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第24話 コーディスと怒号


「なぁスクト。

 この子を……サニーちゃんを覚えているかい?

 君と一番仲が良かった子だよ」


「………………………………………」


スクトは、何も言わなかった。


「君は蛇が苦手だったらしくて、この子達には怯えてばかりだったね。

 噛みついたりしないから大丈夫だよ、と言っても中々近づこうとはしなかった。

 まぁ、時々寝ぼけて近くの物を思い切り締め付けてしまうことはあるけど」


「………………………………………」


やはりスクトは何も言わない。

わざとなのか天然なのかは分からないが、ツッコミ所もスルーしている。


「でも、この子達にも個性があって、サニーちゃんは辛い物が好物ということ知ったとき……

 君は『自分も同じだ』と言って、興味を持ってくれたね。」


「………………………………………」


「それから、君はサニーちゃんと仲良くなって、他の子達とも一緒に遊んでくれるようになって。

 皆に怯えていた頃が嘘のように、あっという間に馴染んでしまっていたね。

 私は軽く嫉妬してしまったものだよ」


「………………………………………」





「なぁスクト……………

『いつから』だ?」


「………………………………………」


スクトは、答えない。

その代わりに、逆に質問を投げかけた。


「コーディスさん。どうやって僕に近づいたんですか?

 誰もこの場所に来られないように大量の魔物達を配置させていたはずですけど。

 まぁ貴方ならば大した障害にはならないんでしょうけど、アレだけの魔物と交戦して僕が気が付かないはずないですよね?」


「………ここに来るまで魔物達とは一切戦うことはなかったよ」


「………?

 ああ、なるほど。

 バニラさんの隠匿魔法ですか。

 全くあのチームは逸材ばかりだ」


スクトの推測通り、コーディスはバニラの《プレゼンス・ハイド》によって魔物との戦闘を避けここまで来ていた。

そうでなければ見た目も戦闘方法も目立つことこの上ないコーディスがここまでバレずに近づくことは不可能だっただろう。


「でも、それ以上に疑問なのが……

 どうして僕がこの場所にいることが分かったんですか?

 スリーチェさんとフィル君がいる洞窟の森から、大分離れた所ですよ?ここ。

 僕の足跡を辿れる材料はないはずなんですけど」


「………プランティ君のおかげだよ」


質問に何も答えなかったスクトとは対照的にコーディスの方はすぐに答えていた。


「プランティさん……?

 彼女が一体……」


「君の右手に付いた土だよ」


「土……?」


スクトは右掌を凝視した。

確かにそこには、僅かに土が付着している。

掌の中央部に、ほんの僅かにだ。


これは……フードを纏っていた時……

彼女を吹き飛ばした後『土の槍』の攻撃を掴んで止めた時の……?


あの後やって来た自分の右手の土を見て、フードの人物とスクト=オルモーストが同一人物であることが分かったのか……?

だがこんな僅かな土、あの時に確認なんて出来るはずが……

それに、自分の場所が分かる理由にはならない………


と、そこまで考えて、スクトは彼女にある疑問を抱いていた事を思い出した。


彼女は何故、スリーチェの場所が分かったのか。

森の中にいること……そして洞窟の中に入っていったこと……


その時は、スリーチェだけを感知できる魔法かマジックアイテムでも使っているのかと推測したが……

本当の理由は……!


「彼女は……生成した粘土の位置を感知できるのか……!」


「そうだ、スリーチェ君はプランティ君の生成した粘土をお守りに入れていたらしい。

 外に出かける際には、必ず持っていくようにしているそうだ」


ローブの人物に付けたはずの土の反応がスクトからするのであれば、スクトがローブの人物であるということが分かる。

そして、その反応を追えばスクトが当初の森から離れた場所にいるということも、当然分かる……


「ということは………

 もしかして今回のカラクリ、もう全部バレちゃいましたか?」


「ああ、突然現れた魔物の群れ。

 ローブの存在だけでは説明できない早変わり。

 全てな」


「ああ~~……」とスクトは顔を覆った。


「やっぱ彼女は始末しておくべきだったかなぁ……

 直接僕と戦った彼女の口から貴方を呼んでもらった方がより危機感が煽れて効果的かと思ったけど……

 完全に裏目ったなぁ……

 マジであのチームは嫌になるぐらい逸材ばっかりだ……」


「私としては未だに信じ難いのだがね。

 一体いつの間に覚えたんだい」


コーディスはスクトを見据え、言った。


「空間跳躍魔法なんて」


それこそが、今回の事件を引き起こす為の鍵だった。


何の前触れもなく突然この『グリーンエリア』に魔物が溢れ出たのも、この魔法によるもの。

おそらく、エリアの各所に空間跳躍の『門』が設置されており、そこから魔物を送り込んでいたのだろう。


スクトが『コッカトリス』がいた場所からスリーチェ達の前に現れることも、それなら当然可能だ。

つまり、あの時スリーチェ達の前に現れたスクトは本物だったのだ。

そしてプランティを引き離し、スリーチェを森の手前まで連れていき、スクトは森へ入りフードを纏いプランティへと姿を変える。

スリーチェにバレないように空間跳躍で森から出たスクトはスリーチェを連れ森へと入り、スクトを探すという名目で探知魔法を使わせることで、アリスリーチェの魔力を放つローブを感知させ、洞窟へとおびき寄せる……


そしてプランティとの戦闘の後のこと……

スクトが言っていた通り、プランティをコーディスを呼び寄せるために利用しようし、トドメは刺さずに洞窟へと消えた。

その後洞窟から空間跳躍でプランティの後ろへと移動し、まるでたった今駆けつけたかのように振る舞う……


だが、その行動が全てを露見させる決め手となった。

フードの人物に付着させた土の反応を感知し続けていたプランティは驚愕したことだろう。

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そして、やって来たスクトと……

その右手に付いていた土の反応で………

彼女は今回の事態の全容を把握したのだった……


「プランティ君からこの事態の首謀者が君だと告げられた時は……

 正直とても信じられなかったよ」


スクトはそのコーディスの言葉にピクリと反応すると、顔を覆っていた手をどけた。


そして―――嘲るような笑いを浮かべた。


「はっ……

 冗談よしてくださいよ。

 そんな訳ないでしょう。

 だったらなんで貴方はここにいるんですか?」


「………あれだけの傷を負った彼女の言葉を全て嘘だと断じることは―――」


「違うでしょう?

 貴方はプランティさんの話を聞き、何の疑問も浮かべずにそれを信じた。

 今の状況を矛盾なく説明出来ており、疑う要素は何一つない。

 そうでしょう?コーディスさん」


「………………………………………」


「貴方はその蛇達のこと以外、誰も信頼していない。

 共に戦った仲間がこんな事態を引き起こしていようが、どうでもいい。

 だから貴方はここにいる」


「………………………………………」


コーディスは……打って変わって、何も喋らなくなった。


「もういいでしょう、くだらないお喋りは。

 本来の計画では貴方を洞窟へ誘い込んで、あの『ゴーレム』で始末する算段でしたけど……

 こうなってはもう仕方ありませんね」


スクトは……ゆっくりと両腕を左右へ広げた。


「《ローバスト・ウォール》」


その『魔法名』を唱えた瞬間……スクトの周囲に6枚の『刃』が展開された。


否……それは正確には『刃』ではなかった。


「空間跳躍魔法もだが……

『それ』にも驚いているよ。

 まさか君の魔法にそんな使い道があったとはね」


それは……『防御壁』だったのだ。


「中等魔法程度の威力ならば決して破られることのない強靭な『防御壁』を生み出す防御魔法、《ローバスト・ウォール》

 私達もそれに幾度となく助けられてきたものだが……

 強度を保ったまま極限まで薄く生成することで『刃』として扱える、と言った所かな……?

 おまけに自由自在に、驚異的な速さで動かせる……」


「………………………………………」


「私達と共に戦っていた頃には、そんな使用法は見たことがなかった。

 あの頃から既に出来ていたが隠していたのか……

 それとも………」


「………………………………………」


「なぁスクト…………

 君のその力は…………

 本当に君だけの―――」


「いけ」


―――ビュオッッッ!!!


コーディスが言い切るのを待たず、スクトは両腕を前方へと突き出し『刃』を凄まじいスピードで伸ばした。

高速で飛来する6枚の『刃』がコーディスを襲う。


―――ボッッッ!!!


瞬間―――コーディスの姿が消え、『刃』は虚空を舞った。

コーディスが直前まで立っていた地面には、何かが猛スピードで衝突したかのような跡が残っている。


スクトは視線を素早く右へと移す。

そこには『刃』を避けたコーディスがいた。


コーディスの力で避けたのではない。

彼の腕に巻き付いている赤色の蛇がその身体で地面を叩き、横へ飛んだのだった。


そして、『刃』を避けたのとほぼ同時のタイミングで―――


―――ボッッッッ!!


緑色の蛇がその身体を大きくスイングさせ、地面を抉り―――


「―――――っ」

―――ズバァッ!!


猛スピードの石礫をスクトへと浴びせかけた……!


コーディスのあずかり知らぬことであるが、フィルが洞窟内で『ヘルハウンド』の群れに対して行った攻撃と同じであった。

その威力もまた、フィルの時に劣らない。


『ヘルハウンド』であれば、全身に穴が空き絶命するであろう石の雨を受けたスクトは―――



「………なんですか?それ」



平然と、その場に立ち続けていた。

全くの無傷……それどころか服にさえ穴は空いていない。


「そんなので僕を倒せると思っているんなら、心外なんてもんじゃないんですど」


「………流石にそこまで甘い見通しは立てていないよ。

 ただ………擦り傷くらいは付くものと思っていたのだけどね」


コーディスはスクトを訝しげに見つめた。


「《プロテクション・ダーミス》か」


「ああ、覚えていましたか」


それはスクトの身体と服の周囲を覆うように展開されている防御魔法。

その厚さはほんの薄皮一枚程度。

それでいて並の攻撃くらいなら完全に防ぎきる性能を持っていた。


そう……『並の攻撃ぐらい』なら、である。


「…………プランティ君の粘土の圧縮もそれで耐えたのかい?」


「ええ。

 何か疑問でも?」


パンパンと服についた土埃を払いながらスクトはあっけらかんと答えた。


「…………彼女が全力で魔力を込めて粘土を圧縮させれば、オリハルコンでさえ僅かではあるが変形させることが出来るらしい」


「へぇ、それは凄い」


スクトはまるで興味が無さそうであった。


「………断言できる。

 その防御魔法でプランティ君の攻撃を耐えることは出来ない。

 ましてや攻撃に転用することなど」


「…………………………………」


スクトはプランティの粘土に捕らわれた際、纏っていた《プロテクション・ダーミス》を急速に膨張させることにより、粘土を押しのけプランティの身体をも吹き飛ばした。


しかし、そんなことは出来るはずがないとコーディスは言う。


「空間跳躍魔法、『刃』と化す《ローバスト・ウォール》、あり得ない強度の《プロテクション・ダーミス》………

 スクト、君は一体どうやってその力を手に入れた?」


「……………………………………」


「さっきまで会話をしていたここにはいない『誰か』……

 それが関係しているのか?」


「……………………………………」


スクトは、先程のように何も言わなくなった。



「答えてもらうぞ………スクト!!」



普段の彼の姿からは想像も出来ない程の怒号が放たれた――


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