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7/8

7ターン目:壊走

【プレイヤー】

 デスゲーム2回目 :仏井正蔵(部長)

 コロナ禍アジア留学:安治篤史(新人)

 ペーパードライバー:静道走吾(新人)

 ベテラン委員長  :引鳥はじめ(新人)



【ルール】


①0~4の中から好きな整数を1つ選ぶ

 何を選んだかは他のプレイヤーには秘密にする


②選んだ数字の分だけ同時に列を移動する


③ ①②を繰り返し、折り返し地点を経由して

 一番早くスタート(ゴール)に戻ってきた人が勝利


ただし、


④移動する際、使用済みの椅子は撤去される


⑤移動先の椅子が足りなければ「ドボン」

 その列の椅子はすべて撤去される


⑥3回ドボンした人はその時点で脱落


⑦3人脱落した時点で残り1名が勝利


⑧全員脱落した場合はゴールに一番近い人が勝利


⑨同着ゴールの場合はドボン数が少ない人が勝利


⑩折り返し地点には必ず止まる


⑪プレイヤーは後ろを見てはならない



【6ターン目終了時点(仏井視点)】


※□:残りの椅子

 ?:状況不明

 (名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)

 【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)


スタート(ゴール):□□□□

1列目 :(仏井6)(安治6)

2列目 :( ? 1)□

3列目 :( ? 1)□

4列目 :(仏井1)(安治1)

5列目 :( ? 2)【仏井5】【安治5】

6列目 :( ? 2)(引鳥6)

7列目 : □□

8列目 :(仏井2)(安治2)

9列目 :(静道3)(引鳥3)【仏井4】【安治4】

10列目 :(引鳥5)(静道6)

11列目 : □□

折り返し:(仏井3)(安治3)(静道4)(引鳥4)

     【静道5】


=======================




 仏井・安治はゴールまで後1ターンというところまで歩を進め、ゲームはついに7ターン目に突入した。


 様々な戦略がぶつかり、駆け引きが絡まり合い、椅子が枯渇寸前まで奪い合われ、後1回ドボンすれば脱落というところまで追い込まれた者も現れた。


 それでもまだ誰1人として脱落せず、とうとうゴール目前まで来たのである。


 観客たちはその結末を目にしようと固唾をのんで見守り、プレイヤーたちは残り少ない限られた選択肢から粛々と数字を選んだ。


 このターンのシンキングタイムは、それまでで最も静かに進んだ。




『シンキングタイム終了です』


 そして、移動の時間となった。


=======================

(1)プレイヤー起立

(2)スタッフが使用済みの椅子を撤去

  この際嘘の音も立ててプレイヤーを攪乱

(3)プレイヤー移動

  移動中は目を閉じ、スタッフが手を引いて誘導

  移動後は目を開けてよいが、まだ立ったまま

=======================



<Side:静道走吾>


(あ、やばっ)


 移動を終えた静道は、目を開けて真っ先にそう思った。


 折り返しで0を選ぶという大失敗をやらかした静道。その場その場で戦略を変えてきた彼の行動原理は、このターンにも同じく発揮されていた。


 移動したのは6列目。彼は今さらながらゴールを目指していた。


 だがしかし、彼が座るべき椅子はこの列には残っていなかった。


 静道、本日2回目のドボンである。




<Side:安治篤史>


(俺の勝ちだ!)


 安治はそう心の中で勝鬨をあげ目を開いた。


 ゴール地点に立つ安治。そこからはすべての列を見る事が出来た。


 ドボンしている静道も、あと一歩ゴールに間に合わなかった引鳥も、自分と同じくゴールした仏井も。



 そして、全ての列の椅子の残り具合も。


「……あ?」


 ゴール地点の椅子に座って終了。それが安治の思い描いていた勝利。


 この時になって安治は、自身がある勘違いをしていた事に気づいた。



(ゴール地点に、椅子が無い!?)


 3度目のドボン。そんな予感に、安治の顔から血の気が失せた。




<Side:仏井正蔵>


(いや、でもゴールしてるんだから勝ちのはず!)


 同じくゴール地点に椅子が無い事に気づいた仏井は、かすかな希望を胸に抱いた。


③一番早くスタート(ゴール)に戻ってきた人が勝利


 それがこのゲームのルールである。ならば仏井は勝利条件を満たしている、はず。





『ではドボン判定に移ります』


 だが無情にも司会はアナウンスを続けた。



=======================

(4)ドボン判定

  スタッフがドボンした列の椅子を撤去

  この際嘘の音も立ててプレイヤーを攪乱

(5)プレイヤー着席

  ただしドボンしたプレイヤーは立ったまま

(6)勝者判定

  勝者が現れなければ次のターンへ

=======================




 これで7回目の移動。何度も繰り返してきたことである。


 勝者判定は、ドボン判定の後。今回だけ特例などという都合の良い展開は起こらなかった。



『では勝者判定です。このターンに勝者は……現れませんでした!』

(ぬあー……っ!)


 仏井および安治、脱落。



=======================

7ターン目終了時点(仏井視点)


※□:残りの椅子

 (名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)

 【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)


スタート(ゴール):【仏井7】【安治7】

1列目 :(仏井6)(安治6)

2列目 :( ? 1)(引鳥7)

3列目 :( ? 1)□

4列目 :(仏井1)(安治1)

5列目 :(静道2)【仏井5】【安治5】

6列目 :(引鳥2)(引鳥6)【静道7】

7列目 : □□

8列目 :(仏井2)(安治2)

9列目 :(静道3)(引鳥3)【仏井4】【安治4】

10列目 :(引鳥5)(静道6)

11列目 : □□

折り返し:(仏井3)(安治3)(静道4)(引鳥4)

     【静道5】

=======================






<Side:引鳥はじめ>


(このゲームの最大の落とし穴は、ゴール用の残機を残しておく必要があるという部分だ。2人は見事に引っかかったな)


 勝者現れず。司会の宣言を聞き、引鳥は椅子の上で足を組んだ。


 仏井と安治が見落としていた点は、以下のルールについてだ。



④移動する際、使用済みの椅子は撤去される。



 このルールは()()()()()に座った椅子にも適用されるのである。なぜならこのゲームはプレイヤーがスタート地点に座った状態から始まったからだ。


 つまり1ターン目終了時点で

=======================

スタート(ゴール):□□□□

=======================


ではなく


=======================

スタート(ゴール):(仏井0)(安治0)(静道0)(引鳥0)

=======================

なのだ。



 仏井と安治はそのことに気づかなかった。彼らはボードに各ターンの結果をメモしていたが、最初に書き込んだ内容は、「1ターン目に4列目に座った」ということであった。


(いやらしいルールだが、ヒントもあったな。わざわざ1ターン目から律儀に勝者判定したのは勝者が出たか確認するためじゃない)


 このゲームのルール上、1ターン目から勝者が出る事はない。にもかかわらず勝者判定を行ったのには意味があった。


 ドボン判定は勝者判定の前。それを早々に明確にするためである。仏井・安治が移動手順まで細かく考察していれば、ゴールでドボンするという可能性にも気づけただろう。



 要するにだ。


 ゴールした時に椅子は無く、確実にドボンするのである。それまでに2回ドボンさせれば引鳥の勝ちだったと言う訳だ。


 そして6ターン目終了時(1つ前のターン)にはすでに、引鳥は自身の勝利を確信していた。



=======================

6ターン目終了時点(引鳥視点)


※□:残りの椅子

 ?:状況不明

 (名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)

 【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)


スタート(ゴール):(仏井0)(安治0)(静道0)(引鳥0)

1列目 : ??

2列目 :(引鳥1)?

3列目 :(静道1)?

4列目 :(仏井1)(安治1)

5列目 :(静道2)【仏井5】【安治5】

6列目 :(引鳥2)(引鳥6)

7列目 : □□

8列目 :(仏井2)(安治2)

9列目 :(静道3)(引鳥3)【仏井4】【安治4】

10列目 :(引鳥5)(静道6)

11列目 : □□

折り返し:(仏井3)(安治3)(静道4)(引鳥4)

     【静道5】

=======================



 このターンに引鳥が座ったのは6列目。そこから見える椅子の残り具合から、仏井・安治が5列目でドボンしたと逆算できるのである。つまり2回目のドボン。チェックメイトである。



 そして同時に引鳥は、自身の勝利が幸運によるものでもあるとも理解していた。


 9列目も5列目も、仏井・安治がドボンしたのは2人がずっと横並びだったからである。もし一度でも2人が同じ数を選んでいなかったら、少なくともどちらかは脱落せずにゴールしていただろう。


 実は引鳥の勝率は大して高くなかったのである。



 そして、引鳥は初め(1ターン目)からそのことも承知の上で妨害戦略を選んでいた。


 先頭を他者に譲り妨害戦略という勝ち目の薄い戦略を取った理由は――



(だからこその達成感。最高だな。これだから挑戦はやめられない)


 引鳥の趣味は、新しい事、難しい事に挑戦すること。なぜなら引鳥はそれで成功してきたからである。


 自己肯定、自己実現、そのような言葉で表されるある種の麻薬に浸かった挑戦中毒者。それが引鳥という人物の正体であった。

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