プロローグ
2023年某月某日。とある産業ロボットメーカーの製品開発部で数年ぶりに、リアルでの大規模な飲み会が開催された。
リアル開催を自粛すること数年。コロナ禍が収まりつつある中、感染対策の機運も下がったことで久しぶりに開催されたのである。
名目は新人歓迎会。参加者は50人弱。さすがにまだ社外に繰り出すのは控えようという意見が出た事から、会社の食堂での開催である。
ウイーン……
乾杯から1時間程経った頃の事である。食堂の壁際に備え付けられたスクリーンが天井から降りて来た。その左隣の講演台ではスーツ姿の男がノートPCを用意し何かを準備している。
何かが始まる、そんな期待と共に集まる参加者たちの視線。飲食エリアとは別に、スクリーン前のスペースにはあらかじめ大量の椅子が並べてあった。おそらく何かのイベントが行われるのだろうと参加者たちは察していた。
プロジェクターが点き、スクリーンに男の顔が映った。どうやらPC内臓のカメラで中継しているらしい。と思ったら男はすぐに画面の下に隠れてしまった。身を縮めるようにして講演台の裏でゴソゴソと何かをやっている。
ここまで無言。何のアナウンスも無し。焦らされるような時間に比例して参加者達の期待も高まっていく。
同時にあいつ誰だっけなどという声も聞こえて来た。今回の新人歓迎会は複数の課での合同開催。互いに面識がないという人々も多くいた。
講演台に隠れていた男が飛び上がるように台から顔を出した。スクリーンに男の顔がアップで映る。否、それは男の顔ではなかった。なぜなら男は仮面をつけていたからだ。
黒のスーツに深紅のネクタイ、そして怪物の仮面といういでたちの男がそこに居た。そして、男の顔は覚えてなくともこの姿を覚えているという者は、ここには数多くいた。
『皆さん、お久しぶりです。ゲームの時間がやって来ました』
「「「またお前か!」」」
男の名は源平氏。名前と顔はあまり知られていないが、デスゲーム(風のイベント)を開催して上司にプレイさせたという逸話だけなら知れ渡っている男である。
こうして、1年以上の時を経てデスゲーム企画が再び開催されたのであった。
=======================
そして源によるゲームの紹介が始まった。
『今宵は新人歓迎会。新人の3名に部長を加えた計4名にゲームで競っていただきます』
『ではプレイヤーを紹介いたしましょう。
製品開発部 部長 仏井正蔵さん、
製品開発部 計測課 新人 静道走吾さん、
製品開発部 機械課 新人 引鳥はじめさん、
製品開発部 AI技術課 新人 安治篤史さん
です』
『そして今回プレイいただくゲームの名は、「椅子取りダービー」でございます』
『スクリーン前の椅子が気になっていた方も居られた事でしょう。そう、今から行うのは椅子を使ったレースゲームなのです』
ノリノリで司会をする源。それにつられてか会場もざわざわと熱を帯び始めていた。
『それではルールの説明に移ります。
⓪椅子の初期配置は以下の通りです。
※□:椅子
後ろ(スクリーン)
↑
スタート:□□□□
1列目 : □□
2列目 : □□
3列目 : □□
4列目 : □□
5列目 : □□
6列目 : □□
7列目 : □□
8列目 : □□
9列目 : □□
10列目 : □□
11列目 : □□
折り返し:□□□□
↓
前(観客側)
①それぞれのプレイヤーは0~4の中から好きな整数を1つ選びます。この時、何を選んだかは他のプレイヤーには秘密です。
②選んだ数字の分だけ列を移動します。
例えば1を選んだら1列、4を選んだら4列移動となります。
移動は全員同時に行います。
③ ①②を繰り返し、折り返し地点を経由して一番早くスタートに戻ってきた人が勝者となります。
ただし、
④移動する際、使用済みの椅子は撤去されます。
⑤移動先の椅子が足りず座れなければ「ドボン」。その列の椅子はすべて撤去され、次のターンは立ったまま過ごしていただきます。
⑥3回ドボンした人はその時点でゲームから脱落となります。
⑦3人脱落した時点で残り1名が勝者となります。
⑧全員脱落した場合はゴールに一番近い人が勝者となります。
⑨同着ゴールの場合はドボン数が少ない人が勝者となります。
⑩折り返し地点には必ず止まっていただきます。
そして次が最後のルールですが、こちら非常に重要です。しっかりお聞きください。
⑪ゲーム中、プレイヤーは後ろの列を見てはいけません。
』
『以上でルール説明は終了です。プレイヤーの皆様はスタート地点にお座りください』
ざわ……
ざわ……
説明が終わり一気に騒がしくなる会場。
スクリーンに映し出されたルールを読み返し、考察し、確認し合う者たちの喧騒と共に、ゲームはスタートしたのだった。
ルールの解説は次話にあります