奉殿の幻獣 2
「ぴゅぴゅぅっ!」
「どうしたの?」
フェリクス様がいなくなり、部屋に戻っていると、フェレスベルグの子供が怯えたように私の肩に乗り身を寄せてくる。
絶対におかしい。こんなに怯える理由がわからなくて、フェレスベルグの子供を抱いているけど、それでも怯えたまま羽が震えている。
「アリエッタ。フェレスベルグの子供はどうしたのでしょうか?」
「なにか怖いものでもありますかね?」
抱いたまま震える身体を撫でていると、その瞬間に外から雷鳴がとどろいた。
「今のは何……?」
「フィリ―ネ様。おかしいですよ。こんな晴れた天気なのに雷が落ちるなんて……」
アリエッタは、いつものメイド服と違い騎士服で腰の剣に手を添えた。部屋の外を警戒しながら扉を開けると、護衛たちも緊張感で周りを警戒している。
「何か異常は?」
「今のところは何も」
アリエッタがこの部屋を警護している騎士たちに聞いている。
窓から外を見ると、奉殿のほうに雷雲が立ち込めている。そして、もう一度雷が落ちた。
「どうして……あんなところに避雷針なんかなかったわ。午前中は庭を散策していたのに、こんなに天気が変わるなんてありえない……」
困惑している間にも、アリエッタは「フィリ―ネ様には、誰も近づけないように!」と部屋の入り口で指示を出していた。
「フィリ―ネ様! 窓から離れてください! 城中が騒ぎ出しています。フェリクス様がお帰りになるまで……どうなさったのです!?」
奉殿から目を離さない私にアリエッタが聞いてくる。
「アリエッタ……あそこに誰かいるのよ。ずっと呼んでいた人かも……」
「何も声など聞こえませんが……」
「でも、私を呼んでいるのよ。すごく怒っているわ」
わかる。言葉ははっきりと聞こえないけど、怒りのまま私を呼んでいる。
「行かないと……」
奉殿は、私がお父様に年に一、二度連れていかれたところだ。植物がたくさんの植えられた部屋の中央には御簾があり、その前に一人で祈れと言われていた。
でも、何も変化はなく、その度にお父様はお前じゃなかった。生むんじゃなかったと憎らしく言われていた。それが子供心に傷ついたことを憶えている。
だから、あの奉殿にいくことが嫌いだった。でも、私がお父様に会えるのはそんなときだけ。
いつしか奉殿は、私からすれば恐怖の場所になっていた。
「フィリ―ネ様!? どこに行かれるのです!?」
アリエッタの止める声にハッとした。気がつけば窓の先に進もうとしていたのだ。
「アリエッタ……怖い。あそこは嫌なの」
身体を張って止めてくれたアリエッタにしがみついた。でも、心細い。
「フェリクス様は……?」
「すぐにお戻りになりますよ。それまで気をしっかりと持ってくださいね」
「はい。頑張ります」
アリエッタにしがみついた手が震えている。その時に廊下がさらに騒がしくなっていた。




