5ターン目:迷走
【プレイヤー】
デスゲーム2回目 :仏井正蔵(部長)
コロナ禍アジア留学:安治篤史(新人)
ペーパードライバー:静道走吾(新人)
ベテラン委員長 :引鳥はじめ(新人)
【ルール】
①0~4の中から好きな整数を1つ選ぶ
何を選んだかは他のプレイヤーには秘密にする
②選んだ数字の分だけ同時に列を移動する
③ ①②を繰り返し、折り返し地点を経由して
一番早くスタートに戻ってきた人が勝利
ただし、
④移動する際、使用済みの椅子は撤去される
⑤移動先の椅子が足りなければ「ドボン」
その列の椅子はすべて撤去される
⑥3回ドボンした人はその時点で脱落
⑦3人脱落した時点で残り1名が勝利
⑧全員脱落した場合はゴールに一番近い人が勝利
⑨同着ゴールの場合はドボン数が少ない人が勝利
⑩折り返し地点には必ず止まる
⑪プレイヤーは後ろを見てはならない
【4ターン目終了時点(観客視点)】
※□:残りの椅子
(名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)
【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)
スタート:(仏井0)(安治0)(引鳥0)(静道0)
1列目 : □□
2列目 :(引鳥1)□
3列目 :(静道1)□
4列目 :(仏井1)(安治1)
5列目 :(静道2)□
6列目 :(引鳥2)□
7列目 : □□
8列目 :(仏井2)(安治2)
9列目 :(静道3)(引鳥3)【仏井4】【安治4】
10列目 : □□
11列目 : □□
折り返し:(仏井3)(安治3)(静道4)(引鳥4)
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<Side:安治篤史>
(マジかよ……)
まさかのドボンに安治は内心で思わずそう呟いた。折り返し後はドボンする可能性があるとは分かっていたが、まさかいきなりそれが来るとは幸先が悪い。
運が悪かった。そう思いかけた安治はしかし、すぐに頭を振ってその希望的観測を脳から追い出した。
(違う。これは仕組まれたものだ)
自分たちが移動した9列目に偶然にも後続の2人が先に座っていた、そんな事があるはずがないと安治は断じた。このゲームはサイコロを振って進むすごろくとは違うからである。
後続は後続で勝つために策を練ったはず。この結果は必然と考えるべきと安治は判断した。
後続の視点に立ってゲームの展開を予測し直す安治。それにより彼はある事に気づいた。
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2ターン目までの展開(安治の予想)
※□:残りの椅子
(名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)
【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)
スタート:□□□□
1列目 : □□
2列目 : □□
3列目 :(静道1)(引鳥1)
4列目 :(仏井1)(安治1)
5列目 : □□
6列目 : □□
7列目 :(静道2)(引鳥2)
8列目 :(仏井2)(安治2)
9列目 : □□
10列目 : □□
11列目 : □□
折り返し:□□□□
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(ここだ。ここまでゲームが進めば椅子の並びを見ればすぐに分かる。俺たちが折り返し後に8列目を避けるだろと)
8列目に戻ってもドボンするだけである。移動するなら9~11列目のどこか。ならば最もゴールに近い9列目が本命であろう。その椅子を先に使ってしまおうと、後続が考えないはずがない。
相手の立場で考えれば当然の事。そんな当然の事に気づかなかった事を、安治はひどく恥じた。
だが、仕方がない部分もあった。
この椅子取りダービー、普通に難しい部類である。事前にいくら展開を予測しても、いざその場面に直面しないと気づかない事も多いだろう。まして相手の視点に立つとなればなおさらだ。
だからこそ、いくら予測してもそれで十分という事は無い。
(あと1回しかドボンできない。慎重に行け俺!)
次に選ぶべき数字は何か。安治はこれまで以上に考えを巡らせた。なんなら先ほどの自分の予測も間違っているかもしれない。そんな疑心暗鬼により別のパターンについても考えを広げていく。
そもそも1ターン目に静道と引鳥が3列目に居たのか、そこからして実は良く分かっていない。パターンを絞ることはできなかった。
(だったら……!)
様々なパターンを想定して、平均してドボンしにくい列に移動するしかない、安治はそう判断した。
安治が想定するもう1つの有力なパターンは以下の通りだ。
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2ターン目までの展開(安治の予想2)
※□:残りの椅子
(名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)
【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)
スタート:□□□□
1列目 : □□
2列目 :( ? 1)□
3列目 :( ? 1)□
4列目 :(仏井1)(安治1)
5列目 : □□
6列目 :( ? 2)□
7列目 :( ? 2)□
8列目 :(仏井2)(安治2)
9列目 : □□
10列目 : □□
11列目 : □□
折り返し:□□□□
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そして思考の末、
(あそこ……どっちのパターンでも椅子両方残ってるな)
安治はある列に勝機を見出したのだった。
<Side:静道走吾>
(さて、ここからどうしようかな)
静道は折り返し地点でそう頭を悩ませた。
このゲームは行きと帰りで考えるべき内容が大きく変わる。ここから先は見る事が出来ない後ろの状況を予想しながらの後退だ。いわば目隠しでのレース。道を誤れば脱落である。
そして、脱落は意外と簡単に起こる事象のように静道には感じられた。椅子が残り少ないのである。
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現在残っている椅子(静道視点)
※□:残りの椅子
?:状況不明
(名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)
スタート:
1列目 : ??
2列目 : ?
3列目 : ?
4列目 :
5列目 : ?
6列目 : ?
7列目 : ??
8列目 :
9列目 :
10列目 : ??
11列目 : ??
折り返し:(静道4)(引鳥4)
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ちなみに1~7列目の椅子は今は確実に残っているが、仏井と安治が先に通過するため「?」となっている。
(うーん、普通に脱落しそう。どうやったらここから引鳥君に勝てるかな……)
いち早くゴールした者が勝利、それがこのゲームの基本ルールである。だが例外もある。静道はゲームの特殊勝利条件を再確認した。
⑦3人脱落した時点で残り1名が勝利
⑧全員脱落した場合はゴールに一番近い人が勝利
⑨同着ゴールの場合はドボン数が少ない人が勝利
(……無理にゴールを目指す必要はない?)
事前にいくら予測しても、いざその場面に直面しないと見えて来ない事も多い。これまでゴールするつもりでプレイしていた静道は今になって、違う道に惹かれ始めていた。
(……今からでもやるか、サバイバル戦略)
サバイバル戦略。0や1を選びゆっくり移動する事で椅子を余さず活用し、自分以外が全員脱落するまで生き残るという戦略である。
その時だった。静道があるルールに疑問を持ったのは。
(あれ? これ0選んだらずっと生き残れない? だって移動しないんだし)
静道が注目したのは、以下のルールだった。
④移動する際、使用済みの椅子は撤去される。
そしてシンキングタイム終了。司会からアナウンスが発せられた。
『それでは5ターン目、移動してくださーい』
ソワソワとこの先の展開を待ち受ける静道。
(時間稼ぎにもなるし、1回くらい試してもいいよね)
静道の解答欄には、このゲーム初の0が記入されていた。
そして移動フェーズ。静道はあっさりと――
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(1)プレイヤー起立
(2)スタッフが使用済みの椅子を撤去
この際嘘の音も立ててプレイヤーを攪乱
(3)プレイヤー移動
移動中は目を閉じ、スタッフが手を引いて誘導
移動後は目を開けてよいが、まだ立ったまま
(4)ドボン判定
スタッフがドボンした列の椅子を撤去
この際嘘の音も立ててプレイヤーを攪乱
(5)プレイヤー着席
ただしドボンしたプレイヤーは立ったまま
(6)勝者判定
勝者が現れなければ次のターンへ
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座っていた椅子を(2)でスタッフに回収されドボンした。
(……いや、知ってたし? ちょっと確認してみただけだし?)
静道は誰に言うでもなくそう心の中で言い訳したのだった。
そして視点は再び安治へ。
<Side:安治篤史>
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5ターン目終了時点(安治視点)
※□:残りの椅子
?:状況不明
(名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)
【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)
スタート:□□□□
1列目 : ??
2列目 : ??
3列目 : ??
4列目 :(仏井1)(安治1)
5列目 :( ? 2)【仏井5】【安治5】
6列目 :( ? 2)□
7列目 : □□
8列目 :(仏井2)(安治2)
9列目 :(静道3)(引鳥3)【仏井4】【安治4】
10列目 :(引鳥5)□
11列目 : □□
折り返し:(仏井3)(安治3)(静道4)(引鳥4)
【静道5】
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(なんでだー!?)
5列目に椅子は1席しか残っておらず、
安治は2度目のドボンを喰らい頭を抱えたのだった。