エピローグ
【プレイヤー】
デスゲーム2回目 :仏井正蔵(部長)
コロナ禍アジア留学:安治篤史(新人)
ペーパードライバー:静道走吾(新人)
ベテラン委員長 :引鳥はじめ(新人)
【ルール】
①0~4の中から好きな整数を1つ選ぶ
何を選んだかは他のプレイヤーには秘密にする
②選んだ数字の分だけ同時に列を移動する
③ ①②を繰り返し、折り返し地点を経由して
一番早くスタートに戻ってきた人が勝利
ただし、
④移動する際、使用済みの椅子は撤去される
⑤移動先の椅子が足りなければ「ドボン」
その列の椅子はすべて撤去される
⑥3回ドボンした人はその時点で脱落
⑦3人脱落した時点で残り1名が勝利
⑧全員脱落した場合はゴールに一番近い人が勝利
⑨同着ゴールの場合はドボン数が少ない人が勝利
⑩折り返し地点には必ず止まる
⑪プレイヤーは後ろを見てはならない
=======================
その後の展開は、一言で説明するなら消化試合であった。
仏井・安治が脱落し、静道は自爆して最後尾へと順位を落としている状況。そして、それまで1度もドボンしていなかった引鳥は8ターン目、順当にゴールへと歩を進めた。
引鳥は初めてのドボンを耐え、見事勝利したのであった。
その後の勝者インタビューで、引鳥はこう語った。
「楽しかったのでまたやりたいですね」
と。
ちなみにペーパードライバー静道は3度目のドボンにより脱落した。
=======================
8ターン目終了時点(観客視点)
※□:残りの椅子
(名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)
【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)
スタート:(仏井0)(安治0)(静道0)(引鳥0)
【仏井7】【安治7】【引鳥8】
1列目 :(仏井6)(安治6)
2列目 :(引鳥1)(引鳥7)【静道8】
3列目 :(静道1)□
4列目 :(仏井1)(安治1)
5列目 :(静道2)【仏井5】【安治5】
6列目 :(引鳥2)(引鳥6)【静道7】
7列目 : □□
8列目 :(仏井2)(安治2)
9列目 :(静道3)(引鳥3)【仏井4】【安治4】
10列目 :(引鳥5)(静道6)
11列目 : □□
折り返し:(仏井3)(安治3)(静道4)(引鳥4)
【静道5】
=======================
後日。会社にて。
「あ、源さん、新歓ではお疲れさまでした」
源へと声をかける人物がいた。
その人物は、新人歓迎会の幹事メンバーの1人であった。
50人規模の飲み会を1人で準備するのは負担が大きい。ゆえに複数の社員で役割分担していたのである。声をかけた人物はそのリーダーであり、源はイベント担当であった。
「ああ、お疲れ様。何とかいい感じに盛り上がってよかったよね」
「源さんのイベント大成功でしたもんね」
「どっちかと言えば先頭の2人が有利だったからね。引鳥君が逆転したのはアツかったね」
お互いに当時を振り返り談笑する2人。
デスゲーム風イベントは無事終了した。
とは言え源にも反省点が無いわけではない。
今回のゲームのテーマは「久しぶりのリアル開催」。前回のようなオンライン開催ではできないゲームを目指し、源はルールを考案していた。
プレイヤーがフィールドを移動するタイプの、
でも体力勝負にはならないように、
対等な条件で、
逆転勝ちも狙えるような、
フィールドを俯瞰できないからこその、
そんなルールを。
ちなみに原型はほとんど残ってないが、元ネタを上げるとすれば以下の2つとなる。
・1から100の中から一番大きい数字を選んだ奴が勝ち。ただし数字が被った奴以外で。
という入社試験。
・一列に並び後ろを見る事を禁止された囚人が、自分の帽子が赤か白か言い当てられるか。
という論理クイズ。
それを椅子を使ったレースに魔改造したのが今回のゲーム「椅子取りダービー」なのである。
反省点は、ゲームが難しくなりすぎた事。
特にゴール時に必ずドボンするという部分。源は1人くらい引っかかってくれれば御の字と思っていたが、引っかかったのはまさかの2人。さすがに多い。
もし次またデスゲームを企画する時があればもっとシンプルなルールにしよう、そう源は心にとどめた。
もっとも、もう源がデスゲームを開催することは無いだろうが。
「とはいえ驚きましたよ。源さんがイベントの案を売り込んできた時は」
正直助かりましたけど、と後にそう続ける幹事リーダー。
彼らの会社にはレクリェーション委員という役職がある。今回の飲み会のような行事の幹事を担当する役だ。各課で1人ずつ、入社数年目の若手から選出される。
そして実は、源はレク委員ではなかった。前回はその任期中だったため幹事権限でデスゲームを開催したが、今回は勝手に企画してイベント担当に立候補したのである。
「そこはほら、ヘルプの要請がメールで来てたじゃん」
レク委員でない源がそのような事をしたのには一応、大義名分がある。
50人規模での、久しぶりのリアルでの飲み会。しかし現役のレク委員はコロナ禍以降に入社した世代。当然、リアル開催のノウハウなど持ち合わせていない。
ゆえに今回に限り、数年前までの元レク委員に手伝いの要請が出ていたのである。その中には源も含まれていた。
「レク委員じゃなくなったからもうデスゲーム出来ないって諦めてたんだけど、あのメール見て、これが最後のチャンスだって思ってね」
「どこから来るんですかその熱意」
「だって面白かったでしょ? フィクションじゃない頭脳戦」
「それはまあ、はい」
「それに、俺には野望があるんだよね」
「野望ですか?」
「うん、野望。今回のデスゲームはね、始まりに過ぎないんだよ」
「良く分からないんですけど……」
「レク委員って若手から選ばれるだろ? 順当に行けば、来年は今年の新人が選ばれるんだよね。来年また新歓をやるってなった時、彼らは何を参考にすると思う?」
「――!? まさか……!」
「そう。今回のデスゲームが参考にされるんだよ。なんせ入社一発目の飲み会なんだ。今回の新歓が彼らにとっての普通になるなんだよ。そして来年の新人もまたデスゲームをさせられてそれが普通と思い込む」
「う、うわぁ……」
源の野望、それは――
「俺はね、飲み会でのデスゲームをうちの部署の恒例イベントにしたいんだ」
-完-
最後までお読みいただきありがとうございました。
飲み会デスゲーム第3弾に作者と共にご期待ください。
評価・感想お待ちしております。