王城にて(報告)
バルジャミンは、三年前のソフィアの言葉を考えていた。
「竜のことは私が調べる。あんたは、人間を探ってほしい。こんな訳の分からないことは、魔女のすることじゃない」
魔女は竜を操ろうとなんてしない。なぜなら、そんなことをしても面白くないからだ。結果が分かってることに対して、興味を持つことなんて、ない。
ソフィアの理論上、竜が暴走しているのは人間が関係しているということだった。
「念のため気になる魔女も調べてあげるわ」
そして、『竜の民』というものを教えてくれた。
かつて、この世界の絶対賢者として存在した竜を操ることのできた者たちだ。その中に特別な力を持つものがいた。それが『竜の巫女』だった。
竜の巫女の願いを受けた竜は、その巫女を贄として、その国に力を貸したのだ。戦に使われでもすれば、竜を持っているかどうかで勝敗が決まったことだろう。
だから、竜の巫女の願いは高額で取引きされていたという。
今はない、そんな遠き昔の、そんな存在。
竜の巫女がいた集落は、いつの世にか消え去っている。人間に滅ぼされたと、ソフィアは言っていたが、そんな集落はその存在すら史実にない。
そして、その竜の巫女の子孫がベルナンドの母なのではないかと言うのだ。確かに、それはあの気味の悪いアレックスという男の言葉『収納庫』とも一致する。
『収納庫』に入れられる者が竜の巫女であるのなら、消化されない収納庫がいい。事実確認という点で言えば、幸か不幸か、中身は空っぽだったので、確かめる術はない。
ベルナンドの母は町人出身だった。だけど、巫女などとは程遠い、靴職人の娘だ。
バルジャミンは、そこでため息をついた。しかし、思い当たることは確かにあるのだ。彼女の死は、異常だった。護衛の死体は明らかに魔物が食いちぎった後があった。それなのに、その魔物も、彼女の姿も何も残っていない。
ベルナンドが『竜が……』と呟いたことからも、魔物から守ってほしいと願った彼女の結果だったのかもしれない。さらに、あの時のベルナンドの状態だ。
何を言っても聞こえない。何を見ても見えていない。ただ、「助けなくちゃ」「僕をあげるから」と、まるでうわ言のように呟き続ける。丸二日、彼はそんな状態を繰り返し、三日後、二日間の記憶もなく「オズは? フィアは?」と突然叫んだのだ。
ソフィアの言う通りなら、今の竜の暴走状態は、人間が竜の巫女を使って何かを成そうとしている、になる。
竜に国を襲わせているになってしまう。人間の企んだ結果であるのならば、魔法使いの問題ではなく、国の問題である。調査の方法が変わってくる。どれだけの人間がいなくなり、どれだけの人間が竜の巫女として、その贄の役を果たしたのか。ベルナンドのあの状態を思い出すだけでも、許せるものではなかった。
詳細はまだ分からないが、だから、竜に対して過剰反応を示すベルナンドとフィアは、外には出せないのだ。
そう、竜が村を襲い続けている今、彼らの安全を考えるのならば、どこよりも結界が強いここにいるべきだ。
いくら、保護という名の『軟禁』であれ。
家令が走って来るのが分かった。
「陛下、ご報告を」
彼は執務室の外でバルジャミンの言葉を待つ。
「入れ」
深くお辞儀をした家令によって調査していたことが読み上げられる。
ソフィアが言った言葉の背景。
国と国の摩擦の中に生じた不利益の結果。故意に造られた空腹の竜たち。
陽鉱石とヒェスネビ。そして、ティリカとの関係。
人さらいの現実。