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第29話 キュルルに出来ることとアリスリーチェに出来ること


「――ィルさ―……!

 ――――さん――…!!」


スリーチェの声が遠い―――


恐らくは、僕の名前を呼んでいるのだろうけど―――


もう、殆ど聞こえない――――



―――ズゥン……!ズゥン……!



地面に倒れ伏した僕は―――


全身でその振動を感じる―――


早く立たなきゃと、焦る一方で―――


僕は、どこか冷静に考えていた―――



僕はもうすぐ、死ぬんだろうな、と――――



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


自身が持ち得る限界の速度で平原を疾走するキュルルとアリスリーチェの2人は、既にフィル達がいる森の中にまで来ていた。

木々が立ち並ぶこの場所では2人も速度を落とさざるを得なかったが―――

もうフィル達のいる洞窟まで目前に迫っていた。


「オニキスさん!!

 フィルとスリーチェのいる場所は!?」

「もうすぐ!!

 もうすぐだよ!!」


そうして、ひたすらに森を駆ける2人の視界に奇妙な光景が見えてきた。

数十本もの木々が一直線に薙ぎ倒されている。


そしてその光景の先に―――

洞窟の入口が、映った―――


「――っ!!

 あれはっ!?」

「あの中だよ!!

 フィルは、あの奥にいる!!」


もうすぐ、会える―――!!

絶対に、死なせはしない―――!!


2人は洞窟の入口に向かって、駆ける―――!!



だが、次の瞬間―――



―――どたっどたっどたっどたっどたっ!!

「「「「ウォオオオォォオオオオ!!!」」」」

「「「「キシャァアアアァアアァア!!」」」」



「きゅっ―――!?」

「なっ――――!?」



洞窟の中から大量の―――

これまでの比ではない、信じられない程の大量の魔物の群れが溢れ出てきたのだった―――


それはスクトが仕掛けた罠。

確実に、スリーチェとコーディスを始末する為に―――

万が一にでも外部から脱出の手立てなど用意されない為に―――


コーディス以外の人物が洞窟に近づいたら、現状動かせる全魔物を以って排除に当たらせる、迎撃用の罠だった。


「っ!!!

《ダイナミック・マリオネット》!!!」


―――ズオォオオオォォォォオオオ!!


キュルルは魔物の群れに対し、こちらも漆黒の魔物の群れで対抗する!


しかし……足りない……!


数十体の魔物を一度に押し潰せる程の漆黒の魔物の群れでも―――

洞窟から溢れる魔物の群れを潰しきれずにいる―――!!


そして、仕留め損ねた魔物達が、キュルル本体とアリスリーチェへと迫った!


「くっ……!!

《エミッション・アクア》!!!」


―――バシュゥッッッ!!!


「「ウォオギアアアッッッ」」


アリスリーチェも高圧水流により、『ヘルハウンド』複数体をまとめて斬り裂くが―――


「「キシィィィヤァアアアア」」

―――どたっどたっどたっ!!


「ぐぅっ……!!

《エミッション・ウィンド》!」


やはり、圧倒的に手数が足りない……!

特に『ロック・リザード』は《エミッション・アクア》で切り裂くことは出来ない為、《エミッション・ウィンド》で小石を飛ばし、片目を撃ち抜き、動きを止めるので精一杯だった……!


連続で魔法を使用せざるを得ず、アリスリーチェはなけなしの『マジックポーション』を飲み干すのだった―――


「おい、アリスリーチェ!!

 お前はここから離れろ!!」

「なっ、何を―――!!」


「どう考えてもお前がここで戦い続けるのは無理だろ!!

 フィル達の元には僕が行くからお前は早く逃げろ!!」


そう言ってキュルルは再び《ダイナミック・マリオネット》を展開し、魔物の群れを押し潰し――

そして、今度はそのまま洞窟へ向かって駆けるのだった――!!


「ぐっ……!

 くぅっ……!!」


そのキュルルの姿をアリスリーチェは唇をかみしめて見送るしかなかった。


「きゅる!!

 フィルーーー!!」


そうして、キュルルが無理やり魔物の群れを押しのけ、洞窟への入口へと―――!!


―――ギィィィィン!!!!


「きゅるぅ―――!!!???」


入口に、駆けこむことは出来なかった……


洞窟の入口に張られた『見えない壁』が―――

キュルルを弾き飛ばしてしまったのだ―――


「な……!?

 なに!?なにこれぇっ!?」


「ま、まさか………『防御壁』……!?」


その様子を遠くから見ていたアリスリーチェが、今の現象の理由を看破する。


「っ!!オニキスさん!!

 わたくしをそこまで連れてください!!

 わたくしならばその『防御壁』を破れ―――きゃあッ!!」


「アリスリーチェ!!」


アリスリーチェがキュルルへと叫びかけている最中に『ハーピィ』からの強襲に見舞われる。

何とか《エミッション・アクア》で迎撃するも、もはや周りは魔物の群れで溢れかえっているような状況だった。


こんな状態で、アイツをこの入口まで――!?


何とかアリスリーチェの元まで魔物を迎撃しながら引き返しているキュルルは、アリスリーチェの言ったことを実行するのはあまりにも困難だと分かってしまう。


今でさえ、自分の身を守りながら移動するので精一杯なのだというのに―――!!


そして、アリスリーチェも―――

自分が言ったことが無茶だということが分かってしまう。



2人は、自分をの力不足を心の底から呪った。






ボクに、アリスリーチェのような力があれば―――!!!


わたくしに、オニキスさんのような力があれば―――!!!






「「あっ―――――――」」






2人は、同時に声をあげた――



―――ダンッッッ!!



そして―――

キュルルがアリスリーチェの隣へと、立った――



「「「「「ウォォォォォ…………!!!」」」」」

「「「「「キシャァァァ…………!!!」」」」」



もはや全方位を魔物の群れに囲まれた2人は――――



「………………」

「………………」



ほんの少しだけ沈黙し———



そして、語りかける。



「なぁ巻貝女」

「なんですの?ヘドロ魔王さん」


「ボクはお前のことが気に入らない」

「奇遇ですわね、わたくしもですわ」



「お前の手なんて、借りたくない」


「わたくし1人で、フィルとスリーチェを助けてさしあげたい」



「でも」


「けれど」



「ここで、フィル達を―――」


「あの2人を、死なせてしまったら―――」




「ボクは―――!!」


「わたくしは―――!!」




「「一生、自分を許せなくなってしまう!!」」




「それだけは――!!」


「絶対に嫌ですわ―――!!」




だって、あの少年は――――


そんな自分と、誓いを立ててくれたのだから―――



「だから―――!」


「だから―――!」



それ以上言葉は無かった。


2人は無言となり―――


そして―――




キュルルの身体の輪郭が、崩れていき―――




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「……………何だ!?

 ……………何が起きている!?」


スクトは、汗を流し狼狽していた。


「『防御壁』が……消えていくッ……!?」


スクトは自分が生成した『防御壁』の状態を常に把握することが出来る。

故に分かるのだ。


洞窟の入口と、通路内に設置した幾重もの『防御壁』が―――

次々に消失していくのが―――!!


「まさか……アリスリーチェさんか……!?

 彼女ならば『防御壁』を即座に解除することも……!

 いやしかし……この速さは……!?

 あの魔物の群れの中を、どうやって………!?」


「何をそんなに疑問に思うことがある?」


「―――っ!!」


薄い壁の向こう側からのコーディスの声に、スクトはバッ!とそちらを振りむく。


「君ももう知っているのだろう」


「っ…………!!!」


「この学園の生徒は………面白い子ばかりだと」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


―――ズゥン……!ズゥン……!


「フィル……………さん……!!」


「……………………………っ」


全身から汗を噴き出し、顔中を蒼白にさせた僕の姿は……

もはや誰が見ても死の一歩手前にいる者としか思えないだろう……


そして、後ろでかすれた声を出すスリーチェもまた、同じような状態に近かった……

副作用に苛まれる身体で爆発魔法を行使し続けて……!


もうこれ以上彼女に無理をさせる訳には……!


何とか立ち上がろうと、腕に力を込める僕は―――


あの『ゴーレム』の足音がしないことに気が付いた。


僕は、ゆっくりと前を見た。


『ゴーレム』は―――


既に、僕の目の前まで来ていた―――


そして、右手を振り上げて―――


「っ―――――!!」


早く、こちらも《ミートハンマー》を―――

だが、木剣の柄を握る腕が上がらない―――

この場から動くだけの力も、当然ない―――



ゴーレムの右手が僕に向かって、振り落とされる―――






その直前―――――――






――――バリィィィィィン!!!!





「「フィルーーーーーっ!!!!」」





まるで、ガラスでも破られるかのような甲高い音と―――


僕のよく知る2人の女の子の声が聞こえた。


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