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魔女を信用してはならない③

 

 異質な応接間に身を竦ませて、隣に座るソフィアの腕にフィアは抱きついていた。気持ちの悪さも然ることながら、あの男の魔力が異様に威圧してくる空間なのだ。人間のフィアなど一捻りだろう。アリアを思えば、現実的に命の危険を覚えてしまう。


「ソフィア、……ディケ、こんなことにされたりしない?」


 変なキメラばかりいる。役に立つのかと言われると、どうだろう、というような。なんだろう、子ども部屋の『好き』がたくさん並べられただけのような、自己完結で、自己満足な……コレクションという言葉がぴったりな。

 そう言えば、アリアもコレクションと言っていた気がする。


「『役に立つ』と言う考えはあいつらにないからね」

 先の質問には答えなかったくせに、心の中の言葉には返事をされた。しかし、ディケはきっと大丈夫、という意味なのだ。それに、ソフィアはコレクションという類いの物は持っていなかった。

 役に立つだろう薬はたくさんあったし、薬草はたくさんあったけど。


「そのお茶は飲まないのか?」

「うん、変なにおいしかしない。あの人を考えれば、飲まない方が良いと思う」


 例えば、このお茶がソフィアに出された物であったり、ヒルダに出された物だったら、鼻を摘まんでも飲んでいただろうけど、どうしても、この物体に危険しか見いだせなかったのだ。

 そんなフィアに、ソフィアはにやりとした微笑みだけを返した。


 キュウ、と言うディケの寂しそうな声が扉の外に聞こえたと思ったら、その扉が開かれた。

 アレックスに連れられたディケ。

「ディケっ」

「キュウ」

 フィアに呼ばれたディケが切なそうに声を出して、フィアの足元に走り寄ってきた。


「お腹減ったよね」

「すっかり手懐けてるな」

「手懐けた覚えはないんだけど」


 そう言いながら、フィアはコォノミをぽろぽろと自分のスカートの上に落とし始めた。『水』そのものがなくても、フィアはコォノミくらいなら出せるようになっている。

 ポリポリという音がすぐさま聞こえてきて、ディケの頭を撫でるフィアはとても嬉しそうだった。


 そして、遅れて応接間に入ってきたアレックスが、ソフィアの前に座り「気に入りませんでしたか?」とフィアの前にある手つかずの飲み物を見つめて、笑った。

「私の弟子よ。こんなのに引っかかるわけないでしょう?」


 その言葉にフィアがソフィアを見上げた。弟子という言葉がフィアの中で、どんどん広がっていくのが分かった。

 お荷物じゃないの? 私が勝手にくっついてくるだけの。

「これは、失礼しました。立派なお弟子さんをお持ちで喜ばしい限りです」

 どこか楽しそうな声を出したアレックスは、そのままディケの様子に視線を向ける。


「白き乙女……いや彼女は確かに君の言う竜の巫女だ。確かに面白いものは見せていただきましたよ」

「じゃあ、協力してくれるね。あと、この子へのご褒美で、その仔竜を預かってほしい」

 ソフィアが勝ち誇ったように笑うと、アレックスも楽しそうに答えた。


「もちろんだよ。まだまだ楽しめそうだ。ディケも預かりますよ」

 不思議そうにフィアが首を傾げるが、ディケを預かってくれるらしい。ソフィアが言うのだからと、フィアは素直に頭を下げた。

「ありがとうございます。ディケをよろしくお願いします」


 それから、ソフィアが補足するようにフィアに説明を続けてくれた。

 ディケが造られた竜だということはアリアから聞かされていた。そして、どうして彼らがディケを探していたのかは、今ソフィアから教えてもらっている。


 人工竜は小さく生まれて、成長が早い。

 あの骨抜きふたりもそんな任務を持っていたのだろう。しかし、途中で落としたか、逃げられてしまったのか。おそらく、本当はもう少し町に近い場所で成長させたかったのだろう。あの場所は町へ行くとしても距離がある。飛んで行く時点で見つけられる可能性が高い。

 竜を討伐する白き乙女の存在がヒェスネビをほんの少し慌てさせていたのかもしれない。


 そして、成長が急激に起きるということは、それだけ急激な空腹に陥るということだ。そこで、人に慣れやすい、餌付けされた経験を持つ、人に餌を求めるという構造が出来上がるのだ。


 酷いと思った。アリアが魔女会の倫理委員会にかけるといった理由も分かった。もちろん、アリアのそれとソフィアのそれ、フィアのそれは違うのだろうけど。そもそも、ソフィアは竜を人間の武器として使うということに怒りがあったのかもしれない。

 だけど、ソフィアの怒りというものが、アリアやアレックスとは違う、フィアと同じだとは信じたかった。


「ただ腹が立つ。それだけだ。私は魔女で人間じゃない。こいつらと別だなんて考えないこと」

 フィアは、だけど……と続ける。

「フィアは誰かのために生きる道がある人間だ」

 ソフィアはだから……と緑の瞳をフィアに向けた。

「だから、アンタにも使い魔としての名をあげるわ」


 そう、魔女なんて信用してはならない。


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