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氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!  作者: 屋月 トム伽
序章 氷狼陛下

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氷狼陛下のお茶会


それから毎日のようにフェリクス様は、「婚約者とのお茶の時間だ」と言って私との時間を過ごしている。

今日も王妃教育の時間が終わり、部屋の扉を開けると廊下には側近を連れたままのフェリクス様が立っていた。


「ああ、終わったか? ずいぶん頑張っているようだな」

「は、はい。陛下」

「まだ、名前は呼びなれないか? 呼びやすいように、やはり愛称を考えるか?」

「間違えました……フェリクス様」


名前で呼びなおすとフェリクス様は、いい子だ。とでも言うようににこりとして私の頭を撫でた。頭を撫でられるのは初めてで、ホッとすると同時に思わず頬が紅潮してしまう。


でも、陛下に愛称を付けて呼ぶなんて恐ろしい。私は王女でも、王女として育ってないのだ。

後ろの扉の間からは、私の家庭教師になっているオブライエン伯爵夫人であるアマンダ様がフェリクス様の言動に口元を隠して驚いている。


「では、行こうか」と言って、私が持っていた分厚い何冊もの本を取り上げると、側にいたジルに渡した。


「フィリーネの大事な本だ。しっかりと持って帰れ」


彼はそう言うと、有無も言わさず物持ち係にされたジルはポカンとなっている。そして、側近たちを後ろに引き連れて私をお茶の準備しているテラスへと連れて行った。

お茶をする場所も、フェリクス様の予定に合わせているからその日によって違う。

それでも、人前での私を可愛がる様子に周りは驚いている。


そんなフェリクス様がわからないまま、今日も彼との穏やかなお茶の時間を過ごしている。


「忙しくて宮でゆっくりと茶ができなくて悪いな」

「私も、王妃教育で城に来てますから……」


首を左右に振り、隣に座ったフェリクス様に答えた。

目の前のテーブルの上には、美味しそうなクッキーにカップケーキなど焼き菓子が可愛らしく並んでいた。


(お菓子が、かわいい……)


可愛いお菓子に目を輝かせていると、フェリクス様がカップケーキを一つ取り、背もたれに肘をかけてこちらを見た。


「食べさせてやろうか?」

「あの……自分で食べられますよ?」


ニヤリとしてお菓子を進められても、お菓子ぐらい自分で食べられる。そう返事をしてお皿のクッキーに手を伸ばした。クッキーをかじると、部屋に控えているヴァルト様が笑いをこらえている。フェリクス様は、頭痛を抑える様に額に指を立て口元を引き締めていた。


それでも、彼の腕が私の後頚に触れるのがくすぐったくて少し照れてしまう。恥ずかしさを隠すように、もう一度クッキーをかじった。


「フィリーネ」

「はい」


クッキーをかじり終わると、ムッとした表情から真剣な眼差しになった彼が私の肩に手を回して引き寄せる。


「クッキーは美味しいか?」

「はい」


彼の腕の中で返事をするとヴァルト様が、何かを察したように笑顔で「少し下がります」と言ってサロンから出ていってしまった。


フェリクス様は気だるげに私の頭にもたれている。彼の瞑った目が目の前にある。まつ毛が長い。その顔に緊張しながらも話しかけた。


「……フェリクス様。お疲れですか? 少しお休みになりますか?」

「休ませてくれるか?」

「はい」

「では、ヴァルトが戻って来れば起こしてくれ」

「はい」


そう言って、フェリクス様はソファーに寝転がる。その彼に部屋に置いてあるブランケットをかけた。


ソファーに寝っ転がっているフェリクス様の邪魔をしないように、静かに部屋を見渡すと、本棚には何かの本がある。

それを音を立てないようにそっと取り、窓辺に座る。本を開くと幻獣のことが書いてある。

幻獣は珍しい生き物だ。おとぎ話のように存在が不明な幻獣もあれば目撃情報もある幻獣もいるらしい。軟禁されていた私は、見たことも聞いたこともなく何の実感もないままでページを無機質に開いていた。


……しばらく一人で黙々と本を読んでいると、背後から突然に声をかけられた。


「……本が好きなのか?」


誰もいなくなり素っ気なくなっていたフェリクス様が起きると、私の背後にきており、それを見上げる様に振り向いた。


「……いつも本を読んでいました」

「それは、読書が好きなのか?」

「嫌いではありませんけど……」


好きかと聞かれればよくわからない。いつも一人だったから、読書は私の楽しみの一つだった。思わず、そうなのかと顎に手を当てて考え込んでしまう。


「……もしかしたら、読書は好きなのかもしれません」

「……」


私の他人事のような返答に、無表情なまま不思議そうな様子で、私を見下ろすフェリクス様が窓辺に座る私の隣に腰を下した。


なぜ隣に座るのか分からずにキョトンとすると、部屋の扉からノックの音がした。


「フェリクス様、そろそろ次の予定です……が……」


窓辺で、フェリクス様を背にして本を読んでいる私を見て、ヴァルト様がピタリと足を止める。


「……何が言いたい?」

「いえ……珍しい光景だな……と。……楽しいですか?」

「居心地は良いな」

「……」


フェリクス様が、無言で私たちを見据えるヴァルト様に静かに突っ込んだ。ヴァルト様からすれば、フェリクス様を背にする女性が初めてだったらしく、この光景が驚きのようだったらしい。


「リーネ。今日の茶会は終わりだ。ヴァルト、リーネを部屋に送ってやれ」

「かしこまりました」


フェリクス様が窓辺から降りると、軽々と持ち上げてられて思わず驚いた。


「あ、あの……っ……一人で……」


降りられます、と言おうとするがそれよりも先にフェリクス様が降ろしてくれると、ジッと私を見下ろしてくる。身長差が激しい。


「……次の茶会が楽しみだ」

「わ、私もです……」


何か言わなければと思い慌てて返事をした。そして、ジルが慌ててこの部屋にやって来る。

大きなお城だから、移動に時間がかかったのか、迷ったのか困ったようにやっと到着したと言いたげに深呼吸をする。


「フィリーネ様……っ!?」

「ジル……迎えに来て下さったのですか?」

「私の片付けが終わるまで待ってくださればいいものを……」


軽く息を切らしながら呟くジルが、私の持っている本を見てため息を吐く。


「……まさか、お茶会で読書をされていたのですか?」

「そうですが……」

「はぁ……」


ジルが呆れると、私の持っている本をフェリクス様が上から取り上げた。


「なかなか読書も良かったぞ」


フェリクス様は寝ていただけですけど……?

ジルから私を庇ってくれたなど露ほども思わずに不思議なことを言う人だと思うと、彼は本を側にいた側近に渡す。そしてマントを肩にかけて部屋を後にした。





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