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フェレスベルグの子供


「足は大丈夫か? 痛いなら抱えてやるぞ」

「抱っこをするのは子供ですよ」

「そういう意味ではないんだが……」

(私はまだ18才だけど、子供ではありません)


そう思っていると、フェリクス様は顔を横にむけてしまっていた。

そのフェリクス様が見せたいものがあると言って、夜会を早々に引き上げて部屋に行くとそこには、雛鳥よりは大きいながらも弱々しい青白い鳥の子供がいた。


「怪我をしているのですか?」

「羽をやられているみたいだが……普通の鳥ではないからすぐに良くなるだろう」

「鳥ではないのですか?」

「鳥は鳥でも、フェレスベルグの子供だ。幻獣の一種だが……フェンリルよりは、ランクが下だな」


フェリクス様が触ってもいいぞ、と言うので両手で包むように持つと、この鳥も毛が柔らくてふわふわした。


「かわいい……羽を治しましょうね」

「気に入ったか?」

「はい」


鳥に癒しの魔法をかけ始めると、フェリクス様が背後からかがんで話しかけてくる。耳元に低い声が響く。


「では、これはリーネにやろう」

「私に?」

「大人になるまでだが……しばらくはここに置くことになったからな。それなら、リーネが喜ぶかと」

「親のフェレスベルグはどうされたのですか? いなくなりましたか?」

「親は……討伐した。フェレスベルグの幻獣士がいないからな。狂った幻獣は人間に害をなす魔物と変わらないんだ」


幻獣は貴重な存在だ。でも、手に負えない幻獣は討伐対象となることもある。フェレスベルグの子供がいたから、余計に討伐対象になったのかもしれない。


「私、一生懸命育てます」

「ほっといても勝手に育つとは思うが……リーネは優しい母になりそうだな」

「……母親がどんなものか知りませんので、よくわかりません」


私を産んでそのまま他界した母親。私には母親の思い出もそれに代わる人もいなかった。

私に冷たかった父上もすでに亡くなり、跡を継いだ兄上たちも私を嫌っている。


「俺の母も幼いころに亡くなっている。リーネが落ち込むことはない」

「でも、フェリクス様にはヴァルト様や周りに人がいます。私には……」

「リーネには、俺がいるではないか」

(それは、お休みの時間確保のためです。フェリクス様も私など好きにならない……)

「そうですね」


気持ちを隠して笑顔を作り返事をした。でも、心の声は隠せなかった。


「リーネ……聞こえている」

「き、聞かないでください……」


みっともないことを思っていると知られたくないのに、心の声は丸聞こえで嫌になる。

両手で包んだフェレスベルグの子供を持ったまま、フェリクス様から顔をそらした。


「リーネ、お前のことは気に入っている」

「……それは噓です。誰も私のことなど好きになりません」

「そんなことはない。どうしてそう思うんだ?」

「……」

「言わないのなら、心の声を読むぞ」


慌てて首を左右に振った。フェリクス様は「リーネ」と優しく聞いてくる。

考えないようにしていたのに、フェリクス様には読まれるかもしれない。そう思うと観念してたどたどしくも話した。


「……私、離宮でずっと過ごしてきたのです。離宮から出られなくて……家族とひと時も過ごしたこともありません……私の世話する人も限られていて……」

「……軟禁されていたということか?」


こくんと頷くと、フェリクス様が憐れんでいるのか、怒っているのか……どちらともとれる表情で顔を抑える。


「それで誰にも知られてない王女だったのか……」

「父上は冷たくて……兄上も姉上も……私のせいで母上が亡くなったと……」


彼らの冷たい顔を思い出すと心が凍る。それが自然と何も考えないようにしていき、無表情へと変わる。いつもはそうだった。そうだったはずなのに……。


「だから……親にも……家族に愛されなかった私が他人に愛されるわけがないのです」

「そんなわけないだろ。リーネはずっと辛かったのだな……」

「辛い……? でも、私のせいで母上は亡くなったのです。だから、私は……いらない子で……」

「違うな。リーネのせいではないし、俺もリーネの父上たちとは違う。リーネには、ずっと側にいて欲しい」


フェリクス様の言っていることに困惑する。今までそんなことを言う人はいなかった。

誰も私の存在を肯定する人がいなかったのだ。


「私……フェリクス様みたいにヴァルト様とか、友人も誰もいなくて……」

「俺がいるからいい」


無表情のまま、目尻から涙が零れた。いつか自分で力をつけたら一人で離宮から逃げようと思っていた。それまでの辛抱だと……だから、一生懸命に自分にできる魔法を必死で覚えた。

外に出られないから本で知識を得て……何もない日常だったけど、いつか外に出ることを夢見ていたのだ。


フェリクス様が涙を流す私を抱き寄せた。手の中にいたフェレスベルグの子供はピョンと軽く飛んで窓辺の篭に戻ってしまっている。


「リーネ。俺と一緒にいよう。大事にするぞ」

「いてもいいのですか? フェリクス様のご迷惑に……」

「ならない。俺がリーネを婚約者と決めたのだ。誰にも邪魔はさせない」


フェリクス様の腕の中は心地よかった。そっと服を掴んでも彼は怒ったりしない。心の声は聞こえないけど、温かいものは流れてくる。


「……私はいてもいいのですか? ご迷惑はおかけしないように頑張りますから……」

「いてくれないと困るな。リーネのことは気に入っていると言わなかったか? だから、フェンも紹介したんだが?」

「本当ですか? でも、フェリクス様の心の声が聞こえなくて……」

「まぁ、あまり男の声は聞かない方がいい」


よくわからなくてきょとんとしてしまう。でも……


「じゃ、じゃあ私と友達になってくれるのですね!?」

「友達……?」

「はい!」

「友達ぃーー!?」


初めて友達ができると喜んだ。喜んだ束の間に、フェリクス様が叫んだ。宮に響き渡ると思えるほど大きな叫び声だった。その声に心の声まで振動していた。







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