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「偉大なソフィアはちっぽけなフィア」 ~白き乙女と言われたとある少女の物語  作者: 瑞月風花
第三章『竜の被害と白き乙女』

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使い魔の気持ち①

 

 なぜだか一緒にいる仲間のようなものが、一気に増えた。

 フィアはどことなくどんよりとした気持ちで、道を歩み続けていた。天気はいいのに、なんだかその日差しすら、フィアをじわじわ焼き尽くしていくような、そんな感覚にも思えた。


 結論として、フィアは魔女会への出席は認められないということだった。理由はいくら国指定魔法使いだからといって、通行証を持たない者を軽々しく入れるわけにはいかないということだ。

 アリアの雰囲気からは想像もできない、しごくまっとうな意見だ。

 そして、行きたくないという思いも深まった。


「あなた、自分の手や足が頭から生えた時、自分で治せる?」

 無理に決まっている。まず、想像すらできなかったのだもの。そして、そんなことが日常茶飯事である世界は、申し訳ないけれど、関わりたくない。

 ソフィアもいないそうだし。その後始末をしていた委員長と副委員長は、竜が人に狩られ始めたことで、雲隠れしているらしいし。


「ソフィアがいれば、重しになってたかもって思うと、一言三言……やっぱり殴ってやろうかと思っていたの」

 言葉のずれを感じつつ、その可愛らしい声を聞いていると、愛情の方向は確実に間違っている彼女に、怖さよりも可愛さが勝ってくるのだ。

 魔女おそるべし。

 幻術以外にも魅了か何かがあるのだろうか……。相手の魔力が桁違い過ぎて全く分からない。


 フィアはアリアを見ながら、意識的に言葉を胸に刻んでおく。そうやって、自分のイメージを縛っておかないと、流されそうなのだ。

 そう、流されると魔力酔いを起こして、ベルナンドのように酩酊状態になる。

 ソフィアが魔女らしかった分、この警戒を解いてくるというアリアは、ほんとうに恐ろしい存在に思えるのは確かだった。あの時フィアを助けてくれたのが、ソフィアで良かったとすら思えてくる。

 あんなに怒ってばかりのソフィアだったが、信頼できる人物だった。


 そして、魔女と魔法使いの違いは、契約魔がいるかどうか。

 アリアに言わせれば単にそれくらいしか変わらないらしい。そして、契約している『魔』の物の寿命に魔女の寿命は左右される。

「人間がよく言う、魂を売ったって奴ね。負け惜しみにしか聞こえないけど」

 もちろん、長命種を契約させるには膨大な魔力が必要だから、基本、魔法使いの上位に当たるのが魔女だと思っていてもいいそうだ。

「まぁ、フィアなら低位魔としか契約できない魔女くらい普通に追い越しているわね。だから、フィアなら多少は信念って捉えてあげられるかも」


 そんな風に気楽に言うアリアは、今、とりあえず『ディケ』と呼ぶことにした竜の仔、もとい、大型犬の背中に乗っていた。

 さすがに竜は目立つからと、アリアが得意の幻術でディケを犬にしたのだ。

 さらには、アリアが黒猫。

 もう、ポチを隠す必要もないかという理由で、ポチも一緒に歩いている。

 だから、ほんとうに『フィアとゆかいな仲間たち』という状態になっていた。アリアは、きっとにゃーにゃ―鳴いているのだろう。だから、過ぎ行く人たちが必ず視線をくれる。子どもづれは必ず手を振ってくれる。


「こんにちは」

 フィアに挨拶して、必ずほほえましそうにアリアを見るのは別にいいのだけど。猫が歌ってるくらいに思ってくれるのも、全然いいのだけど。

「こんにちは……」

「挨拶は大きな声でするものよ」

 なぜかフィアにだけは猫耳の女の子が見えていて、彼女の言葉は人の言葉に翻訳されて聞こえてくるのだ。もしかしたら、魔力持ちの骨抜きさんたちでさえ恐ろしい悪魔に見えていたのかもしれない。いくら先手必勝でも、あんなに急に攻撃するなんて……。

 フィアはおそらく今は彼女の家の壁にいるだろうふたりを思い浮かべた。


 自分で術が解ければ逃げられるらしく、魔女の何名かには婚約を破棄され、逃げられたと言っていた。逃げた者には興味がないらしい。だけど、きっと頭に手足の状況と同じで、彼らには無理なのだろう。

 フィアにも、自分の体に一切の骨がないのに生きているなんて、想像できない。想像できない状態は、もはや死んでいると考えていい。


 手を振りながら、すれ違う人々はきっと、フィアたちのことを大道芸人くらいに思っているのだろう。アリアによって、フィアの静かな旅は終止符が打たれた結果だ。このまま町や村に滞在となれば、何か芸を期待されるのではないか、という不安すらフィアにはある。

 しかも、その大道芸依頼をどう断ればいいのかも分からない。

 フィアの未来には、もうふかふかのベッドはないのかもしれない。きっと、良くて納屋に案内されるのだ。


「あ、で、どこまで話したかしら?」

「私が追い越しているというところまでです」

 まぁ、上機嫌でしゃべっている限り、命の保証は大丈夫なのだろう。

 今向かっている町には白き乙女は現れたのだろうか。ソフィアはいたのだろうか。

 髪色は違うし、緑の瞳をしていたという共通点しかないのだが、ソフィアは陽光の魔力の持ち主である。もしかしたら、同一と考えてもいいのではないだろうか。


 現実を考え始めたフィアは、さらに次の町で何を売って、何を買うべきかを頭に描き始めた。

 陽鉱石なら高く売れるのだけれど、コォノミは自然発生率が高いのと、やはり元が氷なので、陽鉱石の廉価版という根強い意識で安く買い叩かれるのだ。確かに天然のコォノミは硬度が低い。

 フィアの作るコォノミも、あのリリカを入れたもの以外はそんなに硬度を高めていない。あれは、お守りだから、緻密に編んだのだ。ポチとディケの食べ物だったら、廉価版で十分だ。


 食費はアリアの分くらいなのだろうが、薬草などももう一度そろえておきたい。

 薬草を乾燥させようと思うと、道中でとはいかないものなのだ。一度、鞄にぶら下げて乾燥させようとして失敗しているフィアは、そこは慎重に考えてしまう。

 そろそろ町の入り口に着きそうだ。川の近くにある町だから、きっと魚もあるのだろう。みりん干しみたいなのだったら、しばらく持って歩けるかしら……。


 干し肉と、乾燥果物。水の補充も念のためしておくべきだろう。あと、野菜なんかも食べられると嬉しい。ぜいたくを言えば、お昼くらい長期保存の食べ物で済ますのではなくて、温かい作り立ての何かを食べたい。

 そう、ふかふかベッドは諦めたとして。野営の日々を甘んじて受け入れたとして。


 そう思ってフィアはポチとディケを眺めた。意外と仲が良さそうにしている。

 そういえば、どうしてポチは私に懐いたのだろう。

 どうして、ディケは私のところへやってきたのだろう。そもそも、竜は子育てをするものだ。孵化直前は、卵から離れないとも聞くくらいに子どもを大切に育てる生き物。


「訊いてもいいですか?」

 完全に町に入るまでに聞いておこうと、フィアが口を開くとアリアが子どもっぽくにぱっと笑った。

「やっとしゃべった」

 話の途中で話しかけられたということに、腹を立てることもなくアリアは嬉しそうに、とんでもないことを言い出したのだ。

「何を訊きたいの? お昼ご飯のこと? 竜のこと? ふかふかベッドのこと? 白き乙女のこと?」

「聞いてたんですかっ?」

「もちろんよ。だって、興味のある者のことを知ろうとするのって、当然じゃない?」

 悪びれもせずにいるアリアを前に、フィアが無の境地に至ったのは当然の流れだった。


「なによ。なによ。どうして閉じちゃうの? 分かんないじゃないっ」

 そして、アリアはとにかく信じられないことを当たり前のように言い放った。

「だって、ソフィアの使い魔のフィアでしょう? 別にいいじゃない? 使い魔なんだから」

「使い魔じゃありません」


 そもそも、そういう形にはなってしまっているかもしれないけれど、ポチとフィアの形とソフィアとフィアの形は全然違っている。さらに言えば、彼女の言う使い魔は、フィアの感覚のものでは全くない。

 多分アリアのそれは支配と従属の関係。フィアはポチの命を握っているが、そんな風に言われたくない。

「使い魔じゃありませんし、ソフィアは四六時中、私の考えを読んだりしませんでしたし、私もポチの考えを読んだことはありません」


 そう言って、アリアを無視してしまったのは、さすがに大人気なかったようにも思える。だから、機嫌が悪くなったアリアは、町の入り口に向かうフィアについて来ず、あっかんべをして立ち止まったままだったのだ。

 アリアはそう簡単に死ぬものじゃないし、こんな場所でいきなり”プロポーズ”をする人間もいないだろうと放っておいた。


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