使い魔の気持ち②
宿の手配をすると、案の定、獣と一緒じゃ納屋くらいしか貸せないと言われ、適当に町を回った後に、アリアを置いてきた場所へ戻った。
いなくなっていた。
しかし、アリアならフィアを見つけることは簡単だろう。その時もやっぱりそう思った。だけど、納屋に戻って荷物の整理をし始めると、なんとなくその手が進まないことに気が付いた。
でも、実際は、私の方が小さいわけだし……。アリアの方が大人なわけだし。フィアの頭の中はグルグル回る。
グルグル回って、オズを思い出した。オズもあんまり謝らなかったなぁ、と。
ベルは、……。そもそも王子様だから、失礼な奴だったけど、勝手で偉そうでいいんだし。お城に来てからは「かわいくない」とはよく言われたけれど。たぶん、本当にベルの方がかわいい顔だったもの。それに、幼いころの可愛さは、あの頃にはもうなかったと思う。今ではそう思える。
だけど、あの人たちの考えていることは、いつもよく分からなかった。いつもフィアは彼らよりも幼くて、いつもよく分からないまま過ぎていく。
今も……分からないままだ。ベルは生きている。オズは分からない。
きっと、ベルナンド王太子が戦死となれば、どこにいても聞こえてくるはずだから。
だけど、一介の兵士のオズワルトが戦死でも、フィアまで聞こえてはこないかもしれない。リリカのお守りは、単なるお守りだから。フィアの魔力を込めてしまうと竜に狙われやすくなるかもしれないから。硬いだけの、溶けないだけの、単なる氷。
膝の上で眠っているのはポチだった。上下するお腹は生きている証拠。
そもそもポチの考えは読まなくても、なんとなく分かってしまうし、ソフィアもフィアが小さい頃はなんとなく読まれている気はしていたが、知りたいの指標が違っていた。
ソフィアがフィアの考えを知りたい時は、ソフィア自身のことに限っていた。
今、この子は自分のことをどう思っているのだろう、というような。
それだってフィアが魔法を覚えるようになった十歳の頃から少なくなってきていたはずなのだ。
そして、ポチを抱きしめ、ディケにもたれた。
温かさに挟まれる。ディケの表面は冷たいが、その中身は温かい。こうやっていると、じんわりと温かくなってくる。ふかふかなベッドはないけれど、居心地は良い。
雨風が凌げるところにいるだけで、十分に落ち着いて眠っていられる神経ではあるけれど。この子たちは無神経ではないと思う。
どうしてあんなに無神経なんだろう。
大きく息を吐き出すと、さっきのアリアの言葉が思い出された。
フィアが尋ねたかったことを全部言い当てていた。落ち着いてくると、恐ろしいような、素直にすごいと思うような、変な気持ちになってきた。興味を持ってくれているということは分かった。じゃあ、どこに興味を持ってくれているのだろうか。
話しかけた時にとても嬉しそうだった。
やっぱり私が謝るべきなのかしら……。
あ、雨の音……。
フィアは納屋の扉からひょこっと顔を出した。まだ小雨ではあるが、アリアが帰ってきていない。
「アリア」
名前を呼んでみたその声は、雨の中に小さく響くだけ。
「ごめん、ポチ。ディケと一緒に待ってて。アリア探してこなくちゃ」
小さな女の子でも猫でも、無神経な魔女でも。
フィアと一緒にいると言ってくれる大切なひとりだ。