った……『勇者』になりたい……っていうのは……

 ただの方便……でした……けど…………」


スリーチェは、こちらを見て―――


「貴方を見て………わたくしも…………

 本当に、『勇者』になりたいって……思いましたの……

 だから……ほんの、少し………!

 頑張って、みましたわ……!」


微笑みながら、言った―――!


「――――っ!」


僕は立ち上がり、『水晶ゴーレム』へと向き直った!


―――ズゥン……!ズゥン……!


既に左腕の修復は終えており、完全な状態であの『水晶ゴーレム』はこちらへと進んできている……!


でも……僕はもう、何も恐れない!!


「キュルル!!アリーチェさん!!

 僕、やります!!

 絶対に……アレを、倒す!!」


「「――――!!」」


『2人』はもう、僕を止めたりはしなかった。


その代わりに、僕の隣へと並び立ち、共に『水晶ゴーレム』を見つめる……!


―――ズゥン……!ズゥン……!


こちらへと歩を進める『水晶ゴーレム』から目を離さずに、アリーチェさんが聞いてきた。


「ねぇフィル……

 貴方の《ミートハンマー》で傷をつけられた、と言いましたけど……

 どの程度の傷を負わせられましたの?」

「それは……

 人間の身体で例えるなら……

 ナイフを深く刺し込んだぐらい……でしょうか……」


自分で言ってて、そんなものかと思ってしまう……

人間相手なら十分致命傷なその傷も、あの『ゴーレム』にしてみれば身体の一部をほんの少し削られた程度だ……


「あの硬度を考えれば十分驚嘆に値するのでしょうけど……

『ゴーレム』を行動不能に陥らせるには身体を三分の一未満にまで砕かねばなりませんわ。

 しかもあの再生能力……

 貴方の力だけであの『ゴーレム』を砕き切るのはあまりにも非現実的ですわね」

「っ……!」


自分でも思ってはいたことだが、はっきりと言われてしまうとつい顔を歪めてしまう……!


でも、それでも……!

今はやるしか……!!


「……オニキスさん、アナタはわたくしの力を借りることが気に入らなかった。

 けれど、フィルを助ける為なら我慢出来たのですわよね?」

「―――?

 なんだよ、こんな時に」


アリーチェさんがキュルルに妙なことを聞いていた。


「ならば、わたくしとフィルが共に戦うことも我慢して頂けますか?」

「きゅ――!?」

「アリーチェさん?それって―――」


「わたくしとフィルの力を合わせれば―――

 きっとアレにも通用しますわ―――!」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


スクトがコーディスに話していた通り、その『ゴーレム』には思考能力があった。

それは知性や理性と呼べる程のものではないが、与えられた命令に対しどのように遂行するべきか、その場の状況に応じて自ら判断するぐらいのことは出来るものだ。


今この『ゴーレム』に与えられている命令は非常に単純だった。

『この場の生き物の排除』である。


そして、その命令の遂行に複雑な思考は必要なかった。

自らの破壊不可の身体を使い、標的を押し潰せばいいのだ。


ただひたすらに標的に向かい歩き続け、辿り着いたら掌で潰す。

例え逃げられても、また同じことを繰り返す。


この場から逃げることが出来ない以上、それでいつかは終わるのだ。


標的のうちの1人が自らの身体を少し傷付けることが出来たことは想定外であったが、それは決して『脅威』には足り得ない。

既に自らの再生能力の前には、全くの無意味であることが分かっている。


そして新たに現れた1人……いや『2人』の標的も、自らを破壊する術は持っていない。


故に、することは何も変わらない。

ただひたすらに、標的に進み続ければいい。

そう、それで何も問題はない。



だが……『ゴーレム』の思考は、何かを懸念し続けている。

本当にそうなのか、と。



かつての自分……

今ここに居る自分とは別の自分……


その自分も、自らに傷をつけるものと相対し、それを『脅威』とは思わずにいたのではないか。


その自分は、一体どうなったのか……

何故かそれを思い出せない。


ただ、あの標的のうちの1人……

自らに僅かな傷をつけた標的の色が『青』になり……

その後『赤』に変わった瞬間……

何かが想起された気がする。


アレはとても危険だという、理屈を超えた何かが―――


と、そんなことを思考しながら歩を進めていた『ゴーレム』は、標的の姿が変わっていることに気が付く。


先程新しく現れた標的は『2人』で1人の姿をしていたが、今は()()()2()()に分かたれている。


そして、そのうちの1人が―――


「フォルムチェンジ!!

『ヒュドラー』!!」


―――ズォオオオオオ!!


『多頭の大蛇』へと姿を変え、自らの身体を拘束してきた―――!!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「大丈夫ですか?アリーチェさん」

「ええ……ありがとうございます、フィル」


僕はアリーチェさんを左腕で支えながらゆっくりと『水晶ゴーレム』の元へと歩いている。


キュルルが『ゴーレム』を抑えつけてくれている以上、車椅子がない彼女は歩いていくしかない。

立ち上がるだけでも一苦労のアリーチェさんの負担を軽減する為、僕は彼女を出来るだけ優しく支えているのだ。


こんな時になんだけど、アリーチェさんの身体の柔らかさに、僕は少しドギマギしてしまう……

アリーチェさんも少し顔を赤らめているようだった……


そして『ヒュドラー』になったキュルルはそんな僕達を見て『水晶ゴーレム』をより強く締め付けた気がする……


そんなこと考えているうちに、僕達は『水晶ゴーレム』の前にまで辿り着いた……!


『ゴーレム』は拘束から逃れようと腕や脚を振り回そうとし、キュルルはそれを懸命に押さえ付ける……!


もしこの状態で『ゴーレム』の拘束が解かれたら、目前にいる僕達はすぐさま踏み潰されることだろう……


でも―――!


「フィル……!」


アリーチェさんが身体を支える僕の左手に、自分の手を重ねる。


何も、恐れる必要なんてない!!


僕はアリーチェさんに向かってコクリと頷き―――


「キュルル!避けて!!」


僕からの合図により―――


―――シュルッッッ!!


キュルルは『水晶ゴーレム』の拘束を解き、離れる!


そして―――


当然の如く『ゴーレム』は僕達の方へ―――!


「アリーチェさん!!」


「――――――っ」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「アリーチェさん……

 僕と貴女の力を合わせればって……?」

「フィル、貴方が作り出した『調理器具』は、何かに当たった時の速度に応じて重量が増す、という特性なのでしたよね?」


「え、ええ……」


以前の魔法のみを使って戦う模擬戦の時に、僕はそう話していた。


「なら、普段よりも更に速く標的に当てることが出来れば、その重量……すなわち破壊力も増すということ……」

「そ、それはそうですけど……!

 僕はもう既に全力で振ってるんです!

 これ以上は―――!」


「フィル、わたくしの得意魔法は―――」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「《ミートハンマー》!

 『最大(マックス)規格(スタンダード)6倍(セクスタプル)』!」


僕は右手のハンマーを、振りかぶる……!!


そして―――!




「《アドバンス・アクセラレーション》!!」




アリーチェさんの魔法が、重なる―――!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「わたくしの得意魔法は、『加速魔法』ですわ。

 全力で発動すれば―――触れているモノに音速を超える速さを付加することが出来ますのよ」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




僕達は共に叫ぶ―――!!




「「《 最大(マックス)規格(スタンダード)・アクセラレーション》!! 》」」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆








その時―――


空間内が、震えた―――










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