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1ターン目:発走

【プレイヤー】

 製品開発部     部長 仏井正蔵

 製品開発部 計測課  新人 静道走吾

 製品開発部 機械課  新人 引鳥はじめ

 製品開発部 AI技術課 新人 安治篤史



【ルール】


⓪椅子の初期配置は以下の通り。


※□:椅子


後ろ(スクリーン)


スタート(ゴール):□□□□

1列目 : □□

2列目 : □□

3列目 : □□

4列目 : □□

5列目 : □□

6列目 : □□

7列目 : □□

8列目 : □□

9列目 : □□

10列目 : □□

11列目 : □□

折り返し:□□□□


前(観客側)



①0~4の中から好きな整数を1つ選ぶ

 何を選んだかは他のプレイヤーには秘密にする


②選んだ数字の分だけ同時に列を移動する


③ ①②を繰り返し、折り返し地点を経由して

 一番早くスタート(ゴール)に戻ってきた人が勝利


ただし、


④移動する際、使用済みの椅子は撤去される


⑤移動先の椅子が足りなければ「ドボン」

 その列の椅子はすべて撤去される


⑥3回ドボンした人はその時点で脱落


⑦3人脱落した時点で残り1名が勝利


⑧全員脱落した場合はゴールに一番近い人が勝利


⑨同着ゴールの場合はドボン数が少ない人が勝利


⑩折り返し地点には必ず止まる


⑪プレイヤーは後ろを見てはならない


=======================



<Side:仏井正蔵>


(タイトルを聞いたときは体力勝負かと思ったけど、そんな事無くてよかったー)


 そう胸をなでおろす男は仏井正蔵。製品開発部の部長を務める人物である。

 つまりこの場のトップ。そして一番偉いがゆえに、新人達との交流相手に選ばれてしまった人物でもあった。前回のデスゲームの経験者でもある。


 長年仕事一筋だった彼の腹は運動不足により大きく突き出ていた。間違っても若手相手に運動で勝つなんてできないだろう。椅子取り、レース、そんな単語に一瞬尻込みした彼であったが、ルールを聞いてとりあえず自分でも対等に戦えそうだとは安心できたのであった。



(まあ、まだあんまりルールよく分かってないんだけど)


 仏井は手元のボードに目をやった。スタッフから渡されたものである。そこには数字を記入する欄とゲームのルールが書かれた紙が貼られていた。そして付属のペン。


 プレイヤーの背後のスクリーンには観客向けにルールやゲームの進行状況を表したマップが表示されていた。そして後ろを見てはならないというルールにより、プレイヤーたちはスクリーンを見る事を禁止されていた。


 そんな彼らがルールを確認できるようにと、わざわざ紙に印刷したものを手渡してきたのである。無駄に準備がよい。準備が出来ていないのはプレイヤーたちの心だけであった。



『まだルールを理解できてない方も居られるかと思いますので、1ターン目のシンキングタイムは長めに取って1分半とします』


 そこに時間制限を言い渡す司会。容赦がないなという思いとでも配慮はしてくれるんだという思いが混在しつつも、仏井は急ぎ戦略を練り始めた。




<Side:安治篤史>


(これ、4を選ばないと負けるんじゃないか?)


 安治篤史はルールを読み解いた末にそんな感想を抱いた。


 彼はAI技術課に配属された新入社員である。アジア圏の某大学へ留学し、直後に発生したコロナ禍によりなかなか帰国できず、数か月前にようやく日本に戻って来たという経歴の持ち主だ。


 そんな彼が予想するゲームの展開は以下の通りだった。



=======================

3ターン目までの展開(安治の予想)


※□:残りの椅子

 (名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)

 【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)


スタート(ゴール):□□□□

1列目 : □□

2列目 : □□

3列目 : □□

4列目 :【仏井1】【安治1】【引鳥1】【静道1】

5列目 : □□

6列目 : □□

7列目 : □□

8列目 :【仏井2】【安治2】【引鳥2】【静道2】

9列目 : □□

10列目 : □□

11列目 : □□

折り返し:(仏井3)(安治3)(引鳥3)(静道3)

=======================



 数字を選んで移動。基本はその繰り返しである。選べる数字は0から4。折り返し地点は12列目だ。


 つまり行きに4列ずつ移動することで、3ターンで折り返し地点に到達できる。


 ただしこれはあくまで最短での話である。



 ⑩折り返し地点には必ず止まる。


 このルールのせいで、もし行きで4以外を選ぶと帰りが1ターン遅れてしまうのである。最初にゴールした人が勝利となる以上、この遅れはあまりにも痛い。


 ゆえにプレイヤーたちは4を選びたいと考える。だがそれはドボンのリスクが高いという事を意味していた。



(なるほど、要するにチキンレースか)


 そう結論づける安治。


 例えば1ターン目、全員が4列目に移動したとしよう。ドボンである。そしたら次のターンに、|今度は8列目に移動する《また4を選ぶ》かどうかの決断を迫られることになる。またドボンするかもしれない。その繰り返しだ。


(もしドボンしたら、次のターンでもドボンする可能性がある。それでも日和らなかった奴がこのゲームに勝てる)



 ドボンを避けるために4以外を選ぶという人間もいるだろう。それは1ターン目からかもしれないし、1ターン目でドボンしたら2ターン目では諦めるという者もいるかもしれない。


 そして勝負を避けた者は先頭集団から転落しそのまま追いつけずに負けるのだ。


 先にブレーキを踏んだ方が負け。文字通りチキンレースである。


(俺はビビったりしない。海外仕込みの度胸を見せてやる!)




<Side:引鳥はじめ>


(このゲームには必勝法は無いな)


 引鳥はじめはゲームの攻略法についてそう結論付けた。


 中学では学級委員長、高校では選挙管理委員長、そして大学では文化祭実行委員長を務めた引鳥は、その多彩な経験から物事を多角的に分析する能力に長けていた。


(4を選ぶ事にはデメリットが2つある。1つはドボンする可能性が高いという点。そしてもう1つは、得られる情報が少ないという点だ)



 引鳥が着目したルールはこれだ。


④移動する際、使用済みの椅子は撤去される

⑪プレイヤーは後ろを見てはならない



 このルールはつまり、先頭集団は後続がどの列に座ったか分からない状態で折り返しに到達するという事を意味している。逆に最後尾は誰がどの列に座ったかすべて把握した状態で折り返しに到達する。


 折り返しに到達した後は後退だ。その際、椅子が残っている列を選びながらゴールへ向かう必要がある。情報量の差は有利不利に大きく影響するだろう。うっかり椅子が残ってない列に移動してしまえばドボンだ。



(先頭集団が脱落する可能性があるなら、初手3以下を選んでも勝ち目はある。問題はどちらの方が勝率が高いかだが……)


 引鳥にはある趣味があった。新しい事や難しい事に挑戦することである。このゲームにおいて一番面白い挑戦とは何なのか、引鳥の興味の点はそこに向けられていた。




<Side:静道走吾>


(少し複雑だけど、結局はじゃんけんと同じかな)


 そう考えるのは計測課に配属された新人、静道走吾。ペーパードライバーである。


 熟考するペーパードライバー静道。彼の理論はこうだ。


 自分以外に2人以上が4を選んだなら自分はドボンを回避するために4以外を選ぶのが最善。逆に4を選んだのが1人以下なら自分は4を選ぶのが最善。



(要するに、他の人がどの数字を選ぶかで自分の最善手が変わるわけだね)


 考えるべきは自分が何を選ぶかではなく他人が何を選ぶか。幸い同期の安治と引鳥とは新人研修以来の付き合い。全く知らない仲と言う訳ではなかった。


(安治君は4だろうな。そんな性格してるし。引鳥君は積極性の塊だから極端な事しそう。部長は……全然分かんないな。見た目優しそうだけど……)


 横目にライバルたちの様子をうかがう静道。そこへ司会のアナウンスが流れた。


『あと15秒でシンキングタイム終了です。まだの方は急いで数字をお選びください』


(やばいやばい、早く決めないと)


 静道はいそいそと手元のボードに数字を書き込んだのだった。





 そして視点は再び仏井部長へ。



<Side:仏井正蔵>


(あるじゃん! 皆で一緒にゴールできる方法!)


 蹴落とし合うのではなく協力してゲームを進められないか、そんな事を考えていた仏井は時間ギリギリになって、ある戦略を見出した。


 実現の可能性は低い。それでも平和な解決手段があるなら仏井には試してみる価値は十分にあると思えた。解答欄に数字を記入する仏井。


 それと同時に、司会からのアナウンスが発せられた。


『シンキングタイム終了ー! これより移動を行います』


 果たしてどうなる、仏井はごくりとつばを飲み込んだのだった。




 その後の移動の手順は少し煩雑であった。以下ダイジェストである。



=======================

(1)プレイヤー起立

(2)スタッフが使用済みの椅子を撤去

  この際嘘の音も立ててプレイヤーを攪乱

(3)プレイヤー移動

  移動中は目を閉じ、スタッフが手を引いて誘導

  移動後は目を開けてよいが、まだ立ったまま

(4)ドボン判定

  スタッフがドボンした列の椅子を撤去

  この際嘘の音も立ててプレイヤーを攪乱

(5)プレイヤー着席

  ただしドボンしたプレイヤーは立ったまま

(6)勝者判定

  勝者が現れなければ次のターンへ

=======================



『では勝者判定です。このターンに勝者は……現れませんでした!』


 もちろん1ターン目から勝者は出なかった。ルール的にあり得ない。なぜわざわざ1ターン目から判定を? と仏井は疑問に思いながらも、目の前に広がる結果を確認したのだった。



=======================

1ターン目終了時(仏井視点)


※□:残りの椅子

 ?:状況不明

 (名前+ターン数):プレイヤー位置 (着席)

 【名前+ターン数】:プレイヤー位置 (ドボン)


スタート(ゴール):????

1列目 : ??

2列目 : ??

3列目 : ??

4列目 :(仏井1)(安治1)

5列目 : □□

6列目 : □□

7列目 : □□

8列目 : □□

9列目 : □□

10列目 : □□

11列目 : □□

折り返し:□□□□

=======================



 ドボン、発生せず。


 仏井は早くも静道と引鳥の行方を見失い、ゲームは2ターン目に突入したのだった。

プレイヤーが選んだ数字はすべて実話の通りです

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