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お茶会


フェンヴィルム国へと帰国して数日。

今日も温室でお茶会をする。温室の外では、幻獣二匹が険悪な空気を醸し出している。


『フィリ―ネとのリンクを切れ』

『なぜ私がそんなことをしなければならん』

『フィリ―ネは私の幻獣士だ』


温室の外で気だるげにしているフェンリルにユニコーンが迫っている。その隣の温室で私はお茶会の準備をしていた。


「……フェリクス様は、どんなお菓子が好きなのかしら?」

「あまり甘い物は食べませんけど……何でも食べますよ」


アリエッタが、お茶の準備をしながら教えてくれる。甘くないお菓子は何かないかと考えているとアリエッタが、くすりと笑った。


「チョコレートに、お酒でもかけますか?」

「チョコレートにですか?」

「はい。この国は寒いのでお酒をかけたりすることも普通ですよ。紅茶に入れることもありますので……甘さがほど良い感じになってなかなか美味しいですよ」


それは、甘いのだろうか……お酒を飲んだことがないからわからない。


「フェリクス様も、好きですか?」

「お酒はよく飲まれますので、お好きですよ」


確かに夜も寝る前によく飲んでいる。


「では、今日はチョコレートばかりにしましょう」


そして、チョコレートにお酒も準備される。お皿の上の球体型チョコレートには、イチゴも添えられ可愛らしく飾られている。その横にはコロコロとした丸いチョコレートがお皿に盛りつけられていた。

そんな中で、フェリクス様が仕事を終わらせて真っ直ぐに温室へとやって来た。


「どうしたんだ? 今日はチョコレートばかりだな……」

「フェリクス様。おかえりなさいませ。お早いのですね」

「ああ。今帰った……今日はチョコレートが食べたかったのか?」


おかえりなさいと言うと、フェリクス様が腰をかがめて頬に口付けをしてくる。それをアリエッタが微笑ましく見てチョコレートを準備していた黒服の使用人に指示を出すと、お酒を温め始めた。


「フェリクス様が、お酒が好きだと聞いて……」

「まぁ、そうだな……それで、チョコレートを?」

「はい。せっかくのお茶会ですから、好きなものをご準備したくて……」

「それは、嬉しいな」


目を細めて少しだけ唇を上げたフェリクス様が、私を引いてソファーに座らせてくれた。


「フェンは、またユニコーンといるのか?」

「ユニコーン様が、私とフェン様のリンクを切れと怒っていました」

「それは、確かに切って欲しいが……」

(でも、切られたらフェン様とお話ができない……)

「リーネは、フェンがお気に入りだな」

「フェン様は優しいですから……でも、やっぱり私の声ばかり聞こえます」

「俺の声が聞きたいのか?」

「聞きたい……?」


フェリクス様の心の声を聞きたいのだろうかと首を傾げた。思い出せば、フェリクス様の心の声に動揺したことを思い出し、赤くなると同時に青ざめる。

その間にお酒が温まり、ミルクパンの鍋に使用人が魔法で火をつけた。


「……フェリクス様の心の声はいらない気がします」

「そうしろ……聞かない方がいい時もある」


肩に手を回されると、フェリクス様の身体に寄せられ照れてしまう。その態勢でチョコレートに火のついたお酒をチョコレートにとろりと注がれた。


「フェリクス様……チョコレートが溶けていきます」

「あれは、チョコレートフランベだ。酒に火をつけてチョコレートを溶かすんだ」

「綺麗ですね」


溶けた丸いチョコレートの中からは、イチゴがゴロリと出てきている。そして、使用人たちが一斉に温室を去っていった。

アリエッタとヴァルト様はお互いに顔を見合わせて温室の前に移動していた。


「リーネ。食べろ」


そう言って、お酒の混じったチョコレートのついたイチゴを口に入れられた。

いつものチョコレートの味と違い、思わず眉間にシワが寄った。


(……苦い。全然甘くない……)


お酒の混じったチョコレートはいつも食べているチョコレートと違い何とも言えない苦味があった。そして、その心の声に、フェリクス様がククッと笑みを零した。


(また、聞いている……)

「酒は初めてだったな……すぐに美味いと思える。フェンヴィルム国は雪国だから酒は身体を温めるのにちょうどいい」


苦くて眉間にシワを寄せた私にフェリクス様が笑い交じりで言う。


「……結婚式が楽しみだな。それに、ユニコーンは豊穣を願う幻獣だったな……緑色の宝石で、新しい杖を作るか? リーネのイメージに合う」


豊穣は緑色のイメージらしい。


「王妃のティアラは、慣例通り代々受け継がれている青色の宝石だが……」

「フェリクス様の王冠も青色ですか?」

「そうだな。式典の時だけだ。……それと、結婚後は正式にアリエッタをリーネの侍女にする」

「アリエッタが?」


彼女が侍女になってくれると嬉しい。

ジルは、兄上に私の日常を報告していたらしく、フェリクス様がディティーリア国に置いて帰って来たのだ。

それに、ジルは何か怖いことがあったらしく、もう一緒に付いてきたくなかったらしい。

ジルに「元気で……」と言うと、「フィリ―ネ様もお健やかに……」と言って別れたのだ。


何があったのかわからないけど、その代わりにアリエッタが側にいてくれるのは嬉しい。

アリエッタを見ると、笑顔で頷いてくれる。


「そういうことだ。ヴァルト。早くアリエッタと結婚しろ」

「タイミングがあるんです……」


……んん? と思うと、アリエッタが笑顔でヴァルト様を紹介するように手を向けた。


「私の恋人です」

「ヴァルト様が?」


知らなかった。私の知らないところで恋は進んでいるらしい。


「ヴァルトと結婚すれば、アリエッタは伯爵夫人だ。王妃の侍女には相応しいな」


フェリクス様が言う。

ヴァルト様は伯爵の嫡男らしく、昔から友人として一緒に過ごしてきたのだという。


「ヴァルト様、早く結婚してください」

「ですから、タイミングがですね……それに、侍女は既婚者につくものですから、まだ大丈夫です。フィリ―ネ様に付くことは変わりませんし……」


結婚を迫る私に、ずいぶん懐かれたな、と言いたげにヴァルト様がアリエッタをジロリと見る。それにアリエッタが自信満々でニンマリとした。


「それまでは、騎士兼メイドとしてリ―ネ付きにする」

「はい……!」


嬉しくて元気な返事がでた。ジルはディティーリア国から連れて来たから侍女にしていたけど、彼女はフェリクス様がディティーリア国に置いて来たから、今の私に侍女はいない。

それに、伯爵夫人が私の侍女になった方が箔がつくらしい。

なんだか結婚式が楽しみになって来た。


「アリエッタがお気に入りか?」

「はい……でも、結婚式が楽しみなのは、それだけではありません」

「それは良かった」


照れながらフェリクス様を想い、見上げると彼は勝ち誇ったような笑顔を見せた。それに、ドキリとした。

温室の外からは、ユニコーンのまた不穏な気配を感じる。

フェリクス様は、それに気づいているのに、おかまいなしに私の頬へとまた唇を落としていた。






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