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第28話 キュルルとアリスリーチェと『勇者』達


『居なく』なんて、させない―――


そう言い放ったキュルルは―――


―――ダンッッッッ!!!


脚にとてつもない力を込め、生徒達の頭上を飛び越えると――

頭の奥底に感じるフィルの場所へ目掛けて一直線に駆けだす――!!


だがその進路上には―――


炎を吐く、赤い竜がいたのだった―――


「お、おい待て!!

『デス・レッドドラゴン』の炎が―――!!」


ダクトが自分の頭の上を飛び越えていくキュルルに向かって焦りの声をあげる。

自身が生成している『氷の壁』の向こう側では、消火不可能の炎が巻き起こっている真っ只中なのだった。


だが、既に空中に飛び出している彼女に叫んだところでもはやどうしようもない。


故に、キュルルは当然のように―――


―――ボォオオッッッッ!!!


燃え盛る炎の中へと、飛び込んでしまった―――


そして、それを『デス・レッドドラゴン』も見ていた。


「ギギャァアッ……!」


その鳴き声が示す意味は『これで終わりだ』だろうか。


そのドラゴンが、今まで何度となく繰り返してきたこと

何度となく見て来た光景。


自分より大きいものだろうが、素早いものだろうが、硬いものだろうか、この炎に包まれた獲物が迎える末路。


それは、確実な死――――




「邪魔をおおおおおおおおおお!!!

 するなぁあああああああああああああ!!!」




『デス・レッドドラゴン』は―――


あり得ないモノを見た―――


それは自らの吐いた炎を身に纏わせたまま、こちらへと猛然と向かってくる―――


漆黒の魔物―――!!!



「《ダイナミック・マリオネットォオオオオ》!」



そして、その声と共に―――


―――ズオォオオオオオオオ!!!!


『炎に包まれた』漆黒の魔物の群れが現れ―――


「ギャギアァァァアアァッァア!!!」


『デス・レッドドラゴン』は、自らが吐いた炎にまみれながら、押しつぶされていった―――!



その光景を見ていた生徒達は思った。


まさに、『魔王』だと―――



「う……うううう…………!」


そうして『デス・レッドドラゴン』は破ったものの、キュルルは未だ絶対に消えぬ炎に包まれている。


このまま、燃え尽きるのを待つしかない――


誰もがそう思っていると―――


「きゅるああああああ!!!」


―――バチュッッッ!!!


キュルルは炎が燃え移っている身体の――その部位を丸ごと弾き飛ばした!


そして、その分失った身体を―――


―――グニュニュニュ……!


再生させたのだった――


「はぁー……!はぁー……!」


キュルルは―――かなりの消耗をしていた。

《ダイナミック・マリオネット》に加え、炎が燃え移った身体の大部分の部位を切除しての再生……

これだけでも相当な魔力を消費してしまうことは間違いない。


だが、それだけではなかった。

今キュルルはフィルの居場所の感知を行っている。

この作業は、キュルルにとってかなりの集中力を要するものだった。


1秒たりともフィルの居場所を見失わないように集中しているキュルルは、その他の行動に体力、魔力を普段以上に消費していたのだ。


そんな隙をつき―――


「「キシャァアアアア!!」」


「っ!!!」


『ハーピィ』の群れが、すかさず襲い掛かろうとする―――!!


だが―――


「《エミッション・アクア》!!」


―――バシュッッッッ!!


「「キギャァァアアアッッ!!!」」


放たれた一筋の水流が『ハーピィ』の群れを纏めて両断した!


「まったく、無茶をされますのね」

「お前……!」


キュルルの傍にはいつの間にかアリスリーチェがいた。


彼女はキュルルが『デス・レッドドラゴン』に突撃した時点で既に自身も動きだしていたのた。

ファーティラ達は自分達から焚きつけたこととはいえ、主が消火不可能の炎に近づいていく様を見るのは気が気でなかったことだろう……


キュルルはアリスリーチェに何か言いたげの目線を送るも、今は何も言わずにいた。

そして――


―――ゴポッ……


自らの体内に収納していた制服を身に着けた。


「いつの間にか制服を着ていなかったと思ったら、そんなことしていましたのね」

「フィルの所に少しでも早く行く為に……!

 コレを燃やされちゃう訳にはいかない……!」


だが、キュルルにとって制服以上に絶対に燃やされてはいけない物がある。

『デス・レッドドラゴン』の炎に包まれた時―――

何がなんでも焼失しないように、身体の奥深くに沈めた『それ』は―――


「フィルっ………!」


木剣の、剣身―――


キュルルは取り出した『それ』を首にかけた。


「今、行くからね!!」


そうして、キュルルは制服の左襟の模様を押し込み―――


―――キィン……!


モード《ブルー》へと切り替える。


更に―――


「フォルムチェンジ!!

『フェンリル』!!」


―――ギュニュニュ……!!


自らの姿を、巨大な狼へと変貌させる……!


そしてアリスリーチェへと振り向いた。


「アリスリーチェ!

 ついてくるのは勝手だけど、お前のスピードに合わせる気はないぞ!」

「ええ!承知の上でしてよ!

 むしろ――『エマージェンシー・モード』!」


アリスリーチェのその言葉と共に―――


―――ガチャガチャガチャッッッッ!


アリスリーチェの座っている『マジック・ウィルチェアー』の背もたれの後部が展開し———

円筒形のノズルが姿を現したのだった――!!


「案内役のアナタがわたくしより遅れたりしないようにしてくださいね!」


キュルルはアリスリーチェの言葉に「ふんっ!」と鼻息を鳴らす。


2人は、前を向く。


「行くぞ!!」

「ええ!!」


最後にアリスリーチェはダクトに――いや、この場の全ての者に向かって、叫んだ。


「わたくし達はフィル達の元へ向かいます!!

 ここは貴方達に―――この場の『勇者』達に任せますわ!!」


そして、2人は―――


―――ダッッッ!!!

―――ボゥッッ!!!


四肢を唸らせ―――

込められた魔力をノズルから噴射させ―――


この場から、駆け去っていったのだった―――



そして、この場の生徒達の胸には―――

最後のアリスリーチェの言葉が、響いていた―――



―――この場の『勇者』に任せますわ!!



そう、ここは勇者学園。


自分達は、『勇者』になる為に来たのだ。


決して、逃げ惑う為ではなく―――


「はぁあああああ!!!」


―――ピシャァアアアア!!!


「ギシャアァアアァァアア!!!」


生徒達の目に、魔物の群れに勇猛に立ち向かうファーティラ達の姿が映る。


その視線に気づいたファーティラがまるで挑発するかのように、言った。


「さあ、如何いたしますか!!

『勇者』様方!!!」


その言葉に、真っ先に反応したのは―――


「う、おおおおああああああああ!!!

《アイス・ボール》!!!」


先程、我先にと逃げ出そうとした生徒であった。


―――ビキィッッ!!

「グギッ!!??」


彼は魔法で生成した『氷球』により突撃してきていた『ロック・リザード』の身体の一部を凍らせ、その動きを封じた。


「俺だって……俺だって『勇者』になる為に来たんだああああああああ!!」


そして、その行動が切っ掛けとなり―――


「く、ああああああああああ!!!」

「『勇者』にっ……!

 『勇者』になるんだぁああああ!!!」

「負けて、られるかぁああああああ!!」


この場の全ての生徒が、決起した―――!!


「先生っ!!『デス・レッドドラゴン』の炎を防ぐの、俺達もやります!!」

「1人では到底無理でも、複数人で同時に『防御壁』を造れば耐えられるはずです!!」

「『ロック・リザード』討伐の時に、私達特訓してたんです!!」

「お、お前ら……!!」


生徒達の言葉にダクトは戸惑いの声を上げた。


こんな危険なことを任せるわけにはいかない。

自分達は、彼らは守る為に来たのだ。


そのはず、だった―――


しかし、彼らは――もはや『守られる者』ではない。


ダクトの長年の勘は、彼らを――『戦う者』として認めてしまっていた。


「っ……!

 いいか!絶対に無理をすんじゃねぇぞ!!

 危なくなったらすぐに呼べ!!

 それと、攻撃のことは考えるな!!

 防御だけに集中しろ!!いいな!!」

「「「はいっ!!」」」


そうして、ダクトは炎の防御を生徒達へと代わる。


魔力が枯渇寸前であったダクトは『マジックポーション』を飲み干し、改めて戦場を見渡した。


『デス・レッドドラゴン』の数が減ったことで、講師には僅かながら余裕が生まれた。

これなら魔物の群れへの対応も幾分楽になるだろう。


だがそれ以上に大きいのは……

ダクトが一番懸念していた生徒の錯乱による場の崩壊……

それはもう起きないだろうということだ。


勿論まだまだ状況は劣勢だ。

生徒達に犠牲が出ないとも限らない。


しかし、この場の『流れ』は……

もう変わらないと、ダクトはそう感じていた。


恐怖は恐怖を呼び、混乱は混乱を助長する……

そんな風に考えていたダクトだったが――


今は――勇気が勇気を呼んでいた。


ダクトは思い出す。

勇者アルミナの言葉を。



『勇者』とはその名の通り勇気を持つ者。

でも、それだけじゃない。

勇気を『与える』者でもあるんだ―――



「ああ、そうだよなぁ……!」


ダクトは、ぽつりと呟いた。


「ここは、『勇者学園』なんだよな……!」



そしてダクトは、コーディスからの交信に気が付くのであった―――


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